エピローグから第5章まで(ラノベ1冊分)
中学生のころから中二病にわずらっていてこの有様です。
【プロローグ】
かつて、王の双子は生まれた。
その日、魔界の空は赤黒く染まり、灼熱の火柱が絶え間なく地を割っていた。
王族にして魔族の名家、ルシファー家の王宮には、ただならぬ気配が漂っていた。
長く後継者を持たなかった現当主、エイジス=ルシファーが、ついに後継ぎを得たのだ。
しかも、それは「双子」。
魔族において双子の誕生は、めったにない。
いや、「あり得てはならぬもの」として、古より忌み言葉とされていた。
──王道はひとつ。二つの魂が並び立つことは、必ず争いを呼ぶ。
それが魔界の、血の律法だった。
「名前など要らぬ。片方は捨ててこい」
それは、冷たい声だった。
何の迷いもなく、ただ規則のままに告げられた言葉。
それを前に、双子を産み落としたばかりの人間の女──エミリアは、言葉を失った。
エイジス=ルシファー。
魔界でも指折りの名家・ルシファー家の当主にして、あらゆる魔法体系において“完成された天才”と謳われる男。
その才能は神域にすら及ぶとさえ言われ、魔王の中の魔王と恐れられた。
だが彼は、徹底した合理主義者だった。
双子は争いを生む。
王の血を継ぐ者がふたり並び立つなど、愚かの極み。
それは、魔界の掟でもあり、魔族には双子は産まれない。
「お前が産んだのだから、お前の手で始末しろ。魔界の谷に捨ててくればよい」
自らの手で我が子を殺すか、谷に落とすか。それが魔界における“慈悲”であった。
エミリアは黙ったまま、赤子を抱いて魔界の谷へと向かう。
夜の瘴気が渦巻く、命ある者を拒む場所──そこに、命の片割れを“処理”することを命じられた。
──だが、彼女は捨てなかった。
「ごめんなさい……私にはできないの。母親として、あなたを殺すことなんて」
そうして彼女は、魔界を捨てた。
禁を破り、異界の門を越え、人間界の森の奥へと姿を消した。
生まれたばかりの片割れを、胸に抱いて。
その子には、まだ名前すらなかった。
【第一章】
森に眠る光、目覚めの時
それから、どれほどの時が過ぎただろうか。
場所は人間界、北方の深い森。
季節は初夏。風に運ばれた湿った土の匂いが、濃緑の葉の隙間をすり抜けていた。
この地の外れに、小さな村がある。
街道からも外れたその村で、慎ましく生きるひと組の夫婦がいた。
グレンとマリア。
子を持たぬふたりは、互いを支え合いながら、狩りと家事で生活していた。
グレンは狩人。森を歩き、小動物を捕り、時には木の実や薬草を集めては街へ下ろしていた。
マリアは保存食の名人で、草薬の調合にも長けていた。
ふたりの暮らしは質素だったが、静かで、穏やかだった。
その日、グレンは獣の気配を追って、森のさらに奥へと足を踏み入れていた。
普段は決して立ち入らぬ深部。だが近ごろ、獣が少なく、町にも出られず、やむなく奥地へと進んでいた。
やがて、彼の足が止まる。
「……なんだ、こりゃ」
大木の根元に、ぽっかりと開いた“穴”があった。
それは洞ではなかった。誰かが人工的に作ったかのような、小さな石室だった。
苔むし、崩れかけた石壁の中に、光る何かがあった。
──繭。
それは白く淡い光を放ち、人の姿のように見えた。
グレンは近づき、ゆっくりと手を伸ばす。
繭が、震えた。
光が薄くなり、中から──赤子の泣き声が響いた。
グレンは思わず後ずさる。
だが、次の瞬間、確かに“人の温もり”をそこに感じた。
「……赤ん坊……なのか?」
傍らには白骨が横たわっていた。
細い腕、衣の残骸、枕元には古い日記のような革表紙の本。
彼は手に取った。最後のページに、こう記されていた。
──「この子を見つけた者へ。どうか、この子を生かしてほしい。名前も、何も与えられなかったけれど、彼はきっと、世界を変える力を持っている。エミリアより」
