10、能力の相性
「サヤ。準備はいいですか?」
ラトレイア隊最大の特徴である、水上艇と、その上に設置された航空機がひとつとなった機体。
その航空機のコクピットに乗り込んだレナードから、同じく水上艇のコクピットに乗り込んだサヤへ通信が入った。
「はい。大丈夫です」
計器を確認して言えば、モニタの向こうでレナードが頷く。
「今回は、敵機が何処から現れるか判らない、何機かも判らないという、索敵機が使用不可となった状態での訓練です。サヤ。分かっているとは思いますが、無謀に突っ込んだりしないで下さいね」
「了解です」
水上艇と航空機、ふたつがセットになっている状態では、基本的に水上艇のパイロットが操縦を担当する。
もしそこで水上艇のパイロットがミスを犯し、敵陣へ突っ込むような真似をすれば、当然その水上艇に搭載されている航空機も無事では済まない。
「私たちは一蓮托生。その事を、忘れないで下さい」
「はい」
レナードの言葉に大きく頷いて、サヤは訓練開始の合図を待った。
旋回。
そして射撃。
絶えず動き続け、こちらが標的とならぬよう気を付けながら、途切れることなく出現する海上の敵を撃ち、同時に空を警戒する。
通常の索敵機が使用不可の今、頼りとするのは自分の能力と連動する装置のみ。
それを稼働させる位置に手を乗せ、サヤは海上を走り続ける。
「サヤ。右後方海中に、敵増援と思しき機影が見えます」
航空機にて迎撃中のレナードからの冷静な通信。
言われた時には、サヤはその方角へ魚雷を発射している。
「命中7、回避3」
そして、回避した3機から間髪入れずに繰り出される連続攻撃。
「回避!」
特殊能力装置より尚早く察知したサヤが、その攻撃を旋回回避する。
その動きは、まるで海の生き物そのもので、誰もが出来るものでは到底無い。
当然、見ている者達は圧倒され、目を見開いて戦況を見守ってしまう。
「ひょえ・・今の見たか?ソシア」
「うん、ダン。見た。ほんと凄い。きれいな動き」
今、二年次の訓練機で残っているのは、1位2位コンビの2機のみ。
撃墜された者は仲間の訓練を見学するのが通例となっているため、新たに撃墜され、訓練機から降りたダンとソシアもその輪に加わりながら、圧倒的強さを誇るサヤ達に完敗の思いを味わう。
自分達も既に、ラトレイアと呼ばれる、国お墨付きのエリートである。
当然の如く、その自信も自負も強くある。
けれど。
「格が違う」
力ある者だからこそ判る、その真髄。
それら周りの声を聞きながら、レミアはひとり大きく鮮明に訓練機を映し出すスクリーンを見つめた。
「確かに凄い。だが」
そして、サヤたちの動きから目を逸らさないまま、思う。
「ヴァイントの息子とパトリックの娘が組めたら、もっと凄い」
海洋科と航空科が対となるのがラトレイア・パートナーである以上、同じ海洋科で才を競うナジェルとサヤのふたりが、パートナーとなることは無い。
それが普通、そういうものと学ばされ、分かってはいる。
しかし、だからこそ思わずにいられない。
「何故だ。何故、あのふたり同じ科なのだ。いや、何故もっと能力に相性があると考慮しないのだ」
ラトレイア特有の機体の性能を生かすためとはいえ、海洋科同士ではラトレイア・パートナーとなれない歯痒さに、レミアはひとり強く拳を握った。
ありがとうございます。