05
「ま、まあ、ともかく」
それまで、誰かの言葉に驚くばかりでザコキャラ全開だったのが、我慢ならなかったのか……そこで突然、セーラがその場を仕切ろうと、でしゃばってきた。
「これで、『命令』がワタシたち淑女には効果がないことが分かったわけだけど……。でもだからって、その能力がまるで無意味ってこともないでしょう? だって、ここにいる人間だけでも『命令』して犯人じゃないことを証明しておけば、容疑者はそれ以外の淑女六人に絞りこまれるわけだからね? だったら、やる価値は充分にあると思うわ」
「そ、そうねー。私はともかく、他の生徒ちゃんたちの潔白を証明するために、えっと、そこの……レイニャちゃん、だったわよねー? レイニャちゃんの能力を使ってもらうのは、とてもいいことだと思うわー」
賛同する陽守の言葉に、満足気に頷くセーラ。そして、それと同じような言葉を期待して、他の人間たちにも目を向けた。
「じゃあ、とりあえず今できることとして、アンタたちメイドの人間たちにだけでも『命令』をしてもらって……」
だが、
「は? 私、誰かに『命令』されんのとか絶対やだし。やるんなら、他の奴らだけでやってよ」
パートナーの小鳩は、当然のように拒否してきた。
「は、はぁっ⁉ ちょ、ちょっとアンタ! こんなときに何言って……」
更には、
「あ、あ、あのぉ……。わ、私も実は、人には言えない『隠しごと』が結構あってぇ……ちょっと、『隠し事を言え』とか『命令』されちゃうと、困るっていうかぁ……。い、いえ! も、もちろん、法に触れるようなやつは……それほど……多くはないですよ? ギリで、少年法が守ってくれる範疇というか……。情状酌量の余地はあるというか……。そ、それでも、私がうっかりレイニャちゃんの『命令』で、そういうの喋っちゃったりなんかしたら……た、多分みんな、ヒイちゃうっていうかぁ……。通報とかされると、困るっていうかぁ……」
日枝奈が、青ざめた表情でボソボソとつぶやいている。
「……わ、私も……うっかり変なこと言っちゃったら……恥ずかしい……かも……」
「バ、バカ! ステラが犯人なわけねーんだから、『命令』なんかされる必要ねーだろっ!」
困った表情のステラを、ユーリアが守るように言う。
「あははー。参ったねー? あーしは別に、『命令』されてもいーんだけどさー……でもこうゆうのって、みんなでやんないと意味なくなーい?」
万千華も、そんな周囲のリアクションを「仕方ないなー」という表情で笑っている。更には、一度は賛同してくれたはずの陽守でさえも、
「だ、だから、私もいいんだってばー! あくまでも、生徒ちゃんみんなの潔白を証明するために、やったほうがいいって言ったのー。だから、みんながやらないなら、私だってやる必要はないっていうか……むしろ大人には、言わない方がいいことがいろいろあるんだから……ね?」
と言って、自分に対して『命令』を使われるのには難色を示していた。
「も、もーうっ! 何なのよ、アンタら! せっかくこのワタシが提案してあげてるっていうのに、ドイツもコイツもおかしなこと言ってー!」
結局、自分のアイデアを台無しにされて、大人しく引き下がるしかないセーラだった。
「……」
ステラの提案で一度は大きく動くかと思った議論は、行き詰まってしまったようだ。誰もが、これ以上何を言っていいのか分からなくなって、黙っている。
話が停滞して、教室にしばらくの沈黙の時間が流れた。
「つか、さー……」
そこで、小鳩がつぶやいた。
「結局これって、普通に殺人事件でしょ? 私たちがいつまでもこんなことしてるより、さっさと警察呼んで任せちゃったほうが、いいんじゃないの?」
「だ、だから小鳩、アンタはそうやってまた……」
また、やる気のない彼女が自分勝手なことを言い出したと思って、反射的に否定しようとするセーラ。しかし、
「……あ……確かに……」
「……へ?」
「ま。ぶっちゃけそのほうが、いろんな証拠とか、ちゃんと見つけてもらえるかもねー?」
「あ、あれ……?」
「そうねー。こういうのは、プロに任せちゃうのが一番よねー」
「そ、そういう感じ……?」
「け、警察ぅ⁉ ちょ、ちょっと、待ってくださいよぉっ⁉ よ、呼ぶなら、ちょっと時間もらってもいいですかぁっ⁉ わ、私、いろいろと隠さないとマズいものが……」
「いやいやいや……」
突然焦り始めた日枝奈を除いて。
意外と小鳩のその意見は、周囲にも受け入れられていた。それも、メイドだけではなく、淑女たちにも。
「んにゃー。もう、用は済んだのかニャー? レイニャ飽きてきちゃったから、餌取りに外に出掛けるニャー」
『天然お嬢様』のレイニャが、大アクビとともにそんなことを言って、移動を始めるのを皮切りに。
「そ、そうだな。こんな不愉快なとこ、いつまでもいてらんねーよ! ステラ、帰ろーぜ⁉」
そう言って、ユーリアもステラの手を引いて教室を出ていこうとする。
「あー! マンちゃん、早く帰らなきゃ! もうすぐスーパーニチアサタイムの再放送が始まっちゃうよぉーっ!」
キャラクター物の腕時計を確認したチャオインが、慌ててそんなことを言う。
「……くぅー……くぅー……」
幼いミコちゃんにいたっては、疲れてしまったのか、すでに陽守の腕の中でぐっすりと眠っている。
周囲につられるようにして、他の淑女とメイドたちも、次々とその空き教室を出ていこうとし始めた。
「んじゃ、この件については、誰か警察連絡しといてよ。どうせ私は無関係だし、最初からここには来なかったってことにしといてー」
そんな小鳩のセリフを最後に、結局その集まりは、勝手に解散ということになってしまいそうだった。
「ま、待ってください!」
そこで突然、部屋中に響くような大きな声を上げた者がいた。
瑠衣だ。
それまでずっと大人しくしていた彼女がいきなり大声を出したので、部屋を出ようとしていた誰もが立ち止まり、怪訝な顔で振り返る。
「もう、いいですよ。いつまでもとぼけるのは……もう、やめにしましょうよ」
それから彼女は、自分と同じように部屋に残っていた人物に向かって、重苦しい事実を宣告するように、こう言った。
「犯人は、あなたなんでしょう? ……マリー様」




