05
「これまで見ていて分かっただけでも、あの子の『自分の嫌いなものを好きなものに作り変える』という能力には、発動するためにいくつかの条件があるみたいだったわ!」
調子がのってきたらしいセーラは、小鳩がまったく興味をもっていないことは気にせずに、一人で喋り続けている。
「いままで能力を使ったときの全てに共通していたのは……まず、彼女が『嫌』と言うこと。そして、その言葉に反応するように『黒い鳥居』が現れること。その二つね。あとは、途中で何回か『黒い紙のついた棒』を振り回していたりもしたけれど……両手がふさがっているときにも能力を使ったことがあったから、きっとあの行動は必須じゃない。つまり、あの能力の発動に絶対に必要なのは、彼女が『嫌』という言葉を言って『鳥居』を出すこと。そしてその『鳥居』が対象のものに触れると、『嫌いなもの』を『好きなもの』に変えることが出来るのよ。あの能力の発動までには、『嫌という言葉』、『鳥居』、そして『変換』という三段階のステップがあるわけね。でも……」
喋りながら指折り数えたり、さっきの出来事を思い返すように上を見上げたりするセーラ。それらの仕草は少しオーバーで、芝居がかって見える。きっと、少し自分に酔っているのだろう。
「さっきあの子がワタシたちの妨害をしようとしていたとき。確か……『社殿の鐘』を鳴らそうとしていたときだったわね? あのときも、あの子はちゃんと『嫌』という言葉を言っていたのに、『鳥居』は出てこなかったし、何の変化もあらわれなかった。つまりあの能力には、『言葉』と『鳥居』の他にも発動条件があって、あのときはその条件を満たせなかった、ということが推理できるわけなの! だとすると、その条件というのは……」
「えー……つーかさー」
まるでフィクション世界の名探偵のように、気持ち良さそうに語るセーラ。彼女のモチーフのイギリスで有名な、シャーロック・ホームズにでもなったつもりなのだろうか。そんな彼女に、未だに自分のスマートフォンから顔を上げずに、パートナーの小鳩が冷めた言葉をかける。
「『嫌』って言葉を言ったのに、『発動したとき』と『しないとき』があったんでしょ? だったら単純に、『嫌』って言葉は能力の発動条件とは関係ないってことじゃない?」
「は、はあー⁉」
「確かにあのチビッコは、くどいくらいに今まで何度も『嫌』って言葉を言ってたけどさー。だからって、それがあの子の能力と関係あるとも限んないでしょー? つーか、言っても発動しなかったときがあったんだから、関係ないってことじゃん」
「そ、それは……」
戦いに全く興味がなさそうなくせに、意外と鋭いことを言ってくる小鳩に、言い負かされそうになる。しかし、自分のプライドがそれを許さないのか、セーラはなんとか反論する。
「そ、そんなわけないでしょっ!」
「えー、なんでー?」
「だ、だってそれじゃあ、あの子がワタシたちに、嘘をついているってことじゃないの! わざと、しつこいほど何度も何度も『嫌』って言葉を言って、まるでそれが自分の能力と関係あるかのようにワタシたちに印象づけて、本当の発動条件を隠しているみたいな……そ、そんなこと、あんな小さいクソガキが、出来るわけないでしょう⁉」
「えー? べつに、あのくらいのクソガキだって、嘘くらいつくでしょー? まして、今はそのクソガキのそばにヒモちゃん先生だっているわけだし。あの先生が入れ知恵すれば……」
「ないわよっ! 絶対に、ありえないわよっ!」
「……はいはい。セーラちゃんがそう思いたいなら、それでいいんじゃなーい? どうせ、私はこの戦いに勝とうが負けようが、興味ないしー」
「だ、だから小鳩、アンタはもっと……!」
と、セーラがエキサイト気味に小鳩に詰め寄ろうとしたところで。
「小鳩ちゃんたち、みーつけた。うふふふ」
「よくも、やってくれたのー。しかし、もう逃さんぞー?」
「はっ⁉」
神社の御社殿裏に隠れていたセーラは、声のしたほうを見る。
そこには、ビスケット怪獣の足止めからようやく抜け出せたらしい、対戦相手のミコちゃんとメイドの陽守がいたのだった。
「し、しまったわっ! 推理に夢中で、気づかなかったわっ!」
「わー、自業自得ぅー」
慌てて自分の淑女能力を発動したセーラが、ミコちゃんたちの眼の前にピーマンなどの野菜を作り出して、彼女たちにぶつけようとする。しかし、そんなものがすでに通用しないことは、その場の誰にとっても明らかだった。
「なんじゃ、またそれかのー? またお菓子に変えてやってもよいのじゃが……うーむ。さすがの妾も、これまでおぬしがたくさん献上してくれたお菓子や、さっきのビスケットを全部食べたせいで、ちょっと今は休憩したい気分なのじゃよなー。……ってことで、もうこれ以上はいらん、『嫌』じゃっ! そちらに返すぞー!」
その声とともに『黒い鳥居』が現れ、ミコちゃんたちに向かって飛んできていたピーマンの山が、その門をくぐる。すると、ピーマンの飛んでいく方向が百八十度変わり、セーラと小鳩に向かってきた。
「な、なによそれっ⁉ 物だけじゃなくて、方向まで変えられるのっ⁉ い、痛いっ! ピーマンって、当たると地味に痛いわっ!」
「もおーう、セーラちゃん! どうせ通用しないんだから、余計なもの作んないでよーっ!」
自分で作ったピーマンに何個も当たっているセーラと、悪態をつきながらも、それをなんとか反射神経でかわしている小鳩。二人は、無数のピーマンの投擲から逃げるようにその場を離れて、もともといた神社の正面側に戻った。
そんな二人を追って、ミコちゃんたちもやってくる。
二組の淑女とメイドは、その小さな神社の境内でお互いの出方を伺うように警戒し合って、相対する形になった。




