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第36話 帰還

 気がかりなのは調査隊の他のメンバーのことである。結局合流できずに終わってしまった。捜索したい気持ちはあったが、Sentinelを返してしまった私にできることはない。


 もし会えたとしても足手まといになることは明白である。それよりも早く戻って助けを乞うことが最善であると自分を無理矢理に納得させた。


 眩い光に体は包まれている。同時にカードを使ったはずなのに、またしても傍に狼の姿はない。今度こそ離れ離れにならないことを願うばかりであった。そんなことを考えているとより一層光が増してきたので私は目を閉じた。


 次第にふわりと体が浮くような感覚がしたので、私は足を延ばして地面を探す。



「アダマリオンさーん!」



 聞きなれない自分の名前を呼ぶ声に煩わしさを覚える。目をゆっくりと開けると、一人の兵士がこちらへ走ってくるのが見えた。


 すぐにキョロキョロと辺りを見渡すとそこは都市の門前の簡易拠点であった。陥没穴へ向かう前にリンドと別れた場所である。至る所で帰還を喜ぶ声があがっている。

 どうやら本当に地上へ戻ってきたみたいだ。



「お迎えして頂きありがとうございます」


「いえいえ、ご無事でなによりです。それよりこちらに団長と狼さんが!」



 彼の指した方向に足早で向かうと、二人と一匹が駆け寄ってくる。



「リリー!」

「リリーちゃん!」



 私はそのままの勢いで彼らとぶつかるように走り込んでは熱い抱擁を交わした。



「無事で良かった」


「ほんとだよ。まさか助けに来ているだなんて」


「またこうして顔を合わせられるのが奇跡のようですよ」



 私達は顔を見合わせて無事を確かめ合った。その間、私の足の周りを狼は忙しなく動き回っていた。



「ルガー、勿論あなたも無事で何よりですよ」



 彼の背中を撫でながら輪の中に入れてあげる。



「リンドさん、穴の中で何があったのか。山程話さなければならないことがありますが、取り敢えず帰っても良いでしょうか? やらなくてはいけないことがあるので」


「ああ、許可する。どうせ引き止めてもいくのだろう。そのかわり終わったらしっかり報告してもらうことにしよう」


「ありがとうございます。それと──」



 私はそれからまだ穴の中に仲間は勿論、過去の調査隊のメンバーもいるかもしれないということを話した。



「それは一大事だ。早急に対処しよう」


「リリーちゃん気をつけてね。それと何か助けが必要だったら遠慮なく言ってね」


「はい、頼りにしていますよエマさん。ですが、今はしっかりと休んでください」



 二人と別れるのは心惜しい気持ちがあったが、まだ帰ってきていない大事な人がいるので弱音を吐いている場合ではない。



「それでは行ってきます」


「「行ってらっしゃい」」



 私はルガティの背中に飛び乗り、帰路につく。












「リリー。もしかして怒っているか?」



 颯爽と街道を駆けている最中に狼は念話で話しかけてきた。



「なんでそう思うのですか?」


「いや、自分を犠牲にしてもお前を守るみたいな大口叩いたのに、傍に居てやれない時間が多すぎたからな」


「そうですね。随分と心細く寂しかったですよ」


「申し訳なかっ──」


「仕方ないです。だってあのご主人様すら敵側だったのですよ。今二人無事にこうして帰れるだけで奇跡ではないですか。私たちは最善を尽くしましたよ」



 珍しく神妙な雰囲気でルガティから謝罪されそうになったので、思わず労いの言葉が出てしまった。とても気恥ずかしい。



「ですが! 流石に私の体から貴方が出てきたと振り返ってみると、あれだけは許せませんね! 気持ち悪いです」


「ははは、それは随分と辛辣だなぁ。あの場面でオレが出てこなかったら流石にヤバかっただろ」



 彼とはどちらが守る守られるの話ではなく、こうやって軽口を叩き合っていたい。ただ、私はご主人様のことに限らず、彼のことも知らないことが多すぎるので、これから知っていかなければならないことが多いのも事実だった。



