ゲーミングPC
家族は勉強一家であった。
誰よりも勉強をし、誰よりも優れている事を証明しなさい。
「お前は長男なんだ」
父親は厳しく、息子に勉強を強要した。
遊ぶ事にも制限をかけ、テストの点数が悪かったりすれば怒りもした。勉強をすることで良い大学に行ける、良い職場に行ける。そして
「”夢を叶える”ためには、必ず勉強が役立つんだ」
「……………」
「人生で助けられるのは、勉強なんだぞ」
「……分かった」
勉強は今後の人生において、大きく左右するものだ。
してないものと、しているものとでは人生の質は大きく異なるものだ。
そうして過ごした息子の幼少期。そう信じて、勉強に励み続けた。それが成果となって現れるのは、本当の事だった。
「おおっ!よく頑張ったな!!あの有名大学に合格なんて!!」
父親の誉め言葉は久しぶりで、長男も何か嬉しかった。
努力とはすぐに認められないから成果が現れるまで、どうすればいいのか分からない。それは親子一緒であり、浮かれていたのはどちらかというと、父親の方だった。
「どうだ?合格祝いに何か、買ってやるぞ!」
いや、それをしない家族はどうだろうか?
そーいう疑問だって呈する。長男はその言葉に、どうしても心の中で欲しかった物を求めた。
「ゲーミングPC」
入学と同時に手に入れた、最新物。
高校の頃からやってみたかったゲームを今、思い切ってやりたいんだ。
◇ ◇
ガヂャヂャヂャ
「………………」
動作が遅い。
このゲーミングPCも今じゃあ、中古レベル。これでは周りのゲーマーに遅れをとってしまう。
高級ヘッドフォンと専用のコントローラーで最新のFPSに励む長男。
部屋はこのゲーミングPC周りだけは綺麗で、あとはゴミが散らばる自分の部屋。
コンコンッ
「は、入るぞ……」
そして、申し訳なさそうな声で、食事を持ってきた父親。
そんな父親になんの表情も見せず、ただただ目の前の画面に集中。強い敵を倒す快感が止められない。とんでもなく、強い快感。目に見える努力で目に見える結果が生まれていい。”あれ”はなんて気の長い事だったと思う。
しかし、
「お前。……大学を辞めてからどうするんだ?もう3年は経ったぞ。お前と同じ年齢の人は、もう働いているんだぞ」
「…………ふーん」
だからなに?って表情だ。なまじ、未だ努力も成功もしている分。
「大丈夫。だって、世の中。俺よりバカが多いよ。父さん言ってたよな?勉強は人生を助けてくれる」
「そうは言っていたが……」
「俺はその頑張った貯金を使ってるだけ。俺よりバカが働いてる社会なんだよ。らくしょー」
「あのなー……」
これを買い与えて事を今更ながら後悔した。それ以上に、自分が長男に言い聞かせた全てが帰ってきたようだった。
「俺の”夢”は、今やっているんだよ!!”夢”の邪魔をするのが、父親のやる事なのか!?いつもいつも、俺の自由を奪ってきたお前が言うのか!!」
後悔があるとすれば、もっと早く出会えていたら、もっと違う生活をしていたと思ってしまう。
子供が”飽きた”とかいう気持ちで娯楽から離れる状態じゃない。
あれには戻りたくないからという大人な気持ち、長男の意志表示だった。
父親が買ってくれたゲーミングPCを一瞥しながら
「買い替えて!こいつじゃもう、俺は周りの仲間についていけねぇ!俺はっ……!!ここが居場所なんだ!!」
もう何も、祝いは要らないから。