グレンはそっと、赤子を抱き上げた。
体は温かく、泣き止んだその瞳は、まっすぐ彼を見ていた。
「……運命、ってやつかもしれねぇな」
その日から、ひとりの少年が、ふたりのもとで育てられることになった。
彼の名は──やっき。
やっき──と名付けられたその少年は、すくすくと育った。
金の髪と赤い瞳。
その姿は村にとって異質だったが、マリアとグレンは惜しみない愛情を注いだ。
マリアは歌をよく歌い、やっきを膝にのせて小さな糸車を回して聞かせた。
グレンはやっきを背負って狩りに出かけ、森の歩き方、罠の張り方、獣の息遣いを教えた。
「この子……ほんとに、拾いものだったのかしら」
「いや、たぶん……星が落っことしたんだろうよ」
そんな会話が、家の中ではしばしば繰り返された。
ある日、マリアは街から戻ってくると、星読みの結果を持ち帰ってきた。
「この子……“月の加護”を受けてるって」
「月……? 星じゃなくて?」
「うん。どの星にも属していない。むしろ、星を超えてるって。神官さまがすごく珍しいって、驚いてた」
月の加護に属する者──それはこの世界では極めて稀だ。
星々の下に生まれた者は、生業や魔力の特性に応じて分類される。
だが、月は違う。“定義されない者”、“道を持たぬ者”、“運命を変える者”。
やっきは、夜によくうなされた。
特に満月の夜になると、深く眠りながら汗をかき、時折、口の中で何かをつぶやいた。
「……黒い……翼……赤い……たてがみ……」
「やっき、起きて。悪い夢、見たの?」
「……ううん……ごめん。怖くないのに……怖かった」
そんな夜が続いたあるとき、村で恒例の「魔力量測定」が行われる日が来た。
村の広場に設けられた魔力水晶。
子どもたちが順に触れては、炎や水の魔力を反応させていく。
やっきもその列に並んだ。
やっきが水晶に触れた瞬間──
赤い光が閃き、次の瞬間に水晶は破裂した。
「……っ!?」
村人たちがざわつく。
「な、なんだ今の!?」「測定器が……壊れた?」
測定不能。
それは、“魔力量が規格外”である証だった。
「こりゃ……国に報告もんだぞ」「いや、下手に手を出すと災いを呼ぶって話も……」
マリアは震える手で、やっきの肩を引き寄せた。
グレンは眉間に皺を寄せて、ただ周囲を睨んでいた。
その夜、やっきは静かに言った。
「僕……みんなと違うの?」
マリアは笑った。
「違うわ。……でも、それでいいのよ。あなたは、私たちの子だから」
やっきは、ただ黙っていた。
けれどその胸の奥では、何かが目を覚ましかけていた。
【第二章】
師を超える子、知を授く者たち
やっきの測定不能事件は、村の外にも広まった。
「北部集落に、魔力計を破壊した子供がいるらしい」
「月の加護を受けているという噂も……」
「もしかして……魔族の血か?」
そんな囁きが王都の外郭にまで届いた頃、村にひとりの老魔導師が現れた。
名はルーデン・バルザーク。
王立魔術院の外郭研究員にして、幼児魔導教育の第一人者。
だが性格は偏屈、礼儀に厳しく、口数の少ない厳格な老騎士のような人物だった。
彼は村に来るなり、マリアとグレンの前でこう言った。
「……魔力量、全属性適性、そして星に属さない加護……。
この子は……“王級”だ。否──“獣”かもしれん」
最初の授業は、魔力の基礎知識だった。
魔力とはなにか、魔法陣とはどういう意味か、詠唱の構造と接頭語と構文制御。
やっきは、話を聞きながら、指先で魔法陣を正確に再現していた。
「……次は火の初級魔法、スパークだ。感情を込めて、“炎”の精霊に語りかけ……」
「こう、ですか?」
ぽん、と空中で灯った火花は、美しい螺旋を描いた。
「……水も、いけますか?」
やっきは湖のように滑らかな水の弧を作り、次いで風と土、そして闇と光を織り交ぜていく。
