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カース・オブ・トライメライ   作者: オアシス
第1章 トライメライの輪郭
4/18

第1話 眠れずの呪禍 ④

――――――――




「ふん、ふんふん、ふふん」


 女の長閑(のどか)な鼻歌。

 闇夜のカーテンのその裏に、舞台に雰囲気を作る端役のそれだ。


「ああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 主演の下支えである。

 あくまで表に立たないものの、その多大なる存在感の背中を押して引き立てる。


「ふん、ふ、ふん、ふふふふふん」


「ああああああああああぁぁぁっああ!!!」


 人の手が行き届き念入りに整備されてる、とは到底言い難い、不揃いに繁茂する草花の巣を2人は荒らしている。

 車椅子の車輪が時々小石や窪みに取られていたりもする。それなりに力はあるのか、操作に対しては難を示す様子はない。

 道である事はそうなのだが、放置気味から見て、往来の少なさを状態から感じるのだ。

 

 きっと誰に目撃されたとて、怪異譚の一つとして、人々の口渇きを潤すに終わる。

 そうならないよう危惧したか?と言われれば、それは全くもって違うと受け取れる女の呑気。

 偶々(たまたま)だろうな。偶々時間帯、場所の条件が合わさってそうなっている。


「ふん、ふふふ......たしか、ジューン。と、仰っていましたか。大変な目にあってしまいましたね。御愁傷様で御座います」


 鼻歌からリズムの余韻を混ぜた言葉へ移り、しかし返事は壊れたレコード。

 それでも女は気にせずにいる様子だった。


「......あっ、そういえば自己紹介がまだでしたね。私の名前はカルゼリー・メトロプディン。良い名前でしょう? 自分で付けたのですよ」


 1人で話している。

 それは自然と会話が出来ているように。


「ゼリーとプディングから取りました。甘い物と甘い物。2つが合わさって口の中を支配される喜び。クドいくらいが私は大好きなんですよ」


「嫌いな物ですか? 特にありません。......本当にありませんよ? 「嘘だ」とか言わないで下さいね? 哀しくなりますので。深掘りしたとしてそれ以上にないです」 


「ジューン。貴方は()ですね。でも、まだ()が見つかっていない。そう遠くない日に出会える気がしますので、あまり心配せず待って頂けたらと思います」


 カルゼリーの楚々(そそ)な雰囲気とは打って変わり、早口で次々にまくし立てる人としての活力に満ち満ちていた。

 永劫続くかのような錯覚を侍らせて、やがてその足は一つの場所へと辿り着く。


 気付けばその周りには人家が並ぶ。床面の粗悪なコンクリートタイルや、店から零れる喧騒に、何処か街の中の一角に2人は埋もれていた。

 いつ足を踏み入れたのか。どのタイミングであの鬱蒼とした道を外れたのか。何故2人が衆目に晒されずこの場へと立っているのか。それらがやけに不明瞭であった。

 意志薄弱のジューンはもちろんその状況を理解していないが、カルゼリーと言えばその縦に長い家屋の玄関口、上にでかでかと設置された看板を誇らしげに見る。


 Curse of Traumerei


 隠すべきものなど何もないと、白日の元に全てを晒す。

 侮蔑と嘲笑、少しの安心をスパイスに、エデンの箱とも称される。

 呪いを込めた者達の住処。呪禍の虫籠が目の前にあったのだ。


「お仲間は沢山居ますから寂しくありません。お部屋まで運びますので、緊張せずゆっくりと慣れて下さいね」


 導かれし二人は、その扉に鈴の音を鳴らした。

 やけに立て付けの悪い蝶番が、衆目を集める様に響かせて。

 閉じられた後となれば、その世界から狂気の一つが弾かれた。

 人々はそれを安心として受け取るだろう。たとえ列の後部に移されただけの事でも、一時の安らぎがあれば良いのだと。


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