03
「ちょ、ちょっと待ちなさいよっ⁉ ア、アイツを殺した犯人が、ワタシたちの中にいる、ですってっ⁉ マ、マリー、アンタ……何をバカなことを言ってんのよっ!」
マリーのその言葉を想像もしていなかったらしいセーラは、明らかに取り乱した様子だ。
しかし、そのパートナーの小鳩は、逆に当然のことのように、
「ま、そうなるよねぇ……」
と、ため息まじりにつぶやいた。
「こ、ここにいる全員が、容疑者ってことかよっ⁉ お、おい、バカ言ってんじゃねーぞっ、てめー⁉ 取り消せよっ!」
ものすごい剣幕で、ユーリアがマリーに掴みかかる。それに対してマリーは、落ち着いた態度で応える。
「ここにいる全員? いいえ、違うわ。ここにいる全員と……それに加えて、さっき図書室で泣いていたカチューシャのメイドも含めた十三人が、容疑者なのよ」
「そ、それじゃ、変わんねーんだよっ! い、いいか! 俺が言いてーのはな、あんな恐ろしいことを、俺のメイドのステラがするわけねーだろっつうことだよっ!」
思い出したかのように「……も、もちろん、俺だってやってねーに決まってるけどよ!」と付け加えるユーリア。自分のパートナーの幸島ステラのことを第一に考えている彼女が主張したかったのは、何よりもまず、ステラの身の潔白だったらしい。
「……で、でも……みんなにそれを証明することは……出来ないよ……」
しかし、言われた側のステラは、彼女よりももう少し冷静のようだ。顔面蒼白の表情で、ユーリアをいさめていた。
「うーん……でもさー」
チャオインを後ろから抱きしめる姿勢のまま、万千華が口を挟む。
「正直、あのカチューシャっちを『あんなふう』にできるなんて、そうそう誰にでもできることじゃないよねー?」
陽守が頷いて、それに続く。
「そ、そうよおー? 真面目で可愛いうちの生徒ちゃんたちが、誰かの胸に刃物を刺すなんて恐ろしいことを、出来るわけないわあー。そ、それに、まだ小さなミコちゃんとかチャオインちゃんとかだって……」
「あ、いえいえ。そういうことじゃなくってっすね」
しかし、そんな陽守の言葉を、万千華は丁寧にさえぎる。
「あーし、前にちょっとだけカチューシャっちと話したことあんだけどねー? んで、そんときに、カチューシャっちの能力もちょっと聞いたりしたんだけどねー? あの子の『箱』の能力って、ぶっちゃけ無敵っぽくなーい? おんなじような不思議なチートスキル持ってるオジョーサマたちならまだしも、そーゆーのない、普通の人間のあーしたちがどんだけスキをついて奇襲しても、カチューシャっちに『箱』に閉じ込められたら終わりっつーか。だから、うちらパンピな人間が犯人っていうのは、ちょーっと無理があるんじゃね? ……まして、さっきのカチューシャっちは背中じゃなくて胸をナイフで刺されてたしー」
「ど、どういうこと……?」
尋ねるセーラの言葉に答えたのは、小鳩だ。
「後ろからじゃなく、体の前から刺されてる……ってことは、さっきのあいつは犯人の姿を見てるはずだし、刺される前に面と向かって犯人と話したりしてたのかもしれないってこと。どっちにしろ、あいつのスキをついて奇襲したりしたわけじゃないっぽいってことでしょ」
彼女は冷酷に、「そのくらい、言われなくても分かってよ」と付け足す。だがそれは、いつもどおりセーラを煽ってイジメているというわけではないらしい。むしろ、今のこの展開が彼女にとって望ましいものではなく、不機嫌になっているだけのようだ。
「ニャーッ、ニャッ、ニャッ、ニャッ! おめーら、だっせーニャーッ⁉ レイニャだったら、どんな状況だって対戦相手のスキをついて奇襲できるニャーン! むしろ、あんな武器なんか使わニャくたって、余裕でアイツをぶっ殺せるニャーッ!」
趣旨を理解していない『天然お嬢様』のレイニャがそんなことを言うが、それは、普通に全員が無視していた。
そこでユーリアが、少し安心したようにつぶやいた。
「け、結局、人間じゃさっきのやつを倒せねーっつうことはつまり……あんな恐ろしいことをした犯人は十三人なんかじゃなく、俺ら六人の淑女の中の誰かに絞られるっつーことだな? ま、まあ、それなら……」
しかし……。
「あら、それはどうかしら?」
