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(い、いやいやいや! ダメよ、ワタシ! これじゃあ結局、いつものギャグキャラじゃないの⁉ い、一旦、落ち着かないと……)
気を取り直して、冷静になるセーラ。
(絶対に、何かあるはずなのよ。違和感が……この状況を打開するための、ヒントが。だって、あの忌々しいマリーに出来てワタシに出来ないことなんて、あるはずがないんだから。……そうよ。ワタシは、こんなところで敗北している場合じゃないの。あんなクソガキごときに余裕で勝って、ワタシはマリーを見返さないといけないのよ。……それに)
彼女の頭を支配していたのは、もともとあったマリーに対する大きな復讐心。そして、今はそれを超えるくらいに大きくなっている、もう一つの感情だ。
(小鳩……ワタシをかばってくれたアンタのためにも、ワタシは負けるわけにはいかない。なんとしても、この相手に勝ってみせる……勝たなくちゃ、いけないのよっ!)
彼女の頭の中を、今までの記憶が蘇る。
それは、今までセーラと小鳩が歩んできた道のり。彼女たち二人が経験してきた、絆の記憶だ。その絆の力は、前回の瑠衣やユーリアのように、一人では到底届かないほどの実力以上の力をセーラに与えて……。
ねえー。私、もう帰ってもいいかなー? メチャクチャだるいんだけどー?
(……)
うっわ、マジかよ。こいつ、一人じゃ何もできねーな。
(…………)
えー? セーラちゃんは普通に、負け犬のかませ犬だよー?
(………………)
とっとと自分の世界におかえり下さいませ、ザコ主人様ぁ?
(ああもう! 小鳩との間に、いい思い出なんか一つもないわよっ! これのどこに、絆があるっていうのよーっ!)
今までさんざん小鳩にバカにされてきたことを思い出して、結局ギャグキャラになって脳内でツッコんでしまうセーラなのだった。
(……いえ)
しかしそこで、セーラは気づいた。
(そうよ……どうして今まで、気づかなかったのかしら……? ある、じゃない……あった、じゃないの!)
それはあまりにも単純で……だからこそ、今までなかなか気づくことが出来なかったことだった。
(違和感……。あの能力を攻略するために、違和感が大事だと言うのなら……。ワタシが勝つためのヒントが、この戦いの中の違和感にあるというのなら……。ワタシはとっくに、一番大きな違和感を感じていたはずじゃないの!)
次の瞬間、素早く動くセーラ。
「な、何じゃっ⁉ ……ふ、ふん!」
対戦相手がいきなり動き出したことに驚いて、一瞬警戒するミコちゃん。だが、その警戒はすぐに解かれた。
それはセーラの向かった先が、「参道に横になっている小鳩」だったからだ。セーラが戦いを中断して倒れているパートナーの身を案じているだけだと思って、警戒は不要だと考えたのだ。
だが、セーラの目的はそうではなかった。
(違和感というのなら、小鳩……「アンタがさっきワタシをかばったこと」よりも大きな違和感なんて、存在しない。いつもワタシをバカにしていたアンタが、「大木が倒れてくる」なんていう、どう考えても無事でいられるはずがない状況で、ワタシの身代わりになるなんて……そんなのありえない! あの憎たらしいアンタが、そんなことするわけない! もしかしたらアンタ……すでにあのとき、ワタシが知らない「何か」に気づいてたんじゃないの⁉)
横になっている小鳩を再び抱きかかえ、彼女をもう一度よく観察するセーラ。
やはりその姿はほとんど無傷で、倒れたときに打った後頭部が少し腫れているくらいだ。念の為、変身させられている彼女のゴスロリ服を少しめくって、大木が直撃していた腹のあたりを見てみる。だが、やはりそこもアザになったり血が出たりしてしない。
(やっぱり小鳩は無事だわ。でも、無事……すぎるのよね。こんなに大きな木にぶつかったっていうのに……)
小鳩の腹部を強打して、真っ二つになっている枝垂れ桜に目を移す。幹の断面はバラバラになっていて、その桜が枯木で、相当脆くなっていたことを思わせる。しかし……。
セーラはそのバラバラになった木の一欠片をつまみ上げると……おもむろに、その端を口に入れてみた。
サクッ……。
口当たりのいい食感、香ばしい匂い、そして……「子供受けしそうな甘み」が広がる。
(こ、これってまさか……。で、でも……そんなのおかしいわ。だって、あのときは確か……)
予想していた結果ではあったが、それが意味することを完全には把握しきれず、混乱気味の表情で目を右往左往させる。そのせいか、セーラの視線は今まで見てこなかった方向に向かい、今まで気づかなかった景色に気づかせた。
(あ、あれは……!)
そのときセーラが見つけたのは、本来ならばここにはあるべきでないもの。しかし、この戦いが始まるずっと前から、確かにこの神社に存在していたものだ。
「……ふ、ふふふ……ふふふふ」
それが意味することに気づいたセーラは、小さく笑う。それも、頭の中ではなく実際に笑い声を声に出している。
「そう……。そういうこと、だったのね……」
すでに彼女は、確信していた。
「ああ……。本当に……どうして今までワタシ、気づかなかったのかしら……? こんな簡単なことに……。だってワタシたち、今までずっと、そのことばかり考えていたはずなのに……」
自分はもう、何かを考える必要はない。頭の中で作戦を立てる必要はない。だって、もうわかっていたのだから。相手の能力の弱点……そして、自分がもう負けることはないということに。
それを確信していたから、セーラは自分の言葉を声に出していたのだった。
「ほ、ほらミコちゃん、もうこんな戦いは終わりにするわよー⁉ このままだと、頭を打っちゃった小鳩ちゃんがイタイイタイしてて、かわいそうでしょー⁉」
「わ、わかってるのじゃっ! ごちゃごちゃ言うでない! 今、やろうとしてたところなのに、横から言われるとやる気をなくすのじゃっ! ……よ、よし、おぬし、覚悟せいよ⁉ これから妾が、本気を出して……」
「覚悟するのは、アンタたちの方よっ!」
セーラはさっさと勝負を決めようとする対戦相手たちを黙らせ、彼女たちの方に向き直って、余裕の表情で言った。
「よくも今まで、好き勝手やってくれたわね⁉ もう、アンタの能力なんか何も怖くないわっ! これから最強にして最凶のワタシの実力を、嫌って言うほど思い知らせてあげるんだからっ!」
それから彼女は目の端でまた、さっき見つけたものにチラリと視線を向けた。
彼女がさっき見つけた、この神社にそぐわないもの。それは……。
地面から少し高くなった土台の上に四本の柱があり、瓦の屋根がのった、小さな東屋のような建物。そして、その中に吊るされている銅製の大きな『鐘』だ。時を告げるために決まった時刻に鳴らされるもので、大晦日の除夜の鐘というイメージでも有名な……いわゆる鐘つき堂だ。
本来ならば仏教の寺院に存在すべきものだが、神仏混淆という日本の歴史の中で神社に作られたことも多くあり、今回の戦いの舞台となっている神社にもその名残として残っていたのだ。もちろん、イギリスがモチーフのセーラがそんなことを知るはずもなかったが……しかし、「ここにそれがある」という状況が何を意味しているのかは、よくわかっていたのだった。
「さあここからが、おしおきの時間よ! オーッホッホッホー! オーッホッホッホー!」




