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主従戦線レイディ × メイド!  作者: 紙月三角
最終決戦 レイディ × メイド! vs 傲慢お嬢様??
91/98

15

 それから。

 淑女たちは、セーラが開けた小さな『箱』から各々が最初に持っていた二つの指輪を受け取る。そして、最初に自分のメイドと出会ったときと同じように――あるいは、最初のときよりもずっと自然に――、『契約の行為』を始めた。




「前にもやったことだけど……改めて、こんな大勢の前でやるとなると……少し、照れるね?」

 カチューシャに指輪をつけた涼珂は、そう言って照れ笑いを浮かべる。そんな彼女のことを愛おしそうに目を細めながら、同じように指輪をつけ返すカチューシャ。

「今の(わたくし)は、出会ったときよりもずっとずっと貴方のことを愛おしく思っているのですよ……? ですから貴方も、以前よりもずっと深く、強く、熱く……(わたくし)へのすべての愛を込めて、口づけをしてくださいな?」

「はは……。カチューシャは、相変わらずだね? まったく、いけないお嬢……」

 そこで涼珂は言葉を切って、カチューシャの腰に手を回し、ダンスでも踊るように彼女の体を自分のそばへと引き寄せる。そして、接触する寸前まで近くなった彼女の顔に向かって、暖かく湿った息とともに「いや……君はいつだって、僕にとっての最高のお嬢様だよ……」という言葉を言った。

「ああ……。(わたくし)の、愛するスズカ……」

 これまで何度もしてきたように、カチューシャと体を重ねる涼珂。自分の体の心臓の鼓動が、右心臓の彼女の鼓動と重なるのを感じる。

 いや。その鼓動は、これまでよりも、ずっと強く、速い。

 それだけ彼女たちは、お互いを強く感じていた。お互いのことを、強く求めあっていたのだ。

 そして二人は、まるで『契約』なんて関係ないくらいに自然に、どちらともなく引かれ合うように……唇を重ねた。




 そんなカチューシャたちとは対照的に、顔を真っ赤にして自分のパートナーに背中を向けているのは、ユーリアだ。すでに彼女たちも、指輪をつけ合うことは済ませている。だが、『その後の工程』に進むのを手間取っているようだった。

「ち、ちげーよ? あ、あのさ、別に俺は、お、お、お前と……キ、キスを……するとか、しねーとか、そういう話をしてーわけじゃなくってさ……。だ、だってよ! や、やっぱそういうのは、雰囲気とか大事だろっ⁉ も、もっと静かなところで、二人きりのときに、お互いの気分がノッてきたときに、するもんだろっ⁉ ……で、でもよ。ここでやっとかねーと……俺の能力が、戻んねーだろ? そうすっと、このあと多分、この『箱』の外にでたときに、困るっつーか……。い、いや、だからって、ステラの気持ちを無視して、無理やりするつもりなんかねーからな⁉ 勘違いすんなよっ⁉」

 顔を右や左に動かしながら、一人で饒舌に喋っているユーリア。そんなユーリアの言葉を聞いているステラは、ニッコリと微笑む。

「……ユーリア、ちゃん……」

「や、やっぱ、今日のところはやめとくかっ⁉ うん、そうだな! それがいいぜ! こ、こんなもん、やろうと思えばいつでも出来るっつーか……ほ、ほら! あ、あれだろっ⁉ 確か、そういうことすると、子供が出来ちまうんだったよなっ⁉ だ、だから、やるにしても、もっと慎重にやったほうがいいよなっ⁉ へへ、な、なーんつって……」

 彼女たちは、今もまだ視力を奪われたままだ。だから、お互いの表情や態度は分からない……はずだったが。


 しかしそのときのステラには、今のユーリアのことが手に取るように分かっていた。顔を真っ赤にして、必死に、何の必要があるのか分からない言い訳じみたことを言っているユーリア。そんな彼女の表情が、姿が……その本心が、はっきりと分かっていた。だから……。

「よ、よーし! じゃあ、そういうことで、な⁉ お、俺は今日のところは、変なことしたりしねーから、ステラは安心して……」

「……私は、したいよ……」

「へ?」


 何も見えないはずのステラの手がまっすぐに伸びて、ユーリアの手を握る。ぐっしょりと濡れたユーリアの手汗が、ステラの手にうつる。しかし、それを少しも嫌がったりはせず。むしろ、それが本当に嬉しいことのように、ステラはもう一つの手もユーリアの手に重ねる。そして、両手で彼女の手を、自分の顔まで動かした。

「……私が、したいんだよ……それじゃ、ダメ……?」

 視力を失ったユーリアに、自分の顔の場所を教えるような……自分の唇の位置を伝えるような、ステラの行動。そこまでされれば、当然ユーリアもその意味は過不足なく分かる。

「ステラ……」


 いや。きっと彼女だって、とっくに分かっていたはずだ。ステラがユーリアの本心を分かってくれていたように。ユーリアも、ステラの本心は分かっていたはずだ。それだけの絆が、二人の間にはあったのだから。

