サモン:ダークロード、トランス:ダークロード
魔王級スキルの一部が明らかになります。お楽しみください。
数日後、首都アストレオの空気に微かな緊張が漂い始めた頃――
やっきは自室の机に向かい、一通の手紙に目を通していた。差出人は父親だった。
「アスモデウス……おまえの周りであんな噂が広まっているが、本当に大丈夫なのか?」
噂が城だけじゃなく国全域に回っている証拠でもあった。慎重な筆致に、親としての心配がにじんでいる。
やっきは小さく息をつき、返事を書き始めた。
『心配しないで。僕はいま、人類最強のチーム“HOLY”に選ばれている。これから魔王討伐の遠征に出るところだよ。アスモデウスのことも、自分自身で向き合っていくつもりです。』
そんな矢先、静けさを破るように寮の廊下を駆け抜ける靴音――
「全員、至急集合! 緊急招集だ!」
やっきは返事を書き終える暇もなく、手紙を封筒に差し込んだ。
――
王都の作戦会議室。
集まったHOLYの面々に、司令部から重々しい報告が伝えられる。
「本日未明、“ワールドメッセージ”で告知されたサモン:ダークロードVIIおよびトランス:ダークロードVII――その解析結果が出た。」
部屋が静まり返る。
「サモン:ダークロードVII――
発動と同時に、術者が従える悪魔族モンスターを瞬時に召喚し、全ステータス、HP、MPを大幅に強化、状態異常も無効化される。
解除条件は三つ。魔力切れ、術者死亡、300メートル以上の距離が空いた場合。
ただし、魔力の消耗は著しく、多用は推奨できない。」
ラウ=ラーシオが腕を組みながら、「要するに、強大だがリスクも伴う技か……」と呟く。
「もう一つ、トランス:ダークロードVII。
発動時、術者は魔神へと変身し、全ステータス、HP、MPが劇的に増加、状態異常も一切受け付けない。
さらに、任意の神位級武器を召喚できる能力を持つ。
魔王クラスの力が数倍から数十倍に跳ね上がるが、やはり常時魔力を消耗し続ける。解除条件は魔力切れ、術者死亡、もしくは外的要因で変身維持不能となった場合だ。」
会議室にどよめきが走る。
やっきとラミアスの専用スキル。その桁違いの性能に、誰もが言葉を失っていた。
やっき自身も、手紙の余韻が残る指先をそっと握りしめる。「……本当にこれ、使いこなせるのかな……」
ソレイユが震える声で呟く。「もし敵がこれを使ったら、どうなってしまうんでしょう……?」
「……はい。自分自身でも、まだVIIの真価には及び腰です」と、やっきが正直に応える。
誰もが、この力の“本当の意味”をまだ知らなかった。
「やっき殿、君は“サモン:ダークロードI”から“VII”まで全段階を所持していると報告を受けている。特にVII――君があの時使ったところを目撃した者もいる。ということは、IからVIまでも行使可能とみて間違いないか?」
やっきは少し戸惑いながらも、正直に答える。
「……VIIについては、確かに初回に無意識に使ったことがあります。ですが、IからVIについては、正直使い分けた経験がありません。VIIの真価自体も、自分にはまだ計り知れない部分があります」
周囲に緊張が走る。
司令部の者が静かにうなずく。「目撃情報もあり、君のスキルについてはすでにHOLY全体で共有されている。どこかで正式にその威力を検証しなければなるまい」
ラウ=ラーシオも言葉を続ける。「現状では、君の持つ“サモン:ダークロード”シリーズは我々の切り札だ。だが、未知の側面も多い。今後は訓練および実戦を通して、各段階の性能とリスクを必ず確認していくこと。いいな?」
「……はい」と、やっきは静かに頷いた。
やがてラウが重い口を開く。「……どこかで、本気でこのスキルの威力を検証する必要があるな。
今のままじゃ、使いどころを見誤ればこっちが呑み込まれるだけだ。」
HOLYの仲間たちも、改めて気を引き締める。
やっきは小さく頷き、胸の奥に宿る覚悟を、もう一度強くするのだった。
数週間の訓練と準備を経たある日、HOLY部隊は再び作戦会議室に集められた。
