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第6話 調査1日目② 南の果てへ

 いよいよ調査1日目ペアでの調査が始まろうとしていた。


 拠点の焚き火を囲っているメンバーは変わらずの4人であった。ローズが参加するのは想定外だったが、人手は多い方がいいので嬉しい誤算である。



「そしたら、一緒に行きたい人をそれぞれ指さそっか」


「せーの!」



 エリカの号令の後、私はエリカを指名した。


 エリカとローズは私。


 ドラセナはエリカであった。



「あらネリネちゃん人気だね! 私からでいいかな? それと、2人で指名しあったから時間2倍でもいい?」


ローズは「ちゃんと私の番が来るのなら構わないわ」と興味が無さそうに答える。ドラセナは頷いた。



「この魔道具が時間を教えてくれるからこれが光ったらどこにいようと引き返して戻ってくるから。よろしくね」


 私達は一つずつエリカから魔道具をもらった。手のひらサイズの石ころみたいな道具であった。時間の経過が分かりづらいこの世界では頼りになる道具だ。


 私達は出発した。




「時間沢山あるからさ、思いっきり一直線に走ってみない? 空に天井があるんだったら壁もあるはずでしょ」


「賛成です」


 私達はお互いが行ったことのない、拠点から見て南の方角にひたすら走り続けることにした。私がルガティに跨ると、エリカは魔法の詠唱を始めた。終わると足が青色の光を放つ。



 身体強化の類の魔法であろう。これは私も昔に見たことがあるので彼女の固有魔法ではなく、一般魔法である。



「狼くん! 私手抜く気はないからしっかりネリネちゃんを連れてきてよね」


 ルガティは低い声を鳴らし返事をする。


 よーいどん!というように彼女はクラウチングスタートの状態から駆け出した。駆け出したと視認した時にはもう米粒程度になってしまう。



「リリー、ちゃんと捕まってろよォ」



 私は姿勢を低くしてルガティの外套の中に潜り込み腹ばいで抱き付く。それを確認するとルガティは大きく踏み込んだ。風が前から針のように飛んでくるような感覚がする。ルガティの外套が風除けになってくれなければ私など簡単に後ろに飛んでいってゲームオーバーであろう。幾度となく経験した感覚だ。


 顔を上げることもエリカの気配を感じ取ることも出来ないので彼らに任せるしかない。なんとか意識だけは保とうと気を張った。




 どれくらい走っただろうか。ルガティは止まった。



「狼くんお疲れ様、私の石が光ったからちょうど一回分が終わったよ。気分はどうネリネちゃん?」



「だ、大丈夫ですぅ」



 正直気分は悪い。吐きそうだ。流石にルガティも疲れたようで地面と一体化するように潰れている。私は彼から降りる。エリカの方は息一つ乱れていなかった。魔法使いとは全員こんなものなのだろうか。恐ろしい。



「ははは、大丈夫じゃ無さそうだね。少しわかったことをまとめながら休憩でもしようか」



 エリカは私の近くに来て腰を下ろす。私も彼女の横に座り込み、魔法道具を起動させる。スイッチを押せば良いので魔法が使えない私にも扱える。



「ここまで大分進んだけど、壁は無さそうだね。まだ進んでもいいけど、それは流石に鬼だよね」



 エリカはルガティと私の様子を見ると苦笑する。



「そこで、提案なんだけど私が空を飛んで確認してこようと思う。だけど私の固有魔法の一端を見せる事になるから何かネリネちゃんも秘密を教えてほしいな」



 悪くない提案であった。もちろん私はドラセナが話していた天井を確認する術はない。彼のことを特別疑っているわけではないが特別信用しているわけではないので、エリカがどんな情報を持ってくるかは興味があった。



「分かりました。教えます」


「うん! 交渉成立だね。私からまず使うからその後で必ず教えてよね」



 そう言うとエリカは立ち上がり詠唱を始める。先程の一般魔法とは違う気配がする。彼女の周りに光の柱が落ちてきて姿が見えなくなる。光の発散と同時に姿を現したのは背中から大きな羽を生やしたエリカの姿であった。彼女はこちらへ振り返りウィンクをすると遥か上空まで飛び去っていった。