最後には、全属性を混ぜ合わせた魔法──“エレメンタル・ブレンド”さえ、自力で生み出していた。
ルーデンは言葉を失った。
やがて一週間の滞在予定をさらに三週間延長し、やっきに“制御”と“抑制”を教える日々が続いた。
だが、やっきの吸収速度は常軌を逸していた。
「……教えることは、もう何もない」
ルーデンは、最後の夜に村の広場でそう言った。
村人たちを前に、彼は語る。
「この子の魔力量は、王立の最高位すら凌ぐ。
属性適性は、すべてにおいて完全な同調。
そしてなにより──制御能力が、異常だ。これは、“ブラッドアーク”級だと判断する」
ブラッドアーク──それは、王都でさえ“伝説の魔導士”として扱われる魔位。
通常は戦場で英雄的活躍を果たした者か、国家魔導院の主席を務めた者にのみ贈られる称号だった。
「……この子は、いずれ最上位の魔法ランク“アルカナ・オーロラ”すら超えるかもしれん。
だが……その先に、何があるかは、誰にもわからん」
やっきは、その言葉の意味をまだ知らなかった。
けれど、彼の瞳は、夜空の月を静かに映していた。
王都アストレオ。
七本の塔と円形の城壁に守られたこの地は、魔法文明の中心地として知られている。
その中心──星環区にそびえるのが、グラン・ルクス王立魔導学院。
魔術・錬金・天文・戦術・儀礼の五大学科を備え、貴族と王族の子弟が学ぶ、王立直属の最高学府。
ある春の日、そこに平民の少年が足を踏み入れた。
──やっき。
村のものがお金をだしあって精一杯の身なりを整えたが、とこか垢ぬけない印象は否めない。
推薦状にはこうあった。
「ブラッドアーク級相当。全属性適性あり。指導不可。」
推薦者は、ルーデン・バルザーク。
魔導院の教師たちも、この少年の来訪にざわつきを隠せなかった。
入学試験は三日にわたって行われた。
初日:魔法理論と基礎学力。
二日目:魔力量と属性適性の測定。
三日目:実技試験──「50メートル先の的に魔法を命中させよ」。
試験官はいう。
「自分の中で一番強い魔法を使いなさい、そうしないと届かないだろう」
やっきは、三日目の試験で、試験官に静かに言った。
「本当に一番強い魔法を使っていいんですか?」
試験官はいう。
「さっさと始めろ、失格になりたいのか」
彼が選んだ魔法は──デルタ・サン。
かつてルーデンとの修行中に自然と使えるようになった特別威力があった灼滅魔法。
この世界に存在する三つの太陽が、一瞬だけ強く輝く──そのとき、灼光が一点に集中し、すべてを焼き尽くす。
「撃ちます」
試験場の空が、白く塗りつぶされた。
通常ではあり得ぬはずの三太陽が、同時に強烈なフラッシュを放つ。
その直後、地面が揺れ、試験棟が爆音と共に崩壊する。
「っ……!?」「避けろ!!」「試験棟がっ!」
煙が晴れた後、直径百メートルを超える焦土が広がっていた。
標的は……跡形もなかった。
やっきは、試験官の方へ向き直って、深く頭を下げた。
「……ごめんなさい。やっぱり、強すぎました」
その日、やっきは史上三人目の特別研修生として、合格を言い渡された。
学院生活は、孤独だった。
周囲は貴族か王族の子弟。
デルタ・サンの件もあり、やっきには“近寄ってはならない者”という烙印が押された。
やっきは、目立たないように教室の端で静かに座り、いつも一人で食堂を済ませ、屋上で過ごした。
だが、彼は決して卑屈ではなかった。
むしろ、凛としていた。
だからこそ──一部の女生徒からは「クールでかっこいい」と噂され、
三ヶ月に一度ほど告白されるようになった。
「……僕、ただの平民ですから。すみません」
そう言ってやっきは、すべてを丁寧に断った。
模擬戦では教師とばかり組まされ、クラスの中で孤立気味。
だが、その実力は、誰よりも制御され、洗練されていた。
夜。
