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トルサニサ  作者: 夏笆
31/51

30、収穫祭 3







「おかえりなさい、サヤ。それで?どういう状況なのですか?」


 アクティスの腕にしがみ付いたまま転移して来たサヤに、レナードが引き攣った笑みで尋ねる。


「あはは。ちょっと、転びかけちゃって」


「転びかけちゃって、じゃない!俺の方へ倒れて来るな!」


 降参するように両手を軽くあげて言うサヤに、アクティスが眉を吊り上げ叫べば、レミアがふむと頷いた。


「俺の方へ倒れて来るなとは。なかなかのクズ発言だな」


「まあ、ファラーシャの娘レミア。珍しいことに、わたくしも同意見ですわ。自分の方へ倒れて来るななど。パトリックの娘サヤが怪我をしてもいいと言っているのと同意ですから」


 容赦ないふたりの言葉に、アクティスが口元をひくつかせる。


「ち、違うのよふたりとも!アクティスが言いたいのはね、転移しかけている時には注意しろ、ってことなの!この間も、やっちゃったばっかりだから、それで」


「この間も、って・・サヤ。もしかして、この間も今のように、アクティスと一緒に跳んだのか?」


 焦って説明するサヤは、驚きの声をあげたナジェルに、命綱来たりとばかりに言葉を繋ぐ。


「そうなの!アクティスに逃げられる、って思って必死に掴んじゃったら、アクティスの能力で一緒に飛んじゃったの。もちろん、アクティスは私と跳ぶ意思なんて無い状態だったから、危険だって」


「・・・・・逃げられないために、必死に掴んだ」


 その情景を思い浮かべ、だんだんと遠い目になるナジェルに気付くことなく、サヤは、こくこくと頷きを返す。


「だって、どうしても収穫祭でアクティスにクラヴィコードを弾いてほしかったんだもの。一生懸命、お願いしたのよ」


 頑張った、と言うサヤに、ナジェルは白き灰となり、他の面々はナジェルとサヤ、そしてアクティスを、何とも言い難い目で順番に見やった。


「なるほど。サヤは、アクティスにおねだりしたのですね。クラヴィコードを弾いてほしいと」


「うーん・・・おねだり、っていう言い方は何かひっかかるけど・・・まあ、そういうことになるのかな」


 サヤを揶揄うように言ったレナードは、そのまま、おかしみの籠った瞳をナジェルへと向けた。


「・・・・・ともかく時間だ。行こう」


「そうだな。すぐさま三人で合わせられる曲を探す必要もある」


 半分魂が抜けたようだったナジェルが、何とか持ち直して言うのに、アクティスも積極的に頷く。


「お、ザイン出身。珍しくやる気だな」


「能天気な詐欺師と約束したからな」


 短く息を吐き、諦めたように言うアクティスに、サヤが眉根を寄せた。


「能天気な詐欺師って、もしかして私のこと?」


「貴様以外に誰が居る。というか、自覚があるじゃないか」


「だって、さっきも能天気って言われたから!」


 ぷくっ、と膨れたサヤをアクティスが面白そうに見やる。


「ふぐみたいだぞ」


「なっ。詐欺師とかふぐとか、ひどい!」


「詐欺師だろう。俺はてっきり、独りで演奏するものと思っていたぞ」


「・・・・・それは、ごめんなさい。ナジェルとレナードも」


 途端、しゅんとなったサヤがふたりにも謝れば、ナジェルは優しい笑みを、レナードは何を考えているか分からない笑みを浮かべた。


「大丈夫だ、サヤ」


「駄目ですよ、ナジェル。甘やかしては。そうですね、今回は何とかしてさしあげますが、貸しひとつです」


 にこにこと言われ、サヤはがっくりと肩を落とすも、仕方なしと頷きを返す。


「分かったわ。三人とも、今度何か」


「僕は、別にいい」


「俺も不要だ。約束の報酬があれば、それで」


「ありがとう!ナジェル、アクティス!」


 『ふたりとも、心広い!』と、ぱあっと笑顔になったサヤに、レナードが笑みを深くした。


「聞こえましたよ、サヤ。すみませんね、心が狭くて」


「あ!いえ、その」


「時間がないのだろう。いい加減、行くぞ」


 無駄な時間ばかりを、と呟き歩き出すアクティスを、レナードが止める。


「行くぞ、はいいですが。どこへ行けばいいか、知っているのですか?アクティス」


「・・・・・」


「どうせ三人で行くんだ。それでいいだろう・・・それじゃ、行って来る。あ、バルト。手伝ってほしいことがあるから、一緒に頼む」


 不穏な空気になりかけたふたりの間に割り込み、残る皆に声をかけたナジェルが、そう言ってバルトを手招いた。


「分かりました!じゃ、サヤ先輩、俺行ってきます。レミア先輩と、フレイア先輩も、また後で」


 ぶんぶん手を振って去って行くバルトに手を振り返すサヤを見、フレイアがふっと口元を緩める。


「何ともまあ。知らぬは本人ばかりなり、ですわね」


「本当にな」


 それにレミアが自然と返し、ふたりは、なんとはなしに微笑み合った。


 

ありがとうございます。

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