04
「マジかよっ⁉」
「マ、マジですのっ⁉」
ユーリアとセーラが、同時に声をあげた。
「ちょ、ちょっとアンタ! は、犯人が分かったって、それって、ほんとうに…………ぐえっ!」
「ス、ステラ、お前やっぱすげーぜっ! もう犯人が分かっちまうなんてなっ!」
何か声をかけようとしていたセーラを押しのけて、ユーリアが自分のメイドの肩に腕を回す。
「さっすが、俺が惚れた女だぜっ! おらっ、おめーら覚悟しろよっ⁉ これから俺のツレのステラが、おめーらの中にいるだせぇ殺人犯人を、ガッツリ明らかにしてやっからなっ!」
「……ちょ、ちょっと……ユーリア、ちゃん……」
完全に強気になって、まるで自分の手柄のように自慢気なユーリア。さっき突き飛ばされたセーラがものすごい表情で睨みつけているのも、全然気にしていないようだ。
そんなパートナーの先走りを、ステラは慌てて訂正した。
「……ち、違うよ……まだ私……カチューシャちゃんの胸にナイフを突き刺した犯人が、分かったわけじゃない……よ……。……ただ……それを知る方法なら……分かるかも……って言っただけで……」
「え?」
そしてステラはマリーの方をむいて、
「……そのために……その前に……みんなの使える能力のことを、ちゃんと知っておきたいんだけど……いい、かな……?」
と尋ねた。
マリーはそれに対して、相変わらず不敵な微笑みを浮かべながら、
「ええ、もちろん。実は私も、カチューシャと合流したら、私たちの間ですべての情報を共有しておくべきだと思っていたんだもの。お互いの淑女能力も含めた、私たちが知っているすべての情報を……これからのために、ね」
と言った。
それから彼女たちは――今更ながら――お互いのことについて自己紹介のようなものをした。
彼女たちが、自分たち以外のペアについて知っていることの情報量は、それぞれ全くバラバラだった。当然一番詳しかったのはほとんどのペアと対戦経験があるマリーと瑠衣で、彼女たちはミコちゃんと陽守ペアを含む全てのペアについて、だいたいの淑女能力や『設定』を知っていた。
それ以外では、マリーたちと対戦する前に独自に他のペアの調査をしていたチャオインと万千華ペアや、ユーリアとステラペアが、完全ではないにしてもなんとなくの情報を持っていたようだった。
「……な、なるほど……」
それぞれの話を聞いて、何度か頷いていたステラ。手に入れた情報があまり望んでいたものではなかったのか、表情はさっきより少し曇っている。
「そ、それで? ど、どうなんだっ⁉ あいつの胸をナイフでぶっ刺したクソ野郎は、いったいどいつなんだっ⁉」
ステラのことを完全に信頼しきっているユーリアは、ステラに期待をこめた視線を向けている。そんな彼女に、申し訳なさそうに、
「……ご、ごめん……もしかしたら、ちょっと……ダメ、だったかも……だけど……」
と謝るステラ。
しかし、それでも自分の言葉を待ってくれているユーリアに応えたいと思ったのか、続けてこう言った。
「……わ、私……思った、んだ……。……もしも、この中に、カチューシャちゃんを、あんな目に合わせた人がいるなら……。……隠し事をしている人が、いるなら……。……それを……『命令』で、白状させればいいんじゃ、ないかって……」
「⁉」
その言葉の意味に気づいた数人が、一斉に、「彼女」の方に顔を向ける。すると、顔を向けられたその「彼女」……『天然お嬢様』のレイニャは、退屈そうに大きなアクビをして、首をかしげた。
「んにゃ? ニャんか、レイニャに用かニャー?」
「ふふ……なるほどね」
マリーが、口角を上げてニヤリと笑う。
「そ、そうよ! 何でも言うことを聞かせられる能力で、全員に『自分が犯人かどうか正直に言え』って『命令』すれば、犯人は自白するしかないじゃないのっ⁉」
セーラが、驚きの表情で言う。
「は……ははっ! ほ、ほら、言っただろっ! やっぱ、ステラはすげーんだよっ⁉ これでもう、犯人は分かったも同然だなっ⁉ 一見落着ってやつだぜっ!」
ユーリアが、嬉しそうに何度もステラの背中を叩きながら言う。
そんな中……、
「だ、だめ、ですよぉ……それぇ」
今も床に座り込んで震えていた山寺日枝奈が、絞り出すような声で反論した。
「ああん? 何だ、てめー?」
ステラを否定されたと思って、恐ろしい視線で睨みつけるユーリア。
