03
「うーむ、これでもう仕舞いかのー? それならそれで、そろそろトドメを刺させてもらおうかと思うのじゃがー……」
ミコちゃんは、片手にペロペロキャンディ、もう片方の手にオレンジジュースが入った盃を持っている。どちらも、さっきセーラが出したガラスを変換したものだ。
完全に勝利を確信している様子で、余裕そうにそれらに交互に口をつけながら、彼女はセーラに言う。
「それにしてもおぬしたち、ちょっとお粗末すぎじゃなー? 妾の戦いの相手として残念すぎて、おぬしたちに勝っても、妾の凄さが目立たないのじゃー!」
「もおーう、ミコちゃん? そういうイジワル言わないのー。ほら、お菓子だってみんなで食べたほうが美味しいんだから、小鳩ちゃんたちにも分けてあげるのよー?」
保護者の陽守が見当違いなことを言ってキャンディを取り上げようとするが、ミコちゃんは素早く手を動かしてそれを拒絶する。それどころか、そのキャンディにガブリと噛み付いてバリバリ噛み砕いてから、もう片方の手のジュースでそれを喉の奥に流し込んで、満足気にゲップをした。
「こーら、ミコちゃん! はしたないわよー?」
いさめる陽守に耳をかさないミコちゃんは、それからこんなことを言った。
「うむっ! せっかくじゃから、おぬしらをもっと妾にふさわしい相手に変えてから、倒してやることにするのじゃー! そんなお粗末な姿ではなく、もっと妾にふさわしい……可愛くて強そうな姿になっ! 今のおぬしらの姿では不満じゃ! 妾は『嫌』じゃ!」
「……え?」「はぁ?」
一瞬、それが何を意味するのか分からず、ポカンとするセーラと小鳩。しかしすぐ次の瞬間、何か気配のようなものを感じた二人は、同時に顔を動かす。そして、自分たちの上空を見上げた。
二人の視界に入ってきたのは……さっき野菜やガラスをお菓子に変えてしまったのと同じ『黒い鳥居』が、こちらに向かって落下してきているところだった。
「ちょっ、ちょっと⁉」
「おいマジかっ⁉」
その光景に、二人とも流石に取り乱してうろたえる。しかし、すでに『鳥居』は彼女たちのすぐ眼の前まできており、下手に動いたらその柱に押しつぶされてしまいそうだ。だから二人はその場を一歩も動くことが出来ず、ただただ目をつぶって、その『鳥居』をやり過ごそうとするしかなかった。
結果として、二人ともその『鳥居』の門をくぐることになってしまい……。
「……ふ、ふう」
「えぇ? なんとも、ない? ……って、ってか」
しばらくして、自分たちが『鳥居』に潰されていないことに安心して、目を開ける二人。それから、すぐに小鳩が、
「ぷっ!」
「ん?」
「ぷ、ぷぷぷぷーっ! セ、セーラちゃん、なにそれーっ!」
セーラの方を指差して、腹を抱えて笑い始めた。
「ちょ、ちょっと、何よ? こ、小鳩……何が……」
そんな彼女の様子を不審に思うセーラだが、次第に、その理由が分かってきた。
それは、眼の前で一人で爆笑している今の小鳩の姿が、さっきまでのメイド服じゃなかったからだ。今の小鳩は、真っ黒にもかかわらずフリルがモリモリで派手で豪華な雰囲気のワンピースのドレス姿――いわゆるゴスロリ風の服装に変わっていたのだ。当然それは、さっき対戦相手の能力を食らってしまったせいだろう。
ということはつまり、同時に『黒い鳥居』をくぐってしまった自分も、姿を変えられているはずで……。小鳩はきっと、その変えられた自分の格好を笑っているのだと気づいて……。セーラは視線を落として、小鳩が指差す先にある、今の自分の格好を確認した。そして、
「な、な、な……なによこれーっ⁉」
彼女も、小鳩と同じくらいに感情を露わにして、絶叫することになってしまった。
今の彼女は、いつもどおりの、自分のテーマカラーの赤いドレス姿……ではない。
漫画やアニメに登場する世紀末の荒くれ者のような、トゲトゲのついた金属の肩当て。ビキニ水着のように表面積の少ないエナメル素材の服の上にマントを羽織り、光沢のあるロングブーツを履いている。手には小さなドクロが付いた杖のようなものを握り、頭にはヤギの角のようなアクセサリー、片目は眼帯をつけている。
まるで、子供向けアニメか、戦隊モノの特撮に出てくる悪の組織の女幹部、というような格好になってしまっていたのだった。
「うむうむ。さながら、禍津神とでも言ったところかのー? いい感じに、妾の対戦相手としてふさわしい姿になったではないか。これで妾も、思い残すこともなくおぬしを始末できるわー」
「うふふー。かわいいわー。二人とも、よく似合ってるわよー?」
満足気に何度もうなづくミコちゃんと、子供の学芸会を温かく見守っているかのように微笑む陽守。ミコちゃんの『わがままお嬢様』の能力は、野菜やガラスをお菓子に変えるだけでなく、小鳩やセーラの着ている服を、ミコちゃんの好みの姿に変えてしまうことも出来るらしかった。
当然、セーラは突然そんな格好にされたことが耐えられなくて、両手で体を必死に隠している。
「な、何なのよ、この恥ずかしい格好わっ⁉ な、なんでワタシが、こんな格好になっちゃってるのよっ⁉」
「えー、いいじゃんいいじゃんセーラちゃーん。ほら、ヒモちゃん先生も似合ってるって言ってくれてるしー? 私も、バカっぽくて存在自体が恥ずかしいセーラちゃんに、ピッタリだと思うよー?」
セーラほど奇抜ではない格好の小鳩が、余裕ぶって煽る。
「う、うるさいわね! こんな格好が似合ってても、何もうれしくないのよっ! っていうか、ここぞとばかりにバカにしてるんじゃないわよ、小鳩っ! だいたい、なんでアンタは割と普通の格好で、ワタシだけ、こんなことになってるのよっ⁉」
「え? だってそれは、セーラちゃんがギャグキャラだから、仕方ないっていうか……」
「当たり前みたいに言ってるんじゃないわよっ! このワタシが、ギャグキャラなわけないでしょっ⁉ こ、このワタシをここまでコケにして……アンタたち、もう絶対に許さないんだからーっ!」
そんなふうに、負け犬感を全開にして叫ぶセーラ。
悪の女幹部風衣装でそんなことを言う彼女の姿は、ある意味では、今までのどんな彼女よりも『悪役お嬢様』っぽいのだった。




