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トルサニサ  作者: 夏笆
43/51

42、シュバリエ







 風のような速さで。


 その言葉が比喩ではないほど高速で移動した、否、させられたサヤは、気づけば既に機内にいた。


 「あ、あの・・・」


 見渡しても、見覚えなど欠片も無い機内。


 そこを、頭まで黒いコートで隠した男に抱え上げられたまま、何処かへ運ばれている。


 つまりは攫われたのだということは分かるのだが、サヤを抱え上げる腕に乱暴さは欠片も無い。


 むしろ、壊れ物でも扱うかのように、とても大切に扱われている状態に、サヤは密かに混乱した。




 一体、何のために攫ったというの?


 機密を聞き出すのなら、もっと上層部を狙うでしょうし。




 「あの。下ろしてください」


 一士官学生に過ぎない自分を何故、攫ったのか聞き出す必要がある、とサヤが思い切って声を発した時、目的地に着いたのか、サヤを抱えている男が扉と思しき場所の前に立った。




 扉?


 でも、取っ手が無いわ。




 中央に線らしきものは走っているが、それだけだと見つめるサヤの前で、扉が音もなく開く。


「え?どういうこと?」


 どのような仕組みになっているのか、思わず気を惹かれたサヤは、抱えられたまま室内へ入ることとなり、その豪華さにまた目を瞠った。


「凄い・・素敵な部屋」


「お気に召したのなら、何よりでございます」


 サヤを抱えて来た男は、丁寧な口調でそう言うと、サヤをそっと柔らかい毛足の絨毯の上へ下ろし、自分はその前に跪く。




 え?


 なに?


 どういうこと?




「このたびは、理由があったとはいえ、大変な失礼をいたしました」


 サヤが戸惑っているうちに、そう謝罪の言葉を口にした男が頭からフードを外せば白金の髪が流れ落ち、その澄んだオレンジ色の瞳がサヤを真っすぐに見上げて来る。




 きれいなひと。




 男性だということは分かるが、美しいという表現が何より似合う、とサヤは心のなかで感嘆した。


「わたくしはキーラムと申します。インディにて、シュバリエを任じられている者です」


 言って、キーラムはサヤへと改めて一礼する。


「インディ」


 その国名に、サヤは呻くような声をあげた。


 大陸国家インディは、トルサニサにとって最大の敵国。


 その国が何故、とサヤは改めてこの丁重な扱いに戸惑いを覚えた。


「今、わたくしどものマジェスティが緊急事態なのです。お守りするには貴女方トルサニアンのお力を借りるしかなく。それ故、強行な手段を取らせていただきました」


 片手を胸に、マジェスティへの誓いを示す姿勢は凛々しく、その瞳には強い忠誠の光があって、国王というものを持たない国のサヤは、魅入られるように見つめてしまう。


「どうか、マジェスティの危機をお救いください」


 丁寧に頭を下げられ、サヤは混乱するままに口を開いた。


「私は、何の力も持たない学生です。それに、インディといえば、こちら、トルサニサとは因縁の国。勝手な行動をするわけにはいきません」


「お願いします。この宝玉が示した貴女なら、マジェスティを救うことが出来ます」


「宝玉?」


「はい。代々、我が王家に伝わるもので、トルサニアンのなかでも、特別な力を有する方を見つけ出すものです」




 代々王家に伝わる宝玉、って。


 そんな凄いものが、この世にあるの!?


 それに、あんなにきれいな宝石が、力を判別できるなんて・・・・すごい。




「あ!居た!いらっしゃい!トルサニアンのお嬢さん。キーラムは、乱暴じゃなかった?」


 思わずキーラムが差し出した宝玉に見入ってしまったサヤは、またも突然開いた扉から聞こえて来た元気な声に驚いて、ぎょっと飛び上がってしまった。


「ハーネス。驚かすんじゃない」


「ごめん、ごめん。だって、早く会いたかったからさ」


 そう言って片目をつぶって見せる、金色の髪と瞳をした青年は、サヤの前まで来ると、キーラムと並んで跪く。


「失礼をいたしました。自分は、シュバリエのひとりハーネスと申します・・・・と、お堅い挨拶はこのくらいで。これから、マジェスティ共々よろしくね。トルサニアンのお嬢さん」


 真面目な様子できりりと挨拶をしたのち、ハーネスは砕けた口調でそういうと、弾けるような笑顔を見せた。



ありがとうございます。

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