37、水上艇障害物競走 2
「前方に五機のシヴァ・・・・っ、背後に多数の水上艇が転移!」
前方から攻撃を仕掛けて来た敵航空機シヴァを迎撃、撃墜した後、すぐさま背後に転移して来た水上艇を、後方に設置してある連射砲で撃沈しようとしたサヤは、しかしそこで水上艇そのものを動かし、前方に設置されている特殊砲撃装置で沈めて行く作戦に変更した。
「なるほど。この方が、砲丸の消費を抑えられるのね」
呟き、サヤは再び目的地へ向けて水上艇を走らせる。
「砲丸の残数も、得点加算の対象だったものね」
予選を終え、フレイアと共に確認した各個人の評価、特にナジェルのそれを思い出し、サヤは思わず感嘆した。
「前方に設置されている特殊装置を使うようにすれば、少しの能力で敵を撃てるもの。はあ。撃ち落とせば、目的地に着けば、それでいいと思った私は単純思考ってことね。本当、猪突猛進そのものだわ」
特殊能力装置は、言葉通り、各人が己の能力を流すことで使用可能なため、装置そのものを破壊されるか、操縦者の能力が尽きるまで使用することが出来るが、逆に言えば、能力残量に陰りが見えたところで、使用は困難になる。
「その時、砲丸が残っていれば、操縦しつつ攻撃することも可能、つまり、生存率があがるということね・・・流石、ナジェル」
それからも、次々襲い来る敵と相対しながら、サヤは砲丸の残量にも気を配った。
「・・・・・ナジェルって、天才ね」
決勝の結果を見て、サヤが呟けば、ナジェルもまた嬉しそうに笑った。
「ありがとう。天才のサヤに言われると、嬉しいものだな」
「はい、はい。天才同士、誉め合わないでくれるかしら。貴方たちが天才だということは、皆知っているのだから」
そんなふたりに呆れたような声を出し、それでもフレイアは、おめでとうございます、と笑顔を見せる。
「フレイア参謀!ありがとう!お蔭様で、また得点を伸ばすことが出来たわ!・・・また、ナジェルには敵わなかったけど」
「パトリックの娘サヤ。砲丸の残量が、各段に違いますね。素晴らしいですわ」
「フレイアが、色々指摘してくれたお蔭よ」
きらきらと輝く瞳で言うサヤに、フレイアが小さく息を吐いた。
「はあ。言っただけで改善できるのが、凄いのですよ。わたくしなど、分かっていても、そうそう動けませんから」
背後の敵を前方に設置された特殊装置で攻撃するには、より素早く水上艇を回転させる必要があり、その技術が未熟であれば、当然のように攻撃を受けてしまう、とフレイアは自身の履歴を見せながら説明する。
「なるほど・・そうすると、水上艇を動かすことなく、後方の連射砲を使った方がいいということね」
「そういうことです。訓練であれば、減点で済みますが、実戦であれば失うのは命ですから」
苦笑して言うフレイアに、サヤは頷き、そして小さく首を傾げた。
「水上艇が、もう少し早く動けたら、もっといいのにね」
「サヤ?それは、どういう意味だ?」
「そのままよ、ナジェル。こう、私たちが動きたい、と思った方向へ動いてくれるのは凄いけど、若干ずれが生じるでしょう?」
自分が思う動きより少し遅いと言うサヤを、ナジェルもフレイアも驚愕の瞳で見つめる。
「僕は、今の動きがぴたりと嵌っている。自身の手足の如くに動かせているから、そう思ったことはないな」
「わたくしは、水上艇の動きの方が早いくらいです。かなり集中して動かさないと、勝手な動きに振り回されることになります」
「え?そうなの?」
ふたりの言葉こそが信じられないと思うサヤの脳裏に、異能の言葉が過った。
「そうか。もしそれが改善されれば、サヤの得点はもっと伸びるということだな」
「まあ、それもフレイアの指摘があればこそ、だけどね」
そもそも、自分ではそんな動きを意識したこともない、と言うサヤに今度はふたりがため息を吐く。
「過去の向上心の無さの暴露か」
「それでずっと二位だなんて、許しがたいですわ。才能の上に胡坐をかいている見本のような・・・というほど、怠けていなかったですけれど」
「こ、これからに期待!ということで!」
複雑な表情を浮かべるナジェルとフレイアに、サヤは引き攣りながら笑みを向けた。
「異能かも、って思ってもあまり気にならなくなったわね」
水上艇障害物競走を二位で終え、自室へと戻ったサヤは、小さく呟いてさっぱりと清めた体をベッドに投げ出す。
「はあ。疲れた」
心地の良い疲労が全身を満たし、かつてないほどの活力を感じていることを、サヤは嬉しく思った。
「私が可笑しなことを言っても、ナジェルもフレイアも、忌避するような瞳にならなかったわ」
能力は高ければ高いほどいい、と言っていたナジェルはともかくフレイアも、とサヤは気持ちが楽になるのを感じる。
「まあ。無理だ、とは言われちゃったけど」
水上艇の性能そのものについて、一士官学生が言ったことなど聞いてはもらえない、というのはサヤにも納得が出来る。
「機能開発に関わる仕事、っていうのも面白そう」
卒業後の配置も当然国が決めるため、個人の希望など有り得ないが、そういった部署で研究するのも楽しそうだと、サヤは眠りに落ちながら微笑みを浮かべていた。
ありがとうございます。