「ダメだな、俺……。またお前に、カッコ(わり)いとこ見せちまって……」

 ユーリアは覚悟を決めて、自分の顔を、ゆっくりとステラの顔に近づける。やがて、その唇が接触する直前で、ステラが、

「私、そんなユーリアちゃんが好きなんだよ」

 とつぶやいた。それは、いつもの彼女のとぎれとぎれの口調とは違う、はっきりとした言葉だった。

「ステラ……。俺……もっと、お前にふさわしい女になるからな……」

 そう答えて、ユーリアはステラにキスをした。

 それは、『清純お嬢様』にふさわしい、優しくて、相手への誠実な想いと愛に満ちたキスだった。




 その傍らでは。

 ユーリアたちと同じように向かい合ってる、万千華とチャオインの姿があった。

「ホタルン……。ちょーどいい機会だから……ちょっとだけ、あーしの話を聞いてくれる?」

「んー? なになに、マンちゃん?」

「……うん」

 言い出しづらそうに、言葉をつまらせている万千華。いつも明るくて軽い彼女からすると、それは少し珍しい態度だった。しかし、まだ幼くて精神的に未熟なチャオインは、そんなことには気づいていないようだ。いつもどおりの、『お転婆』全開の子供っぽい表情で、万千華を見ていた。


 やがて万千華は、とぎれとぎれに言葉を紡いだ。

「あ、あーしさ……言ったじゃん? 最初に、ホタルンと出会ったとき……絶対ホタルンのことを、一番のお嬢様にしてあげるって……。めっちゃ扱いづらくてトリッキーなホタルンの能力でも、この戦いを勝ち抜いて、優勝出来るってことを証明して……ホタルンに、『願えば夢は叶うんだ』ってことを教えてあげるって……。でも……それ結局、出来なかったね? あーし、ホタルンに嘘ついたことになって……きっとホタルン、がっかりしたよね?」

 それは、二人が出会ったときにあった出来事だ。二人だけが知っている、彼女たちの間でかわされた約束だ。だから、その本当の意味は、きっと二人にしか分からない。それがどれだけ重要であるかということも、きっと二人にしか分からない。

 でも、それでいいのだろう。


「だから……だから……ホタルンがあーしのこと見損なって、嫌いになってても、仕方ないと思うんだけど……。あーしには、もう一度ホタルンのパートナーになる資格なんて、ないのかもしれないけど……」

「……ん?」

 万千華の瞳には、大粒の雫が溜まっている。そんな彼女の様子に、ようやくチャオインも、彼女が「何か大切なこと」を言おうとしていると理解したようだ。しかし、やはりその気持ちの機微までは、まだ子供のチャオインが読み取るのは難しいようだった。

 いつも明るい万千華がなぜ泣きそうな顔でいるのかを理解できないチャオインは、キョトンと首をかしげていた。

「でも……もしもホタルンが、いいって思ってくれるなら……。あーしに、もう一度だけチャンスをくれるなら……。今度こそ絶対に、ホタルンをがっかりさせたりしないから……! ホタルンを、てっぺんまで連れて行って……どんな夢だって叶うんだって、教えてあげられるから……だから!」

 万千華はチャオインの両手を握り、しっかりと彼女の両目を見つめる。その拍子に、万千華の目に溜まっていた雫が、頬を伝って流れる。しかし、彼女は気にせずに言った。

「あーしを……南風原万千華を、もう一度ホタルンのメイドにしてください!」

 それはまるで、不器用な少女が好きな人にする、愛の告白のようだった。

 運動でも勉強でも、人付き合いでも。何でも人並み以上に器用に出来てしまう万千華にしては、あまりにも素朴で、愚直な告白だ。ただ……それだけ彼女の素直な気持ちが、込められているということなのだろう。

 そんな万千華に対する、チャオインは……。

「マンちゃん……」


 ふたりは最強! 永遠の友だち、だよ! とか……。

 ありがとう&私も愛してる! なんて……。

 どこかで聞いたような言葉で、この場にふさわしそうなものはいくつか頭の中に浮かんできた。しかし今この場で、涙を流している万千華に対してそれらを言うことは適切ではない気がして……。あえて、飾らない自分の言葉で答えた。


「マンちゃんは、とっくに私の夢を叶えてくれてるよ? マンちゃんはいつだって私を、最カワのヒロインにしてくれて、最強のヒーローにしてくれてるんだよ? だから私……これからもマンちゃんと一緒じゃないと、いやだよ?」


「ホタルン……」

 それからチャオインは、子供同士がふざけてやるように……チュッと、一瞬だけ自分の唇を万千華の唇にくっつけて、すぐに離した。

 それは、とても可愛らしく、いじらしく、些細な……。しかし、二人の間にある確かな絆を象徴するようなキスだった。

「……あんがとね」

 万千華は照れるようにそうつぶやいて、涙を拭っていた。


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