月が満ちる日。
やっきはまた、夢を見る。
──黒い翼。
──赤いたてがみ。
──天を裂くような、大きな剣。
その姿はいつも、やっきの視界の奥に、立っていた。
【第四章】
日輪の巫女、啓示と邂逅
王都アストレオ、神殿区。
七神の象徴が並ぶこの場所に、ひときわ大きな神殿がある。
そこに暮らす少女の名は──ソレイユ・アストレリス。
新暦2162年、太陽神ソル・マグナが最も強く輝いた日に生まれた彼女は、百年に一度選ばれるとされる“日輪の巫女”として育てられた。
ソル・マグナの加護をうけて産まれた彼女は特異体質で、未來視の能力をもっていると伝承で伝えられる。
生まれた直後に王家の使いによって家族と引き離され、
以後、巫女としての英才教育を受けてきた彼女の生活は厳格だった。
神託の書を読み解き、歴代の巫女の記録を学び、日々の祈祷と瞑想を欠かさない。
神殿から出るのは年に一度、馬車に乗った外遊のときだけ。
常に執事と護衛の監視下にあり、誰かと自由に話すことさえできなかった。
けれど、彼女の心には密かな悩みがあった。
それは、繰り返し訪れる神託──
「第一魔界の王、ラミアス=ルシファーが敗れる」
ラミアスは歴代最強の魔王。
神の加護をも超える存在とも言われる。
その彼が“敗れる”という予言に、神官たちは震え上がった。
だが、誰に、なぜ敗れるのかは──預言に記されていなかった。
そして、運命のときが訪れる。
十五歳の春。
王都から郊外の村へと神託を広める外遊の帰路。
ソレイユが馬車の窓から見たのは──ひとりの少年の姿だった。
金の髪。
赤い瞳。
静かな気配。
そして、どこか孤独をまとう背中。
その瞬間、彼女の中で何かが爆ぜた。
頭の中に、鋭い光が走る。
神託が、鎖を解かれるように流れ込んできた。
──その者、月の加護を受けし存在。
──その者、災厄と運命の分岐をもたらす者。
──その者こそ、ラミアスに抗い得る唯一の光。
「──止めて。馬車を止めてっ!」
突如、叫んだソレイユを、執事が強く押しとどめる。
「巫女様、いけません! ここでの外出は禁じられております!」
「でも……彼に会わなきゃ……!」
彼女の声は、車輪の音にかき消される。
やっきは、こちらを振り返らなかった。
彼の姿が角を曲がって消える、その一瞬前。
ソレイユは確かに見た。
──彼の目が、寂しげに、しかしまっすぐに“未来”を見ていたことを。
その夜、神殿に戻ったソレイユは震えていた。
(あの子……。あなたが……鍵なのね)
けれど、それでも告げられなかった。
なぜなら、もう一つの啓示が遅れてやってきたからだ。
──アスモデウスが目覚める。
──封印が、砕ける。
「そんな……急にっ……!」
いつもは冷静なソレイユが、思わず声を荒げる。
(少年が“鍵”だって、あんな形で知ったのに……)
そして彼女は、ひとつの決断を下した。
学院の制服を魔法で偽装し、城を抜け出す。
──もう一度、彼に会いに行くために。
学院の屋上で、やっきはまたひとりだった。
風に髪を揺らし、ノートを広げて呪文の筆記練習をしていた。
ソレイユはそっと扉の影からその姿を見つめた。
話しかけたかった。
けれど、できなかった。
(あなたの孤独が、私に届いた。
今はまだ届かなくても、いつか……私が、あなたの隣に立てるように)
夜の風が冷たく吹き抜ける。
けれど、彼女の胸には確かな温もりが芽生えていた。
彼が、運命を変える。
それだけは──確信だった。
【第五章】
封印の扉、開かれる時
王都アストレオ、最深部の禁域。
そこは、かつて世界を焼き尽くしかけた魔王──アスモデウスが封印された場所。
第一魔界の王、ラミアス=ルシファーが自ら施した術式で封印されたと記録されている。
だが今、その封印に“揺らぎ”が観測された。
「……アスモデウスの封印が、解かれようとしています。王よ、対処せねば」