「──ありゃすごいな。どおりで身体強化の魔法が強力なわけだア」



 ルガティが空を見上げながら呟いた。



「魔法使いは誰でもあれぐらい走れるものではないのですか?」


「全員があんな化け物であってたまるかよって言いたい所だが、割と多い気はするな。でもあいつのが並外れていることは確かだなァ」


 魔法の一端と言っていたように、ただ羽を生やすという固有魔法ではないと思うが、羽が生えるという現象を身体強化の範疇だという枠組みで考えれば、彼女の固有魔法に準ずる強化魔法が強力なことにも頷ける。もし彼女と戦闘になれば素早く距離を詰められて接近戦に持ち込まれることは明白であろう。



 このように固有魔法が判明すればそれに準ずる得意な一般魔法もある程度絞ることが出来る。そこから戦闘パターンも予測できるので対策を考えることができる。手札のカードを晒すのは魔法使いにとっては

相当リスクがある行動なのだ。ルガティと魔法についてぼんやり話していると舞い散る羽と共に彼女は帰ってきた。



「──天井はなかったよ、ずっと空だった。明らかに落ちてきた距離以上、飛び上がったけど、限りがなかった」



 固有魔法の行使は彼女といえど体力を消耗するものらしく、深呼吸を繰り返している。



「ありがとうございます。そうなると空間を作るというより、まるで上から別の世界を貼っているように思えますね」


「それは私も思ったけど、そんなことが可能なの?」



 それは分からなかった。天井があるかないかだけでも2通りの答えが出たのだ。ただ、私に固有魔法を晒してでも取ってきた情報なので信憑性が高い。彼女はそれも織り込み済みの提案であった筈だ。さて、私は何をエリカに開示しようか。



「エリカさん私も一つとっておきのカードを教えますね。私に向かって攻撃してきてくれませんか?」


「え?」


「魔法でも良いですし、物理攻撃でも良いです。明確に殺意がある攻撃をどうかお願いします」



 私は彼女から少しばかり距離を取る。エリカは少し戸惑っているようだった。



「ケガしても責任取れないわよ」



 彼女は腕を広げて掌を握り込む。するとハルバード型の武器がどこからかともなく出てきた。構える姿は背中の翼と相まって神々しく見える。エリカは「いくわ!」と短く合図を出すと、一歩目を力強く踏み込んだ。


 それを確認した次の瞬間には私の眼前に彼女の姿はあり、左側から横薙ぎにハルバードが振られていた。


 避けるしか選択肢が無いのであれば、このまま私は胴体を境に真っ二つになってしまうだろう。


 ハルバードが私に触れる寸前。私の周りは金色に眩く光り、カーン!という金属音が鳴り響いた。何かにハルバードが弾かれたことを確認したエリカはすばやく後方に身を翻す。



「この子が私のとっておきです」



 私の左側。


 先程エリカの攻撃を受け止めた位置には黄色で半透明の盾がふよふよと浮いている。



「私に攻撃が向けられると、自動的に発動し守ってくれるのです」


「ショックだなー。結構力込めたんだけど防がれちゃったね。そんな凄いの持ってるなら私が庇ってあげる必要なかったね」


「いえ、とても感謝しています。エリカさんのお陰で全員に知れ渡ることは防げましたから」


「でもさ、その盾って魔法じゃないの?」


「これは魔法ではないです。私が魔法使いではないのは本当です。難しい話ですけど、良い呪いと呼ぶのがいいですかね」


「よくわからないけど、そういうもんなのね」



 彼女は納得してくれたようだった。これに関しては隠しているわけではなく、私でさえも詳しく分かっていないのだ。なんにせよ借り物の力だということは事実である。まだ魔法道具は光っていないが、どうせ帰っているうちに制限時間は来るので私達は拠点へ帰ることにした。



「提案なんだけど、天井を調べた件は私達の秘密にしない? 私ドラセナに指名されてるからその時色々と探ってみるからまだ誰にも言わないでおいて欲しい」


「いいですよ。天井を否定してしまうとドラセナさんを蚊帳の外においやってしまうことになりかねないので、隠しておこうと私も言うつもりでした」


「うん。じゃよろしくね。あ! ネリネちゃんの能力のことも言わないから安心してね」



 私達は約束を交わすと帰る準備に取り掛かった。



 私はルガーにまたがり、彼女は魔法をかけるだけだ。



「それではルガーよろしくお願いします」



 狼は分かったと言わんばかりの低い声を鳴らすのであった。

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