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主従戦線レイディ × メイド!  作者: 紙月三角
場外戦 悪役お嬢様 ÷ 性悪メイド = 最凶チーム? vs わがままお嬢様
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06

「やっぱりさっきも……『嫌』って言ってから、『鳥居』を出してたわね」

 少し落ち着いて、さっきミコちゃんが能力を使っていた様子を振り返るセーラ。『嫌』、『鳥居』、『変換』……それは、さっき彼女が考察した通りの流れだった。自分の考えが正しいことを確信し、満足気にうなづく。しかし、だからといってまだ彼女には相手の能力の全貌がわかっているわけではなく、現時点ではその事実はあまり意味がないようだった。


(能力を使うときに、必ず『嫌』という言葉を言わないといけないなら……その言葉を言わせなければ、能力を封じることが出来るってこと? でも、たった二文字の『(いや)』という言葉を言わせないなんて、そう簡単に出来るものじゃないわ。せめて、ワタシの敵者(サバイバル・オブ)生存(・ザ・バッデスト)がアイツに効くなら、それも可能かもしれないけど……。現時点では、どれだけ『アイツの嫌いなもの』を作っても、それを『好きなもの』あるいは『好ましい状況』に変換されてしまう。……アイツの能力を封じるには『アイツの嫌いなもの』が必要……。でも、アイツの能力がある限り、『アイツの嫌いなもの』はすべて別のものに変えられてしまう。……じゃあ、結局アイツの能力を封じることなんて、できないじゃないのっ!)


 頭の中で、そんな堂々巡りのようなことを考え続けていたセーラ。だから、彼女はすぐには気づくことが出来なかった。

 その神社の境内は、さっき逃げるときにミコちゃんの能力によって変換されたものがそのまま残っている。例えば、入口の鳥居は平面の壁のままだし、セーラを挟んだ二体の狛犬は巨大化したままだ。手水舎からは、今も黒いコーラがシュワシュワと泡立ちながら湧き出ている。

 そして、境内の中心を通る参道には、大きな落とし穴があいている。


 その落とし穴のせいで、地盤が崩れやすくなってしまったのか。あるいは、地面に張り巡らしていた根がなくなって、バランスが悪くなってしまったのか。その小さな神社の唯一の見どころとでも言うべき、大きくて立派な枝垂れ桜の木が、ゆっくりと倒れ始めていた。


 グラッ……。

「へ……?」


 ゆっくりと大木が倒れていく光景は少し非現実的で、まるで、水平な地面のほうが傾いているかのように錯覚しそうだ。ようやくそれに気づいたセーラが顔を上げて、その方向をみたときには……その枝垂れ桜は、すでに覆いかぶさるように彼女の目の前までやってきていた。

「……ちょ、ちょっと⁉ うそでしょっ⁉」

 当然、そんな木にぶつかったら無事でいられるはずがない。セーラはなんとかして逃げようとするが、足がすくんでしまったのか、うまく動くことができない。

「あ……」

 その木が自分に向かってくるのを、ただただ間近でみていることしかできなかった。しかし……。

「セーラちゃんっ!」


 身動きのとれなくなっていたセーラを、「誰か」が横から強く突き飛ばす。

 そしてその「誰か」は、その勢いのまま、さっきまでセーラがいた場所と入れかわる。


 ズゥゥゥン……。


 重量感を感じる低音とともに、地面が揺れる。

 突き飛ばされて尻もちをついたセーラが振り返ると、そこには……。

「あ、あわわ……ち、違うぞ? わ、妾では、ないぞ? い、今のは、その木が勝手に……」

「きゃあーっ! こ、小鳩ちゃん、大丈夫ーっ⁉」

 セーラの代わりに枝垂れ桜の大木に押しつぶされている、小鳩の姿があった。


「……こ、小鳩?」

 そばに近づくセーラ。

 年季を感じる枝垂れ桜の木の幹は、小鳩にぶつかった部分を中心に砕けて、二つに割れている。その状況は、それだけぶつかったときの衝撃が凄まじかったということを想像させる。

 地面に倒れている小鳩を、優しく抱きかかえる。不幸中の幸いとして、木は彼女の頭や顔ではなく胴体にぶつかったらしく、一見する限りでは目立った外傷はない。ただ、そのぶつかった拍子に地面に倒れて後頭部を打ち付けてしまって、脳しんとうのような状態になっているようだった。


「ア、アンタ……まさか、ワタシをかばったの……? なんで、なんで、こんなことを……」

「う……うう……」

 小鳩はまだ、かろうじて意識があるらしい。頭が痛むのか、苦痛で顔を歪めている。

「ア、アンタは、そんなキャラじゃないでしょ……? ワタシの身代わりになるなんて……そ、そんなの、いつものアンタらしくない……じゃないの……」

 状況を把握して、ワナワナと体を震わせ始めるセーラ。着ていた悪役幹部のマントも、それに合わせて小さく震えている。そんな彼女を、開いているのがやっと、というような細い目で見ている小鳩は、

「セ、セーラ……ちゃん……」

 辛そうな表情で無理やり微笑みをつくり、とぎれとぎれのか細い声で、

「やっぱりその格好……すっごく、バカみたい……ウケる……」

 とだけ言うと、そのままぐったりと体の力を抜いて、意識をなくしてしまった。


「こ、小鳩っ⁉」

 ショックで目を見開くセーラ。

 それからしばらくの間は、呆然と自分の腕の中で気を失っている小鳩のことを見ていたが……。やがて、その表情は思いつめたような強い決意のこもったものに変わった。

 静かに、抱きかかえていた小鳩をまた地面に寝かせる。そして、思いもよらずこんな状況になってしまったことに未だにオロオロとしているミコちゃんと陽守に向き直った。


「小鳩……まさかアンタが、ワタシのことを守ってくれるだなんてね……」

 視線は対戦相手に向けたまま、気絶している自分のパートナーに思いをこめた言葉をかける。

「いつも悪態ばかりついて、ワタシのことをナメきってるアンタが、ね……。正直驚いたし……今だにちょっと信じられないけど……。でも、何ていうか……結構、感動しちゃったわよ」

 そこで、ビシッと相手の二人を指差し、彼女は宣言した。


「小鳩、あとは任せなさいっ! アンタの犠牲は無駄にはしないわっ! この二人は、必ずこのワタシ……誇り高き『悪役お嬢様』のセーラ・クルーエルが、ぶちのめしてあげるからっ!」


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