08
「は、ははは……」
「マ、マジかよ……」
「街全体を『箱』に閉じ込めるとかー! ヤッバー! スケールでけーっ!」
呆れるセーラとユーリア。純粋に、この状況を楽しんでいる様子の万千華。
「もーう。こういうのは、ハロウィンだけにしてー? 私、ホラーとか苦手なのよー」
「……よ、良かった……亡くなった方は、いなかったんですね……」
サプライズのいたずらをかけられたようなリアクションの陽守と、カチューシャが無事だったことにようやく安心した様子のステラ。
「ほ、ほんとに、良かったですぅ……。かわいい女の子が死んじゃうのは、この世界の損失ですからぁ……ぎゅふ、ぎゅふふ……」
いつもの変態性を取り戻し、抱き合うカチューシャと涼珂の姿を見て、何らかの欲求を満たそうとしている日枝奈。
「くぅ……くぅ…………のじゃっ⁉」
陽守の腕の中で穏やかに眠っていたミコちゃんが、そこでようやく目覚める。
「カチューシャちゃん、生きてるって感じーっ!」
ここぞとばかりに、どこかで聞いた決めゼリフをぶち込んでくるチャオイン。
「んにゃー? 朝からずっと気になってたんにゃけど、あの空の文字、何だったんだニャー?」
レイニャにいたっては、空に浮かぶカチューシャの『箱』の文字に最初から気づいていたのに、その意味を理解していなかったようだ。――それどころか、実は彼女は図書室に横たわるカチューシャを見たときから、その匂いや肌の状態で、彼女の体がまだ死んでいないということにも気づいていたのだが……難しいことを考えるのが面倒だったので、何も言わなかったくらいだ。
「は、はは……あははは……」
見事に一同を騙してみせた自分の主のすごさに、瑠衣は改めて感動のような気持ちを抱かずにはいられなかった。
「じゃ、じゃあ……さっきマリー様が言っていた『時間稼ぎ』って、カチューシャちゃんの輸血が終わって、彼女が復活できるまでの時間をかせいでたってことですか?」
「ええ。そういうこと」
「あ、レイニャちゃんの能力のときの『隠しごと』ってのも、そのカチューシャちゃんのことだったんですね?」
「まあ、それもあるけれど……別にそれだけとは、限らないけどね」
「え?」
そんな瑠衣に、マリーは相変わらずの落ち着いた傲慢な態度で、妖しく微笑むのだった。
「……でー?」
誰もが驚いたり、感動したり、カチューシャの無事に喜んでいる中で。
「いつになったら、私たちをこんなクソみたいな茶番に巻き込んだ理由を教えてくれるのかなー? ……ねえー? 優しいマリーちゃーん?」
一人だけ、マリーに騙されたことに純粋にイラついているらしい小鳩が、道端に捨てられたガムを踏んでしまったとでもいうように眉間にシワを寄せた表情で、彼女を睨みつけていた。
「ひっ……」
小鳩のその視線は、これまで何度も彼女がイジメをしてきたときにやっていたもの。瑠衣にとっては、カエルや蜘蛛やゴキブリなんて比じゃないくらいに苦手なものだ。
最近は、いつもマリーがそばにいたからか、小鳩が瑠衣に絡んでくることもなくて忘れかけていたが……。彼女のその視線を見た瞬間、今までのトラウマを思い出して、瑠衣の体は凍えるように小さな震えが止まらなくなってしまった。
そんな彼女の手に、突然隣のマリーが自分の手を重ねる。
「……え」
マリーは、何も言わない。瑠衣のほうを見てさえいない。
しかし、その手はうっかり触れてしまったなどではなく、確実な意思をもってマリーが瑠衣の手の上に差し伸べたものだ。
不思議なことに、それだけで瑠衣の体の震えは、ピタリと止まってしまうのだった。
それからマリーは、瑠衣とさり気なく手をつないだまま、さっきまでと何も変わらない調子で本題に入った。
「ええ、そうね。貴女の言うとおりだわ。私も、そろそろこの集まりの本当の目的を話したいと思っていたところだったのよ。どうして私が今日、貴女たちをここに集めたのか。どうしてカチューシャと協力して、さっきみたいな茶番を演じたのか……」
「だぁかぁらぁ! そういうふうに、もったいつけてないで……!」
苛立ちながら口をはさもうとする小鳩を遮って、マリーは言う。
「最初に言ってあったとおり。この集まりは、私たちが進めていた調査の結果を貴女たちに教えてあげることが目的。調査の結果……つまり、私たちをこの戦いに巻き込んだ張本人……この戦いの『主催者』の正体をね」
「え? そ、それは、アンタたちがワタシたちを騙すために、適当言ってただけじゃあ……?」
「いいえ」
マリーは含みのある表情で首を振る。
「そもそも私、ずっと気になっていたのよね。この戦いが、あまりにも狭い範囲で行われている、ってことを。だって、そうでしょう? 私と瑠衣はこれまで、学校の外の博物館とか、郊外のアミューズメント施設とか、隣の県とか……いろいろなところに行ってきたわ。それなのに、私たちの戦いの相手として現れた貴女たちメイドは、瑠衣の同級生か教師だけ。本当なら、もっと無関係にいろいろな人間が選ばれていてもおかしくないのに……なぜか全員、『瑠衣の学校の関係者』だったの。つまりこの戦いは、かなり狭い範囲を舞台に開催されていたってことになる。だったら、この戦いの『主催者』もその狭い範囲を見通せるくらいにすぐ近くにいる……むしろ、その狭い範囲の中にいる。私たちが知っている誰かが『主催者』……って考えるのが、自然でしょう?」
「……じゃ、じゃあ……本当に……」
恐る恐る尋ねるステラの問いに、小さくうなづくマリー。
「さっきのカチューシャの死は確かに、私たちが仕組んだ、ただのフェイクよ。でも、最初に言った『この戦いの主催者が分かった』と言う言葉は、嘘じゃなかったの。私たちは本当に、この戦いの『主催者』の正体が分かった。……いいえ。というよりむしろ私、ずっと前からとっくに分かっていたのよ。でも、今まではその確かな根拠となるものがなかったから、最後の一歩を踏み出すことが出来ずにいたの。だけど今日……その根拠をようやく手に入れたわ」
それからマリーは、その場にいる一同を一人ずつゆっくりと見回した。
そして、その視線が最後の一人までいくと、今度はその場の全員に宣言するように、ハッキリとこう言った。
「さっきの『カチューシャの偽りの死』は、この戦いを仕組んだ『主催者』をあぶりだすために、私が仕掛けた罠だったのよ。そして愚かな『主催者』は、その罠にまんまと引っかかってくれた。今日この学校に集合してから今までの中で彼女は、『本来ならば絶対にありえないような言動』をしてしまった。言い逃れすることのできない証拠を、私たちの眼の前で見せてしまったのよ。さあ……この十四人の淑女とメイドの中にいる『主催者』の正体を、今こそ明らかにしましょう。これが最後の……答え合わせよ!」