幾度目かの春の嵐が過ぎ去ったあと、HOLY部隊の面々は再び作戦会議室に呼び集められていた。
荘厳な柱が並ぶ会議室の中央には、ラウ=ラーシオが一歩前に立っている。
彼は静かに愛剣を抜き、テーブルの上に置いた。その刃には、幾多の戦いを経てきた深い傷跡と、不可思議な輝きが宿っている。
「みんな、聞いてくれ」
ラウの声が響くと、部屋の空気が一層引き締まる。
「この剣――“龍剣バルムンク”は、全龍オルデリアンの魂を宿し、千年以上もの間、歴代の剣聖に受け継がれてきた伝説の武器だ。
このバルムンクは、数多の魔王と対峙した際に、たった一太刀だけでも魔王の身に“攻撃効果”を与えられる、ほとんど唯一と言ってもいい刃だった。」
言葉の重さに、皆の表情が変わる。
「私がかつて魔王と相まみえたときも、この剣だけが確かに“傷”を残すことができた。
通常の金属や、どんな高位の魔具であろうと、魔王の肉体にも、魔力障壁にも傷一つつけることができない。
だがバルムンクは違う――この剣は、魔王に攻撃効果を与えられる。
これが、伝説の名剣であるゆえんだ。」
ラウは深く息を吸い、仲間たちを見渡す。
「だが、私一人がこの剣を持っていても意味がない。
これから我々HOLYが挑むのは、複数の魔王たちだ。
全員が“バルムンク級”の武器――すなわち、魔王に攻撃効果を与えられる本物の一太刀を手にしなければ、真の戦いにすらならない。
今後、我々がどれほど努力しても、伝説の武器なくして魔王には勝てないだろう」
やっきが思わず息を呑み、仲間たちも緊張の面持ちでラウの言葉を噛みしめていた。
「そのためには、伝説の聖竜――“エリュミリオス”の鱗が必要だ」
ラウの視線が部屋をゆっくりと巡る。
「これから旅の先にある“ゼロ”という町の近郊に、かつて英霊たちが命を賭して封印した聖竜エリュミリオスが眠っている。
そのねぐらに入って、鱗を二~三枚、どうにか確保しなければならない。
聖竜エリュミリオスは全長二百メートル――その鱗は、どんな金属よりも堅牢で、魔力を帯びている。
鱗が二~三枚あれば、全員分の武器を鍛えることができるだろう」
ラウは静かに剣を卓上に戻し、さらに続ける。
「これは、奪うのではなく、“借り受ける”という気持ちで臨むべきだ。
かつての英雄たちが命を懸けて封じた竜。その竜がいまもこの地で人類を守っているという事実は、決して軽んじてはならない。
だが、戦いは避けられない。聖竜エリュミリオスは、五百年前、ファイブゴッドの剣聖をはじめ多くの英霊たちが命を賭してようやく封じた存在だ。
その鱗を得るには、必ずや死闘が待っているだろう」
沈黙が落ちる。
やっきも、ラミアスも、ソレイユも――誰もが自分の手のひらを見つめ、これから挑む試練の重さを受け止めていた。
「私の“バルムンク”は、過去にただ一度だけ魔王の体を傷つける一太刀となった。
その“効果”を、今度は全員が持てるようにしたい。
全員で――本物の伝説の武器を手に入れる。
それが、我々HOLY部隊が“真の勝者”となる唯一の道だ」
ラウは一同を見渡し、最後に力強く宣言した。
「そして、これは君たち一人一人が“英雄”となるための旅だ。
私がいまだ“フォーゴッド”止まりなのは、残りの神殿が魔界にあるからだ。
だが、この旅の中で、皆もまた自分だけの試練と答えを得ていくだろう。
必ずや、その答えは――君たち自身の中に返ってくるはずだ」
やっきは静かに拳を握る。
(バルムンク級……魔王に届く一太刀……。それを、みんなで必ず手にしよう)
仲間たちも、それぞれの武器を見つめ、決意を新たにしていた。
ラウは静かに剣を鞘に納め、最後にもう一度言葉を重ねた。
「これは、伝説を“護持”するための旅でもある。
過去の英雄たちの想い、聖竜の加護――
その全てを背負い、我々は新たな伝説を打ち立てにいく。
――全員で、勝ち取ろう。魔王すら屠る、一太刀を」
HOLY部隊の仲間たちは、重くも誇らしい決意を胸に、旅立ちの日を待つのだった。
王都アストレオの朝。人々はいつものようにカフェで珈琲を啜り、商人は声を張り上げている――その時、世界がふと静止した。