 遂に私たちの家。魔女の森だった場所に足を踏み入れた。陥没穴へ向かうときもこの森は自分の足で歩いたので私は彼の背中から降りることにした。


 硬く水分が失われていて腐敗したような紫色の地面。陥没穴に貼られたテクスチャはおそらくご主人様の仕業である。


 初めて来たはずの陥没穴の内部に親近感を覚えたのは似たような場所を知っていたからではなく、同じ地面を知っていたからだ。


 なぜそんな仕掛けを施したのか。私にテクスチャを張ったのは自分だと気が付かせる為?もしそれがわかったとしてあの場所で何が出来たのだろうか。



「ルガー、そういえば貴方は陥没穴へ残らなくて良かったのですか?」


「ん? それは自分の主を守らなくて良かったのかっていう話か。その主にお前を託されたからな。そういうリリーこそ、大好きなご主人様がもう居ないってことを悲しまなくてもいいのか?」


「それはそっくり貴方にも返します。私はご主人様からキノコシチュ―が食べたいと言われたのです。まずはその願を従者として叶えなくてはならないのですよ」


「相変わらず変なところを割り切るよな。子供としてとか従者としてとか」


「──あまり冷静に分析しないでくださいよ……本当は泣きたくて進みたくなくて仕方がないですよ」


「……」



 おい、何か言えよ。狼は都合よく念話を切り上げて早足で歩き始めた。置いていかれないように私も少しペースを上げる。歩きながら考えるのはエリンギについてだ。


 ご主人様はキノコはキノコでもエリンギの名前を出した。私は食べたことがなかったがエリンギについては事細かに教えられていた。


 エリンギはセリ科の植物であるエリンジウムの枯れた根に寄生することで育つのだ。イソギンチャクとクマノミの共生の関係とは少し違うが、エリンジウムを利用してエリンギは姿を現すのだ。エリンジウムといえば家のテーブルの花瓶に生けられていることを思い出した。なぜかあの青紫色だけはご主人様が消えた後も薄れることはなかった。


「ルガー、急いで確認したいことがあります。背中に乗らせてください」


 私はこちらへ戻ってきた狼に跨って森の奥地へと急いだ。


 陥没穴を枯れた世界で上書きしたのがご主人様であるならば、この森も何らかの仕掛けをご主人様が施したせいで枯れた可能性があるのではないか。

枯れた後にこそ何かがあるという森の魔女エリンジュームからのメッセージであると私は考えた。




「ほら、着いたぞ」


「ありがとうございます」



 彼に声を掛けられて私は顔を上げる。木で出来た家は変わらずの様子であった。私は扉に手をかけて中へと入った。



「ご主人様、ただいま戻りました」



 ここにいるはずはない主人への挨拶。ここから出る時にも言葉にしたのだから、戻ってきたときにも言葉にしたかった。緊張を解くのはまだ早いと喝を入れつつ、ダイニングテーブルの花瓶を確認しに行く。



「あ!」



 青紫色のツンツンとした花は予想通り確かに枯れ果て、茶色っぽく色落ちていた。ドライフラワーのように綺麗で整った枯れ方ではない。私は花瓶を手に取ってよく確認する。見た目よりも幾らか重いような気がした。



「ああ、その花か。主の名前と同じ花なんだよな」


「そうです。あれだけ外の草木たちは枯れていたのに、これだけは私が出ていく前まで色づいていたんですよ! 何かおかしいとは思いませんか?」


「確かに妙だな」



 この花は私が初めてこの家に来た時から生けられている花だ。ご主人様から漏れる魔力を浴びている植物という点では外の木々たちと同じはずだ。それなのに、この花は以前まで枯れていなかった。


 私は花の根の部分を確認する為に花瓶から引き抜こうと優しく引っ張った。しかし茎の所からカサカサと千切れるばかりで引き抜くことは出来なかった。



「ボロボロになっちまったな」


「何か底の方で引っかかっているみたいなんですよ。壊しても問題ないですよね?」


「まぁリリーのやることだったら主は怒らねぇんじゃねぇかな」



 花瓶を除いてみたが暗くて何が入っているのかは分からない。それにしてもやけに重いのだ。



「ご主人様ごめんなさい」



 私は思いきって床に花瓶を床に叩きつけた。パリンという花瓶が割れる音と共にその物体は姿を現した。でっぷりとふくよかな白い柄に大きな茶色の傘をつけた立派なキノコであった。



「ありましたよ。エリンギ! 花瓶から出てきました」

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