王宮魔術師団は、緊急で術式の再封印を決定した。
ただし、その封印構造は魔王級の魔力によって組まれたものであり、人間の魔術師だけでは完全な制御は不可能とされていた。
──だからこそ、彼の名が挙がった。
やっき。
デルタ・サンを放ち、測定不能の魔力量を持つ少年。
彼ならば、再封印の「媒介」として役立つかもしれない。
封印の祭壇へと案内されたやっきは、精鋭の王宮魔術師たちに囲まれながら、再封印の儀に臨むこととなった。
巨大な魔法陣が展開される。
やっきは祭壇の中央に立ち、魔力を核へと注ぎ込んでいく。
まわりでは詠唱と結界制御が絶え間なく続いていた。
──しかし。
その最中、空間が“裂けた”。
魔導場が瞬間的に反応を喪失。
結界がたわみ、赤黒い瘴気が揺らぎの隙間から流れ込んでくる。
「……結界に異物侵入!? 魔力源、外部からの干渉ッ!」
詠唱が一瞬止まり、警戒の声が響いた。
そして、黒と銀の長衣をまとった人影が、虚空から姿を現す。
──ラミアス=ルシファー。
彼は一言も発せずに結界の中へと踏み込み、紫の光輪が額に静かに浮かんでいた。
空気が凍る。
王宮魔術師たちは言葉を失い、やっきですら反射的に魔力を張った。
「っ……第一魔界の……ラミアス……」
ラミアスは祭壇に目をやり、わずかに眉をひそめた。
「……これが再封印か。滑稽だな。人間どもが寄ってたかって、俺の術式に触れるとは」
その声は低く、冷たく、揺るぎがなかった。
やっきは視線を合わせて、息を呑んだ。
──似ている。
目の前の男の姿は、あまりにも自分に似すぎていた。
髪の色、瞳の輝き、骨格、体格、その存在の“気配”さえも。
ラミアスの瞳も、僅かに揺れた。
「……なんだ、貴様は……」
言葉にできぬ直感が、ラミアスの胸を刺した。
どこか、自分の“欠片”のような存在。
それが、なぜこの場に立っている──?
そのときだった。
封印の核が赤く脈動し、再封印陣が制御を失う。
「ダメだ、暴走する! 術式が逆流してる──!」
やっきの中に、何かが“囁いた”。
──触れろ。
──呼べ。
──主よ。
気がつけば、やっきの手が封印核に伸びていた。
誰よりも早く、ラミアスが叫ぶ。
「やめろッ!」
だが、その瞬間──
──<サモン:ダークロードVII>
ワールドメッセージが、世界に響き渡った。
空の下に生きるすべての存在──獣も、人も、神も、魔も、
この瞬間、ただ“本能”で知った。
──最上級召喚術が発動された、と。
──災厄が今、この世界に呼ばれたのだと。
空間が裂け、666の魔法陣が三重に展開された。
逆三角の頂点から、赤黒い魔力が噴き上がる。
天井が崩れ、地が軋む。
そこから、災厄の王が現れた。
──アスモデウス。
5mの巨体。
黒と金の魔鎧に包まれ、天を貫くような角と、光り輝く赤いたてがみ。
その翼は夜を切り裂き、空気そのものを支配していた。
彼は、やっきの前に立ち──言葉を発した。
「主を確認。私が守護する。……久しいな、ラミアス」
ラミアスは目を見開いた。
やっきとアスモデウスの立ち位置。
主従の関係。
何より、自分と瓜二つの少年が“主”であるという事実に、動揺を隠せなかった。
「その少年を守る……!? まさか、召喚主が……貴様なのか……」
アスモデウスが一歩、踏み出す。
空気が振動し、魔力が戦場のように渦を巻く。
ラミアスは剣を抜こうとしたが、その直前、結界内が完全に崩壊。
騒然とする魔術師たちを見て、彼は一歩引いた。
「……今ではない」
そう残し、転移陣を展開して姿を消す。
静寂が訪れた祭壇の中心で、やっきはただ呆然と立ち尽くしていた。
心の奥に、もう一つの存在が確かに“根を下ろした”ことを感じながら。
「……君、誰……?」
反応が良ければ最後の構想までしっかりあるので書きます