「……今の……何だ?」
「サモン:ダークロードI……って言葉、急に頭に響いたぞ?」
「何も見てないのに背中がゾワゾワして……、あれは絶対“ただ事”じゃねぇよ」
誰もが言葉にならぬ不安を抱え、しばらく息を呑む。
けれど誰も、本当の意味は分からない。ただ本能で「世界が揺れている」ことだけは知っていた。
王都アストレオ内にある大闘技場、そこを貸し切りサモン:ダークロードの試験を行うことになった。
「やっき、まずは一段階目だ」
剣聖ラウ=ラーシオが頷く。
やっきは魔素を右手に集中し、小さく呟く。
「サモン:ダークロードI」
空気が震え、悪魔の右腕が虚空に現れる。
その瞬間、誰にも見えない“波動”が世界を駆け抜けていた。
小規模ながらワールドメッセージがこだまする、それは本能に訴えかける"危機"そのものだった。
「魔力量は通常の十倍以上……精神波形も安定、やっきさんはまだ余裕があります」
巫女ソレイユ・アストレリスが冷静に解析を告げる。
「この規模なら、長時間でも維持可能です」
「魔王の腕だけでこれか。普通の魔術師じゃ、まず立ってられないな」
賢者ミルカ=カレイドが腕を組む。
「使い心地はどうだ?」とラウが質問する。
「まるで空中をつかんでいるような、なんて言っていいのかわかりませんが重さが一切感じられません。」
やっきは不思議そうに手の甲の奥を見るが、深淵と言っていいほどの真っ黒な空間が広がっていた。
「そうか、使い勝手がよいのは好都合だ、ならば一撃行くぞ!」
ラウが静かに龍剣を振るい、僕の腕とぶつける。
光の一閃が鈍く魔王の皮膚に吸収される。
「まだ余裕だな、やっき。だが油断は禁物だぞ」
(主よ、剣を)
突然のアスモデウスの申し出とともに
空中に空間の裂け目ができ、武器の柄らしきものがあらわれた。
やっきはそれを引き抜いた。
「はぁ~これはまたご立派なことで~」
ミルカが目を輝かせている。
やっきの魔王の腕には長さ5mにもなる大剣が握られていた。
ラウは慎重に聞く
「そ、それ本当に重くないのか?」
「あ、はい空気みたいにじゃんじゃんふれます」
ぶんぶんと振り回し
「あぶないあぶない!」
と近くにいた雷王セリスが退散。
「ああ、ごめんなさい!」
そんな様子を見ながらリナリアはソレイユの横で
「男の子って、いいわよね~~~」
と長い余韻でいい、ソレイユは「ははは~ですね~」と彼女の男性の好みについてうやむやにしていた。
* * *
町の人々は日常に戻りかけたその時――また“本能”が訴えかける。
「サモン:ダークロードII……今度はもっと強く、頭にこびりついた」
「何も起きてないのに、心臓が勝手にバクバクしてる。あの小僧、またやったのか?」
誰もが見えない巨大な手のひらに包まれたような、不思議な重圧にざわついていた。
訓練場――サモン:ダークロードII
両腕が虚空から現れ、やっきは5mの剣と3mの盾を構える。
3mの盾は不思議と地面と触れているところは暗黒の空間に飲まれ、やっきの身長でも維持することができていた。
「魔力消費は微増、やっきさんの精神値はまだ安定域。部位が増えるごとに消耗も増します。
長期戦には向きませんが、中期的、一撃必殺、防衛にも最適な構造です」
ソレイユが冷静に解説。
「これはもう人間の技じゃないね。古代の禁呪級だよ!」
ミルカが目を輝かせる。
ラウが再び斬りかかり、やっきは剣で受け止め、大盾で反撃。
雷王セリス=ヴァンシュタインが加勢して雷槍を投げるが、
「くそ、分厚すぎる!」と歯噛みする。
焔将ブラン=ハグレイムも炎を叩きつけるが、全ての攻撃が巨大な盾に吸収されていく。
「この規模、防衛なら無敵だな」
鋼王ガロス=ブレインハートが盾越しに悔しそうにうなった。
サモン:ダークロードIII
やっきはさらに魔力を深く――
「サモン:ダークロードIII!」
地面からアスモデウスの上半身が現れる。
世界がもう一段深く震え、《ワールドメッセージ:サモン・ダークロードIII》が街にも響く。
王都
