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主従戦線レイディ × メイド!  作者: 紙月三角
最終決戦 レイディ × メイド! vs 傲慢お嬢様??
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20

「やっぱり、私じゃあ、だめなの……? こんな、私じゃあ……マリー様を、取り戻すなんて……」


 落下する瑠衣が、もう少しで地上に激突するというところで。

 彼女は、空中の『箱』の上にいる黒マリーの姿を見た。

 彼女はまだ、これまでのように、感情のこもらない表情で「うふふ……」と微笑みをこぼしている。元メイドの自分のことなんてすっかり忘れてしまったらしい彼女の表情に、瑠衣はさらに深い深い絶望の底に叩きつけられたかのようなショックを受けて、それから……。

「……ま、いっか! 私には、ちゃんと別のパートナー(・・・・・)がいるわけだしー」

 と言って、ペロっと舌を出した。


 ポンッ!


 次の瞬間、落下してしていた瑠衣が、幼い少女の姿になる。

「……って、え? キャーッ⁉ お、落ちてるしっ! わ、わざとだけど……落ちてるしぃーっ⁉」

 さっきまでの瑠衣は、実は『お転婆お嬢様』のチャオインが変身した姿だった。変身解除した瞬間から激しく騒ぎだしたチャオインを、地上で万千華が受け止める。

「オーライ! ホタルンのハートをキャッチ! ……って感じー?」

「マンちゃん、ありがとー!」



「うふ、ふ……?」

 そこで初めて、黒マリーの落ち着いた表情が、少し乱れた。

 今の彼女の立場として一番問題となるのは、瑠衣に再び『契約』をされてしまうこと。だから、黒マリーは瑠衣のことを最も警戒していた。だからこそ、自分に向かってくる彼女に対して、持っている中で最強の能力とでも言うべき『清純お嬢様』の『霧』の能力を使って、全力で彼女を攻撃したのだ。


 そして……。

 もちろん万千華とステラも、その警戒心に対しての対策を講じていた。黒マリーのその警戒心を理解していたからこそ、瑠衣の偽物を用意して、それを撹乱したのだ。最初に「偽物の指輪をもたせた瑠衣」を向かわせてわざと倒させることで、黒マリーのスキを作ったのだ。

「っ⁉」

 何かを感じて、すばやく後ろを振り返る黒マリー。

 しかし、それはすでに手遅れだった。


 黒マリーの周囲の空中には、さっきから無数の『箱』が浮かんでいる。それは、黒マリーが空中を逃げ回るときに足場にするために彼女自身が作ったもの。それに、カチューシャがそんな黒マリーを閉じ込めようとして失敗していたものもある。

 そんなふうに無造作に空中に浮かんだ『白い箱』の一つに……実は、本物の瑠衣が張り付いていた。『清純お嬢様』の能力で体を白くして、『白い箱』にカモフラージュして隠れていた。

「うあぁぁぁーっ!」

 『箱』の側面を蹴って、その勢いで黒マリーに飛びかかる瑠衣。気づくのが遅れたマリーには、すでに『白』を解除されて見えるようになっている彼女を、避けることが出来ない。


「へ……名付けて、『派生技(ライト・モティーフ)紙々の誰そ彼(ラグナロク)』だぜ!」

 自分のパートナーのステラがたてた作戦が完璧にハマって、満足そうに決め顔を作るユーリア。しかし、すぐに我に返って叫ぶ。

「って、おいっ⁉ 今はやべーだろっ⁉ 今のそいつの『右手』に触っちまったら、おめーも『霧』に……!」


 黒マリーは、少し取り乱していた表情をすでにもとの人工的な(アルカイック)笑顔(スマイル)に戻している。

 今の彼女には、飛びかかる瑠衣から逃れることは出来ない。だが、その必要はないと思ったのだ。ただ、自分の『右手』を前に突き出すだけで、すべては終わるのだから。その『右手』に触れただけで、どんなものも『霧』に変えてしまうことが出来るのだから。

「うふ……ふふふ……」

「に、逃げて……っ!」

 その危険性を理解しているステラも、らしくもなく大声で瑠衣に叫ぶ。

 それ以外の味方の淑女とそのパートナーたちも、心配そうな表情で瑠衣を見ている。


 そんな、すべての想いを受け止めながら……瑠衣は、恐怖や不安など微塵もない、むしろ落ち着いた優しい表情で、小さく首を振った。

「……大丈夫だよ」

 彼女は、黒マリーが自分に向けて伸ばしている『霧』化した右手から、逃げようとしていない。むしろその右手に自分の手を伸ばして、自らその『霧』に触れた。


「マリー様」

「ふ……⁉」

 『霧』の右手に触れた瑠衣は……『霧』にならなかった。


 彼女には、分かっていた。

 メイドの日枝奈が『わがままお嬢様』の能力を使えたということは、その能力の本体である黒マリーには、「嫌いなもの」と「好きなもの」があるということ。闇堕ちして感情なんてなさそうな黒マリーにも、まだ「好き嫌い」は残っているのだから、「一番好きなものだけは『霧』にすることが出来ない」という『清純お嬢様』の能力では、自分を『霧』にするなんて…………いや。


 そのときの瑠衣が、そんな理屈まで考えていたわけではない。

 理屈や推論を超えた、もっと本能的な部分で、彼女は確信していた。マリーが自分を『霧』にすることはない。出来るはずがない、と……。


「マリー様……あなたは、こんな私をメイドにしてくれて、そばにいさせてくれました……」

 左手で、黒マリーの『霧』の右手を包み込む瑠衣。すると、徐々にその『霧』が晴れていく。

「私に居場所を与えてくれて、こんな私でも、何か出来ることがあるって、気づかせてくれました…………だから、」

 瑠衣は懐から、淑女とメイドの『契約』の指輪を取り出す。

 そして、徐々に形を取り戻していくマリーの右手に、瑠衣はそっとその指輪をはめた。

「だから今度は、私があなたに居場所を与える番です。私の気持ちを伝えて……あなたを、この世界につなぎとめてあげる番です」

 瑠衣の右手の薬指には、すでにもう一つの指輪がはめられている。

「……」

 黒マリーももう、抵抗したりしない。

「マリー様……私は、あなたが大好きです。これからもずっと、あなたのおそばにいたいです。だって……だって……」

 二人は見つめう。そして、次第に顔を近づけていく。

「だって私は……最高のマリー様の、最高のパートナーですから!」



 それから瑠衣とマリーは、静かにキスをした。


 それは、彼女たちの間で最初にかわされたのと同じ、淑女とメイドの『契約』。

 それと同時に、二人だけの特別な意味を持った、もっと別のなにか……だったのかもしれない。


 体を寄せ合う二人を、暖かい、紫色の光が包み込む。マリーの黒い肌が、次第にもとの新雪のような柔らかな白い肌に戻っていく。

 そして、その光が完全に消えると、彼女は、

「まったく……来るのが遅いのよ。待ちくたびれたわ」

 もとどおりの『傲慢お嬢様』になって、そう言ってから……。


「でも、貴女なら必ず来てくれるって信じてたわ。ありがとう……私の最高のパートナーの、瑠衣。……私も貴女が、大好きよ」


 それまでとは違う、一歩先の関係へと進みだした新しい姿で、そう言ったのだった。


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