妖しい微笑みを浮かべたマリーが、それを否定した。
「メイドたちは何も能力を持たない『ただの人間』。だから、犯人ではない……というのなら。それには当てはまらないメイドだって、この中にはいるんじゃない? 少なくとも……瑠衣、貴女は違うわね?」
「えっ⁉」
突然マリーに話を振られて、驚いて大きな声を上げてしまう瑠衣。
「え、えと……あ、あの……」
しかも、その振られた話の内容があまりにも想定外だったので、言葉がつかえてしまう。そんな瑠衣の様子を、まるで「罪を告発された犯人が慌てている」とでも思ったのか、セーラが彼女を指差して叫ぶ。
「そ、そうよっ! マリーの淑女能力は、『自分のメイドに力を与える』ってヤツだものっ! つまり、能力を使ってさっきのアイツを殺すことができるとしたら、それは『力を与える』能力を持っているマリーのほうじゃなくて、それで力を与えられたメイドの方ってことなんだわっ!」
「そ、そ、そんなっ⁉ た、確かにマリー様に能力を使ってもらえば、私だってすごい力が出せますけど……だ、だからって私が、カチューシャちゃんをナイフで刺すとか……そんなことするわけないじゃないですか⁉」
取り乱している瑠衣には、そんなセーラの早とちりにも満足に反論することが出来ない。そこに、慌てて教員の陽守が助け舟を出す。
「そ、そうよー! それをいうなら、ミコちゃんの能力で不思議な力を授かった私だって、同じよー? だから、それだけで瑠衣ちゃんのことを犯人扱いするなんて、おかしいわー!」
「で、でも、マリーとそのメイドは、さっきのアイツと戦って勝ってるわけでしょ⁉ それなら、さっきのヤツの弱点とかを知ってるのかもしれないし……。動機だって、一度対決した相手のほうがいろいろと因縁ありそうだし……。だ、だから……!」
「はいはい」
先走るセーラにうんざりするように、小鳩がまた口を挟む。
「つか、ビビリな瑠衣ちゃんじゃあ、どんだけマリーちゃんの能力で怪力になったところで誰かに『あんなこと』出来るなんて、思えないけどねー? ……そもそも、ただ胸にナイフ突き立てるのに、別に怪力いらねーし」
相変わらず、興味がなさそうにスマホに顔を向けたまま、つぶやき続ける小鳩。
「マリーちゃんが『犯人はこの中の誰か』とか言ったから、そんな気がしてるだけでさあ。別に、そう決まったわけじゃなくない? 実際には、外部の全然知らない変質者が、ぶらっと学校に侵入してやったのかもよ?」
そこでようやく顔をあげた小鳩。鋭い目つきでマリーをにらみつけて言った。
「てか……さっきから思わせぶりに笑ったり、勝手に話を仕切ったり……マリーちゃん、何か私たちに隠してるんじゃないの? 私、そういうふうにもったいぶった態度するやつとか嫌いって、言わなかったっけ?」
「うふふふ……さあ、どうかしら?」
マリーは相変わらず、自分を追及する小鳩も含めた一同のリアクションを楽しんでいるかのようだ。焦るでも慌てるでもなく、ただ不敵に微笑んでいた。
あるものは、さっきの驚きを引きずって、挙動不審に震えている。またあるものは、時間をおいたことで落ち着きを取り戻したのか――あるいは、そもそも驚いていたこと自体が演技だったのか――、冷静に今の状況の考察を始めている。
心臓にナイフを突き刺されたカチューシャの姿は、それを見た十三人それぞれに異なる反応を引き起こした。
「……」
しかしその中でも、特に瑠衣にとって一番気になる反応をしていたのは……やはり、自分の主のマリーのものだった。
(マリー様……やっぱり、何かおかしいよ。私が、マリー様の全てを知ってるわけじゃないけど……。そんなの、おこがましいと思うけど……。でも、普段の、私の知っているマリー様だったら、知り合いのカチューシャちゃんが死んじゃって、あんな態度とるはずない。やっぱり……まさか……)
と、そこで。
「……あ、あの……」
それぞれが意見を言ったり思い思いのリアクションをとって、まとまりがつかなくなっていた教室内で。恐る恐るという雰囲気で手を上げた幸島ステラが、こんなことを言った。
「……も、もしかしたら……なんですけど……。……犯人が誰か……分かるかもしれない、です……」