「サモン:ダークロードIII……! また来た。もう何も手につかねぇ」
「意味もなく泣きそうだ……何が起きてるんだよ」
訓練場
「魔力消耗が増大。精神負荷も上昇です。やっきさん、無理は禁物です!」
ソレイユがすぐに警告を発する。
天を貫くような大きな二本の角、首からのびる赤いたてがみ、そして5mの大剣と大盾、文献に該当するアスモデウスと一致していた。
「上半身のみであるが巨体の召喚……持続と機動力は落ちるけど、火力はトップクラス。拠点防衛や短期決戦には理想的」
ミルカが手早くノートを走らせる。
剣聖ラウが前に出て、龍剣の斬撃を繰り出す。
魔王の上半身が巨腕でそれをいなし、拳聖ヴァリィの連撃も、
影鬼ジークの影の刃も、何ひとつ通じない。
「みんなで攻めても、この圧倒感……」
癒姫リナリア=クローヴが青ざめて呟く。
「サモン:ダークロードIV!」
訓練場を覆うほどの666の文字が刻まれた魔方陣が輝き、ついにアスモデウス本体が降臨する。
世界が重く、広場の空気も張りつめた。
王都
「サモン:ダークロードIV……! 胸騒ぎが止まらない……!」
「見えなくても分かる。世界が今、変わってる……!」
訓練場
「この段階からは危険域に突入。魔力消費と精神負荷、どちらも限界近く。
やっきさん、絶対に異常を感じたら申告してください!」
ソレイユの声が鋭くなる。
「本体召喚……王国史に残る奇跡級現象。研究者冥利に尽きるね」
ミルカの手が震えている。
ラウがトランス:レジェンドヒーローIVを発動、
仲間全員がバフを受け、レジェンド・シールドで鉄壁の守り。
ワールドメッセージがこだまする「トランス:レジェンドヒーローIV」
使用者の全ステータス、HP、MPが大幅に上昇し、状態異常無効になる。
レジェンドスキルを使用可能となる。
町の人々は英雄のトランス:レジェンドヒーローIVの発動に期待や不安を散りばめていた。
「剣聖がついに英雄スキルをつかったぞ!」
「人類最強の力、魔王に通じるのか…?」
ラウが放つレジェンド・ブレード――大地を割る斬撃すら、
アスモデウスは巨腕でいなしてしまう。仲間たちが一斉に攻撃しても、
その圧倒的な存在感に誰もが一歩も引き下がれない。
「これが、魔王……!」
雷王セリスが声を震わせる。
魔方陣が光り、アスモデウスが地上に降臨した瞬間、
世界が悲鳴をあげるように震えた。
《ワールドメッセージ:サモン・ダークロードV》――
その気配を、町の人々はただ黙って耐え、息を呑む。
王都
「今度は……V。なぜか名前だけ胸に残る。怖いくらい空気が重い」
「今までと何かが違う、世界の色が変わったみたいだ」
訓練場
「全員で行くぞ――!」
剣聖ラウが叫ぶ。
雷王セリスが雷槍を振りかざし、焔将ブランは炎の塊を投げつけ、
拳聖ヴァリィが大地を砕く一撃を放つ。
影鬼ジークは一瞬の隙を縫い、影刃で急所を狙い、
鋼王ガロスは黄金の盾で前線を支える。
天騎アルノーが天空から奇襲し、癒姫リナリアは仲間の傷を即座に癒やす。
賢者ミルカが魔法障壁と支援魔法を展開しながら、
「……今のアスモデウス、さっきまでより遥かに強い。
明らかに“本体そのもの”の魔素量も出力も段違いになってる!」と声を上げる。
ソレイユも結界を張りながら、
「やっきさん……この個体は“ただの召喚”じゃありません。
間違いなく、強化されています! 通常の魔王を超えています……!」と冷静に解析する。
全員の最強技が次々と繰り出される――
しかし、アスモデウスはそれらを容易く受け流し、
反撃の一振りで前線を一掃するほどの暴威を見せる。
「くそっ、まったく歯が立たねぇ……!」
焔将ブランが叫ぶ。
「いや、まだだ……!」
ラウは何度もレジェンド・ブレードを大地に叩きつける。
それでも、直径百メートルの斬撃が霧のようにいなされてしまう。
「本当に、魔王の壁は分厚い……」
拳聖ヴァリィも顔をしかめる。
「防御も攻撃も、“格”が違いすぎる……」
影鬼ジークが呟く。
「仲間全員で挑んで、ここまで敵わないなんて……」
癒姫リナリアが祈るように手を組む。
