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そんなことをやっている間に。
運動神経抜群のレイニャは、ついにその塔の頂点の、日枝奈たちがいる展望台まで到着してしまった。
「ニャー、ニャ、ニャ、ニャッ! おめーら、覚悟するニャン! このレイニャ様が、すぐに二人ともぶっ殺してやるニャン!」
「お、おいっ!」
展望台の淵に四つん這いで構えて、物騒なことを言う彼女。地上のユーリアが慌てる。
「て、てめーっ、ちゃんと分かってんのかよ⁉ ステラのたてた作戦通りにしろよっ!」
「……ニャー?」
不服そうな表情をつくるレイニャ。しかし、「めんどくせーニャー……」と言いながらも、渋々それに従うことにしたようだ。そして、事前の作戦通りに……展望台の二人のうちの片方の少女にターゲットに絞った。
「しかたねーけど……レイニャのメイドのケツは、レイニャが拭くニャン!」
それは、白いドレス姿の日枝奈だ。
事前にステラと万千華がたてた作戦では、彼女たちがマリーを取り戻すためにまず最初にすべきことは……「日枝奈を無力化する」ということだった。
彼女たちは『箱』の中で指輪を取り戻し、元から持っていた淑女能力も使えるようになった。しかし、それによって黒マリーの能力までなくなったわけではない。相変わらず黒マリーは、これまで瑠衣が出会ってきた七人の淑女全員の、七種類の淑女能力を持っている。そして一方の瑠衣たちのほうはと言えば、指輪が有っても瑠衣とレイニャのパートナーがいないので、その分の『傲慢お嬢様』と『天然お嬢様』の淑女能力が取り戻せていない。
実は、黒い肌になってからいままでずっと「うふふ」と笑うことしか出来ていない黒マリーには、言葉で相手を操る『天然お嬢様』の能力を使うことは出来なかった。さらには、『変身』すると人格まで変わってしまう『お転婆お嬢様』の能力も、有って無いようなものだったのだが……。
それでも、この戦いを考えた日枝奈と、その戦いを勝ち抜いてきた黒マリーが相手では、分が悪いと言わざるを得ない。
だから、まず黒マリーのパートナーの日枝奈をなんとか無力化して、自分のパートナーに力を与えるタイプの『傲慢お嬢様』と『わがままお嬢様』の能力を使えなくさせる。そうすることで能力的な格差を解消してから、最終的な目的を実現する……という作戦だったのだ。
そして、その「日枝奈無力化」のための実行部隊となったのが、彼女の元主であるレイニャ、というわけだった。
「喰らえニャーっ!」
弾力のある足腰をバネのようにして、ものすごいスピードで日枝奈への飛び蹴りを繰り出すレイニャ。
「レイニャちゃん……ま、まさか、あなたが私を攻撃するなんて……」
それに対して、無防備な日枝奈は恐怖で震えている……なんてはずもなく。
「私を、攻撃して……痛めつけて……メチャクチャに蹂躙してくれるなんてぇぇぇーっ! あ、ああぁぁーん、それそれーっ! 今までずっと、それを待ってたんですよぉぉーっ! ようやく、私の希望に応えてくれるんですねぇぇーっ⁉」
自分の元主に痛めつけられることを想像して、勝手にマゾヒスティックな快楽にひたる。「ここ! ここにお願いしますぅっ! とびきりキツイやつを、ここにぃぃーっ!」と、レイニャに向かって自分の頬を差し出してさえいる。彼女の、いつもどおりの定常運転だ。
「う、うげ、ニャ……」
おそらくジャングルには存在しないであろう、そんな気持ちの悪い彼女の行動に思わずひるんでしまうレイニャ。しかし、弱肉強食の世界で育ってきた彼女は、そんな状況でも一度狙った獲物に対する攻撃をやめたりはしない。
いくら日枝菜が、痛めつけられることに快感を感じる真性の変態だったとしても。さすがに、レイニャの本気の攻撃を受ければ無事ではいられないだろう。
だが……。
「ああ……でも、」
そこで日枝奈は、一度は差し出した頬を、名残惜しそうに元に戻す。
「ご、ごめんねぇ、レイニャちゃん……い、今の私は、女神のマリー様のメイドになったんでしたぁ……。だ、だから、今後はこちらのマリー様に痛めつけてもらえるんですぅぅ……。も、も、もう、レイニャちゃんの愛は、いらないんですぅぅーっ!」
そして、飛び蹴りを繰り出してきたレイニャの死角へと潜り込み、『傲慢お嬢様』の能力で強化されたオーラをまとった右手を、レイニャに向かって繰り出してきた。
山寺日枝奈は、レイニャを含めた淑女の『設定』を考えた、ある意味の創造主。しかも彼女は、レイニャのパートナーとして、ずっとレイニャのそばにいた。だから、攻撃のときの彼女の死角を、知っていたのだった。
「ああぁん……こ、こんなときにさえ、私にぱんつが見えないように攻撃してくるレイニャちゃん! そんなあなたが、大好きだったよぉぉーっ!」
そして彼女は、レイニャの死角……「避けようとすれば必ずスカートの中が見えてしまうような角度」から、『傲慢お嬢様』の能力で強化された攻撃を放った。
「……にゃひ」
そこでレイニャが、いたずらっ子のような無邪気な笑顔を浮かべる。
「え?」
彼女の様子に頭の上に疑問符をつくりながらも、攻撃の勢いをやめない日枝奈。そんな彼女に向かって……、
「レイニャは、オメーのことニャンか、全然好きじゃねーニャ!」
飛び蹴りから、片足を大きく上げた柔軟な態勢に変更されたレイニャのハイキックが、繰り出される。
そんな姿勢になってしまえば、レイニャがスカートの中を守りきれるわけがない。今まで、どうやっても絶対に見ることが出来なかった自分の元主の下着が、ついに丸見えとなる瞬間が訪れたのだ。当然、絶対にそれを見逃したくない日枝奈は、目が離せなくなる。
その結果……。
「ぶ、ブフォッ⁉」
レイニャの両脚の付け根を凝視していた日枝奈の顔に、彼女のハイキックが直撃することとなった。
「そ、そんな……⁉ レ、レイニャ……ちゃん……。あ、あなたの、ぱんつは……」
ゆっくりと、崩れ落ちる日枝奈。
「か…………かぼちゃぱんつ……だったなんて」
最後にそれだけつぶやくと、ぐったりと脱力して気絶してしまった。
そのときの彼女の瞳には、ようやく目にした待望の光景が思っていたものとは違っていたことへの絶望による、一雫の涙が浮かんでいた。
日枝奈を倒したレイニャには、これくらい当たり前だとでも言うように、特に喜ぶ様子もない。
「ニャー……やっぱりこれ、動きづれーニャー!」
そんなことを言って、はき慣れていないかぼちゃパンツをビリビリと口で破いてしまった。
実は、彼女がそのかぼちゃパンツ――いわゆるドロワーズ――をはいたのは今回が初めてだ。万千華たちのたてた作戦の一環として、レイニャの死角をなくすために、はかせておいたのだ。
「まったく……ワタシの『敵者生存』で、あんまり変なものを作らせるんじゃないわよ!」
それを作ったセーラは、そんなことを言って不機嫌そうだったが。
とにかく。
彼女たちの作成は成功して、日枝奈を無力化することが出来たのだった。