「ステラの言ってることに、なんか文句あんのかよっ⁉ 言ってみろよ! 何が、ダメだっつーんだよっ!」
「ひ、ひぃーっ!」
それはまるで、田舎のヤンキーに絡まれる気弱なオタク少女のような構図だ。しかし、日枝奈は負けずに、小さくしゃがんだままつぶやきを続けた。
「だ、だって……だって……だってぇ……。レイニャちゃんの能力、『百獣の女王の勅命』はぁぁ……お嬢様たちは、操れないんですからぁ……」
「あ?」
「い、今でこそ、レイニャちゃんは私のこと相手にしてくれなくて……。もっぱら放置プレイ一辺倒って感じですけどぉ……。じ、実は……出会って最初のころはまだレイニャちゃん、少しは私の相手してくれてぇ……。そ、そのときに、いろいろ教えてもらってたんですぅ……。レイニャちゃんの淑女能力の『制約』とか……。レイニャちゃんのスリーサイズとか……。体のどこを触られると、一番キモチイイのかとか……」
カチューシャのことでそれどころではなかったはずの変態性が、今になってにじみ出てしまう日枝奈。しかし、そんな場違いなことを口走った彼女に対する周囲の冷たい視線を感じたのか、すぐに話を戻した。
「ゲ、ゲフン、ゲフンっ……そ、それで、知ったんですけどぉ。レイニャちゃんの淑女能力にとって、人間とお嬢様たちって、別の扱いらしいんですぅ。私たち人間は『命令』能力で自由に操れるけど……マリーちゃんとかセーラちゃんとかのお嬢様たちは操れないんですぅ。レイニャちゃんの能力でこの場の全員に『本当のことを言え』って『命令』してもぉ、お嬢様たちにはその『命令』は効かないから、好き勝手に嘘がつけるんですぅ。だ、だから、もしもカチューシャちゃんの心臓を刺した犯人が六人のお嬢様の中にいたとしたら……レイニャちゃんの『命令』なんて、意味ないんですぅー!」
「な、何だよ、それ……」
「……や、やっぱり……そう、なんだ……」
残念そうにつぶやくステラ。
彼女もさっき、淑女たちからそれぞれの淑女能力の詳細を聞いていたときに、そのことに気づいた。だから、自分でも「ダメ、だったかも」なんて言っていたのだ。
現時点では、強力な『箱』の能力を持っているカチューシャの心臓にナイフを突き刺したりできるような犯人は、同じような特別な淑女能力を持っている淑女たちのうちの誰かの可能性が高い。しかし、そんな淑女たちには『命令』が効かないということになれば、やはりステラの考えた方法で犯人を見つけるのは難しいように思えた。
しかし。
「でも……本当に淑女には、『命令』が効かないのかしら? 確かめておいても、いいかもしれないわね」
そこでマリーがおもむろに、そんなことを言いだした。彼女はレイニャに向かって話しかける。
「確か貴女……私たちと戦ったときは、瑠衣にしか『命令』をしなかったわよね? よかったら今ここで、私に何か『命令』をしてみてくれる? 一応、念のための確認としてね」
「んにゃー?」
言われたレイニャは足で頭をかいて、「めんどくせーニャー……」と、顔をしかめる。しかし、気まぐれな彼女らしく、すぐに気が変わったのか、
「ま、いいニャン。やってやるニャン」
と言って、小さくジャンプして一瞬でマリーの前までやってきた。
「んじゃ、『命令』してやるニャン」
そう言うレイニャの横で、ここぞとばかりに日枝奈が、
「せ、せっかくならレイニャちゃん、な、何かえっちな『命令』にしとかない? も、もしも、うっかり通用しちゃった場合のために……」
なんて耳打ちをするが、当然のようにレイニャはそれを無視する。
そして、マリーに向かって目を合わせて、
「お前……『隠していることを言え』ニャ」
と、『命令』した。
しかし、
「ふふ……」
マリーは何も言わずに、小さく微笑むだけだった。
「だめね。やっぱり、私たち『淑女』には『命令』の効果はないみたいね」
「……そ、そう、ですよね……」
「ふ、ふんっ! 何よ。それじゃあ結局、ソイツのその能力じゃあ、犯人わかんないってことね? あーあ、さっき驚いて損したわ!」
ステラやセーラも、その結果に改めて落胆の色を示す。
ただ、『命令』を言ったレイニャだけは、せっかく使った自分の能力が空振りしたというのになんだか楽しそうだ。顔を誰にも見えない角度に向けて、
「にゃひ……食えねーやつだニャー」
なんて、つぶやいていたのだった。




