47、インディ
「ここが、インディ」
着陸した機から降り、サヤは興味深そうに辺りを見渡した。
「そ!インディへようこそ!サヤちゃん、ナジェル、アクティス」
「我々は、貴方方を歓迎する」
降りた機体を前に、改めて挨拶をするキーラムとハーネス越しに見えるのは、やはりとても特別な機と見え、サヤは、自分たちを乗せたことを不思議と首を傾げる。
「この機体、本当に素晴らしいわよね」
「それはそうだよ!だって空飛ぶお城ちゃんは、マジェスティのための機なんだから!」
「え」
無邪気なハーネスの言葉にサヤが固まるも、ハーネスも、キーラムでさえもそれに気づくことなく、先を歩むようにと促した。
「それにしても可笑しなものだな。こうしてインディに居るなど」
『敵地のはずなのだが』と、ナジェルも感慨深い様子で歩いて行く。
「しかし、様子がおかしい。基地にしては、閑散とし過ぎている」
サヤやナジェルと並んで歩きながら、アクティスは警戒するように前を歩くハーネスの背中を睥睨した。
「確かに」
「言われてみれば、そうね。人の姿も見えないし。でも、今は使われていない基地とか、それこそ、マジェスティ専用の場所とか、なんじゃない?」
アクティスの言葉に、ナジェルとサヤがそう返した時、人の姿とは程遠い、楕円の形をした機械が、皆の横を通った。
「今のは、機体の整備を担当する機械人形だよ。丸っこくて、可愛いでしょ」
「機械人形が、稼働しているのか」
トルサニサでは見ない光景に、ナジェルが瞳を輝かせる。
「インディでは、それぞれ専門の機械人形が、労働を担っています」
「そうか。機械人形は、皆あのような形をしているのか?」
「いえ。屋敷内で働く者は、より我々に近しい造りをしています」
キーラムの説明に、ナジェルは考えるように頷いた。
「インディは、機械文明が発達しているんだな。そんな情報、聞いたこと無かった」
「トルサニアンのように、特殊な能力を有しませんから、情報規制は大きな意味を持っていたのです」
何故か過去形でそう言ったキーラムに、アクティスが鋭い視線を向ける。
「それで?今のこの基地の様子と、貴様が過去形で話したことの関係は?」
「お察しの通りです。この基地も、かつては多くの機体が離着陸し、人間や機械人形が忙しく立ち働く、とても活気のある場所でした・・・といっても、自分はそう記録されているだけで、見たことがあるわけではありませんが」
インディの歴史を記録された機械人形、それが自分たちシュバリエなのだとキーラムは語った。
「一体、インディに何があったんだ?」
「もちろん、それもきちんとお話しいたします。ですが、まずはマジェスティの待つ場所へ急ぎましょう」
それほどの技術を持ちながら、と首を傾げるナジェルに、キーラムが余裕の無い様子で答える。
「そうだよ。早く、マジェスティを見てもらわなきゃなんだから・・・あ、ロッド!」
サヤたちを振り返り言ったハーネスが、嬉しそうに瞳を輝かせ、ふわふわな髪をなびかせて後方へと走って行った先には、ハーネスやキーラムと同じように人型をした、否、人としか見えない男性が居た。
「ハーネス。そういった行為はよせと、いつも言っているだろう」
「いいじゃん!俺とロッドの仲なんだから!それより、ほら。こちらが、トルサニアンのお嬢さんとお坊ちゃん。お嬢さんの名前は、サヤちゃん。で、こっちの黒い短髪の彼がナジェルで、藍色の髪のお坊ちゃんがアクティス」
呆れたようにハーネスを見た銀色の髪の青年は、その銀色の瞳をサヤたちへと向ける。
「ご挨拶が遅れました。ロッドと申します」
「ロッドはね、空飛ぶお城ちゃんの操縦者で、整備も担当しているんだよ。空飛ぶお城ちゃんは、色々複雑な造りをしているから、ロッドじゃないと駄目なんだって!凄いよね、ロッド」
本人であるロッドより多くの説明をしたハーネスが、自慢するようにロッドの腕にぶら下がった。
「ハーネス。幾度も言うが、あの機体の名はパレスだ」
「えええええ。だって、マジェスティが乗るんだから、お城ちゃんでいいじゃん」
へへへと笑うハーネスと、そんな彼を腕にぶら下げたままのロッドは、傍から見えれば仲のいい兄弟にしか見えない。
「ハーネス。そこまでにしておけ。急いでマジェスティの所へ行くのだろう?」
「あ!そうだった!急がないと!」
キーラムのひと言で、ぴしっとなったハーネスが、今度は、速く速くと皆を急かしだした。
「騒がせて、申し訳ない」
そう言って頭を下げるキーラムに、サヤは微笑みながら首を横に振る。
「大丈夫です」
ふふ。
キーラムは、苦労性の長男というところね。
「ここよりは、こちらにお乗りください」
そして、ひとつの乗り物と思しき物が停まっている場所まで来ると、キーラムはそう言って、その丸い乗り物と思しき扉を、操作して開けた。
ありがとうございます。