「やっきさん、もう限界です! 精神数値も魔力も、これ以上は本当に危険!」
ソレイユの声が必死さを帯びる。
「これ以上は本当に――死に至ります!やめてください!」
はっと我に返ったやっきは「ありがとうございます、ちょっと魔力消費しすぎて意識が飛んでいました」
サモン:ダークロードV解除…
666の召喚門にしずかにアスモデウスは沈んでゆく。
「やっきさんが意識不明でも自分の判断で動き、やっきさんの意思のみで剣を振るうようですね」
ソレイユが寄り添い簡易的な魔力を送り込む呪文を唱える。
訓練場の静寂を破って、重厚な足音が響く。
王国の重臣がフルポーションの入った小瓶を両手で差し出した。
「やっき殿、もし次の段階に挑むなら――これを。
“世界樹の根本”から採れる奇跡の回復薬、フルポーションだ。
王都でも年に十本しか出回らぬ貴重品……この場でしか使えぬが、体力も魔力も完全回復するはず」
瓶を受け取り、中身の神秘的な緑色の液体を一気に飲み干す。
冷たい清流が体を貫き、傷も疲れも、魔素の底まであふれるように蘇っていく。
「やっき、どうだ?」
肩で息をしながら剣聖ラウ=ラーシオが問う。
「……すごい、全身が軽い……! 魔力も、完全に満ちてる」
僕は拳を握って確かめた。
サモン:ダークロードVI――新たな壁
「これでVI段階も検証できるな。安心して全力を尽くしてくれ」
大臣が穏やかに微笑む。
やっきは大きくうなずく。「いきます。サモン:ダークロードVI!」
空気が裂け、漆黒に満ちた赤色をした666の魔方陣が地平線まで伸びる。
世界中が息を潜めるその瞬間、《ワールドメッセージ:サモン・ダークロードVI》が、
本能に刻み込まれた。
現れたアスモデウスは、以前とは比べ物にならない気配を放っていた。
だが、どこか余裕を持ち、暴走する様子はない。
「本気で来いよ、アスモデウス!」
雷王セリス=ヴァンシュタインが槍で突撃。
焔将ブランは大火球をぶつけ、拳聖ヴァリィは強烈な一撃を叩き込む。
賢者ミルカがすぐに反応する。
「妙だな……やっき、明らかに“本気の全開”じゃない。力の一部を押さえている感じがする」
ソレイユも目を細める。
「手加減されている……いえ、やっきさん自身の意思に沿う形で制御されているのでしょう。
アスモデウスが本来の暴威を振るえば、私たちはとっくに消し飛んでいるはず……逆に安心できます」
「なるほど、やっきの心に従う魔王……これも“器”の証か」
幻帝ダグ=バロットが静かに頷く。
20分もの間、全員で攻撃し続ける。
雷光も炎も斬撃も、すべて余裕で受け止められる。
それでも、アスモデウスの巨体は誰にも“本気”の牙を向けてこない。
リナリアがそっと微笑む。「やっきさんがいる限り、私たちは守られているのかも……」
「ソレイユ様、やっきの魔力値は?」
剣聖ラウが指示する。
ソレイユが計測器を覗き込む。「魔力残量、臨界にはまだ余裕がありますが、
安全を考慮し、ここで一度召喚を終了してください!」
「了解、終わります!」
やっきは手のひらをかざし、アスモデウスを解放する。
黒い巨体が666の魔方陣の中に静かに消え、空気が柔らかく戻ってくる。
「本気でやり合って、ここまで“安心”を感じたのは初めてかもしれないな」
雷王セリスが笑う。
「これもやっきの“意思”だ。
魔王を従え、制御する器として成長している」
拳聖ヴァリィが頷く。
「やっきくん、私たちは本気でぶつかった。でも全部見抜かれてた気がするよ」
賢者ミルカが感心しきりに言う。
「みんな、ありがとう。僕もみんなの信頼に応えたい――必ずラミアスを止めてみせる」
やっきは静かに誓った。
* * *
魔界・王座の間
「器として成っているようですな、ラミアス様」
老執事アルベルトが静かにまどに向かって葉巻を吸っている。
ラミアス=ルシファーは紅い瞳を細め、玉座で不敵に笑う。
「やっき、ここまで来たか……。だが、“本物の器”なら、最後に必要なのは――“覚悟”だ」
アルベルトは衝撃のアルベルトのオマージュです。
執事なのにクソつえーんすわ