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トルサニサ  作者: 夏笆
39/51

38、体調不良







「な、なんてこと」


 とある休日の昼過ぎ。


 朝から具合の悪かったサヤは、食欲も湧かないままに、それでも何か食べなければ、と食堂の入口付近へ跳ぶも、着地の際に眩暈がしてたたらを踏んでしまい、ひとり絶望して壁に寄り掛かった。


「何をしている」


「ああ・・アクティス。何だか貧血みたいで、世界がまわっているの」


 くらくらして、真っすぐ立っているのも困難だと、サヤは声をかけて来たアクティスに答える。


「貧血か。なら、肉を食え」


「お、お肉かあ・・・・っ」


 調理法にもよるかもしれないが、今はとても肉を食べる気分ではない、と苦笑してアクティスを見上げようとしたサヤは、そのままよろけて倒れそうになったところを、強い力で支えられた。


「取り敢えず、さっさと何か食え」


「ありがとう」


 乱暴に言いつつもアクティスがサヤを支える手は優しく、その流れのまま手を引かれて、サヤは、何を考えることもなくアクティスに付いて行く。


「今日は、より一層、歩くのが遅いな」


「ああ・・・ごめん」


 これはあの、収穫祭の時と比べているのか、とあの時と同じようにアクティスと食堂を歩きながらサヤは思った。


「謝る必要は無い。体調が優れないのなら、当然のことだ」


「アクティスって、優しいわよね」


「そんな戯言をほざくのは、貴様くらいだ」


 悪態をつきながらも、アクティスはゆっくり歩いて壁際の席を確保すると、サヤをそこへ座らせる。




 ああ・・壁に寄り掛かれて助かる・・・けど、注文に行かないと。




 ぐったりと食堂の壁に寄り掛かったサヤは、そもそも先に注文をしに行かなければならなかったと、どこか遠くで思う。


「何なら、食える?」


「え?」


「言わないと、肉の塊にするぞ」


「あ、じゃあ、スープでお願い」


「分かった。待っていろ」


 何がいいか言わなければ、肉の塊一択だと脅すように言われ、咄嗟に答えたサヤにそう言って、アクティスは注文をするべくサヤから離れて行った。






「ほら、起きろ」


「寝ては、いないわ」


 アクティスを見送り、ぐてっと壁に寄り掛かって目を閉じていたサヤは、アクティスの声に答えるも、瞳を開けるのが酷く億劫だと思う。


「そうか。なら食え。吐き気などは、無いのだろう?」


「それは、平気。そういった迷惑はかけないから、安心して」


 もし万が一の時は、ここから転移してしまう、と冗談のように言って、サヤは何とか姿勢を正した。


「それだけ口がまわれば大丈夫だな」


「うん・・・おいしい」


 アクティスの優しさとスープの温かさが身に染みると、微笑んだサヤは、アクティスの視線を見て声をかける。


「ほしいのは、お塩?それとも、胡椒?」


「胡椒だ」


「はい、どうぞ」


 一旦自分のスプーンを置いて、自分の前にある胡椒を渡せば、隣に座るアクティスがくすりと笑った。


「貴様。今のは感知か?それとも、ただの性質か?」


「性質?感知は、別にしなかったけど」


「そうか」


 短くそう言われ、サヤは首を傾げてアクティスを見つめる。


「どういう意味?」


「言葉にしなくとも、俺がどちらかを欲していることを察したのだろう?」


「そうだけど?」


「それは、貴様の性質だということだ」


 特殊能力ではない、普通の性質だなと言って、アクティスは自分の食事を平らげて行く。


「普通じゃない?」


「いや。鈍い割に、そういうところの気遣いは抜群だと、この間も思った」


「鈍い割に?」


「ああ、鈍いだろう。まさか、鋭いなどとは言わないよな?」


 ぎょっとしたように言われ、サヤは目を眇めた。


「何よ、その言い方」


「いやだって、鈍いの極みみたいなものだろう、貴様・・・いや、待てよ。一点に於いてのみ鈍いのか?そうか」


「ひとりで納得しちゃって。そういう人って、いやらしい、って言うんですって」


 ふん、と横を向けば、そこでまたくらりとしてしまい、サヤは大きく息を吐く。


「体調を崩しているのに、暴れる奴があるか」


「うう」


「ああ、もういい。食い終わったら、医務室へ連れて行ってやる」


 そう言って、自分の食事を終えたアクティスに、サヤは慌てて手を横に振った。


「自分の部屋へ帰るから、大丈夫」


「そんなふらふらして、無事に辿り着けるのか?何かあったと後で聞いても寝覚めが悪い。送る」


「でも」


「分かった。自室へ送ってやるから安心しろ」


「え」


 さらりと言ったアクティスを、サヤは信じられない思いで見つめる。


「アクティスも、私と同じ間違いをするのね」


「何がだ」


 不機嫌そうに眉を寄せるアクティスに、サヤがにこりと笑った。


「だって、私の部屋は女子の寄宿棟よ?アクティスは、入ってはいけないでしょうに」


「非常事態だからな。それに、貴様の部屋の前まで一緒に行くだけだ。すぐに戻れば問題ない」


 見つかりもしなければ、ばれもしない、と悪びれもせず言うアクティスを前に、サヤはぽかんと口を開けてしまう。


「分かっていて・・開き直り」


「貴様は、分かっていなかったような言い方だな」


「分かってはいたわよ?ただ、うっかり忘れていただけで」


 サヤの言葉に、アクティスの口角が意地悪く上がった。


「つまり、女子は男子棟へ入れないことをうっかり忘れていた貴様と、俺を同じに考えたということか・・・そんなわけあるか」


「アクティスも同類だと思ったのに」


 残念、と呟き食事を終えたサヤの皿をすぐさま取り上げ、アクティスは反対側の手でサヤの手を握る。


「くだらないことを言っていないで、行くぞ」


 そうして食器を返却し、食堂の外へと出たふたりは、まず、サヤの部屋付近の感知を行う。


「うん。誰もいなそうだわ」


「ああ。問題なさそうだな・・・では、行くぞ。俺が連れて跳ぶから、貴様は能力を使うな」


「お願いします」


 確かに、今日は自分で無理して跳ぶより、頼ってしまった方が安心だと、サヤはアクティスの腕に掴まって、自室の前まで転移した。


 




「はあ。アクティスって、やっぱり凄い」


 通常、知らない場所へ転移するのは、難易度が高いと言われている。


 しかしアクティスは、サヤが思い浮かべた自室の前を確認しただけで、さらりと跳んでみせた。


「寄宿棟なんて、同じような造りで迷い易いっていうのに」


 流石、と首を振ったサヤは、もっと凄いことに気が付いて目を見開く。


「アクティス、男子だから女子棟へ入れないよう、ガードがあったはずなのに」


 しかし、侵入者があれば警報が鳴る筈のそのガードは、今も沈黙を保っている。


「アクティスも天才かあ。ナジェルと似ているのは、瞳や時々の雰囲気だけじゃないのね」


 小さく呟き、サヤはふたりの天才、ナジェルとアクティスを脳内で並べて、微笑んだ 。



ありがとうございます。

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