01
マリーと瑠衣の『傲慢お嬢様』ペアと、ユーリアたち『清純お嬢様』ペアが、絆の強さを賭けた戦いを終えてから、数日後。
実は、彼女たちとは別のペアが、別の場所で別の戦いを始めていた。
「な、何なのよっ! いったい、何だって言うのよっ⁉ 意味が分からないわよっ! ど、どうしてワタシたちが、こんなザコ相手に苦戦しちゃってるのよっ⁉」
「……単純に、セーラちゃんが一番ザコいからじゃねー?」
「う、うるっさいわねっ、小鳩! ア、アンタは相変わらず、こんなときでも主のワタシのことを、バカにするようなことを言って! って、っていうか、いつも言ってるように、このワタシがザコなわけないでしょっ⁉ ワタシの淑女能力、『敵者生存』は最強なのだから、こんなことになるのはおかしくて……こ、これは単純に、相手が悪かったというか……。相手の淑女能力が、このワタシにとって最悪の相性だったというか……」
取り乱しているセーラと、そんなセーラに対して、いつもどおりのリスペクト0の煽り言葉を向けているメイドの小鳩。
「のじゃー?」
そんな彼女たちに、対戦相手の幼女が言う。
「もしかしておぬし……今、負けを認めたのかのー? 妾がおぬしにとっての最悪の相手だとかぬかして……今の言葉は、自分が妾には勝てぬことを認めたということなのかのー? ……わーい、やったのじゃー! 妾の勝ちじゃー! 記念すべき第一勝なのじゃーっ! これで、妾の優勝が一歩近づいちゃったのじゃーっ!」
黒と赤を基調とした、神社の巫女さんのような姿――ただし、ボトムスは袴の代わりにミニスカート――の幼女。小学生か、あるいはそれ以下にも見えるような幼い風貌の彼女は、その見た目に反した古風な口調で、その見た目通りに子供っぽくピョンピョンと跳ね回った。
「は、はぁぁぁーっ⁉」
『悪役お嬢様』のセーラは当然、そんな相手の一方的な言葉に我慢できない。
「な、何言ってるのよっ! い、今のは、ただの言葉のアヤというか……っていうか、アンタなんかにこのワタシが、負けるわけないでしょっ⁉ 勝手に勘違いして、話を進めるんじゃないわよっ!」
「わーいわーい! 勝ちなのじゃー! これはもう、宴なのじゃー! 祝杯をあげて、勝利の美酒に酔いしれるのじゃー!」
「だ、だから、ワタシを無視するんじゃないわよっ! この戦いで最後に優勝するのは、このワタシなんだからねっ⁉ あ、あのムカつくマリーならともかく……アンタみたいなクソガキなんかに、このワタシが負けるわけが……」
『悪役お嬢様』として、どこまでも強気な態度で反発しようとするセーラ。しかし、相変わらず対戦相手の幼い淑女は、そんな言葉を聞かずに飛んだり跳ねたりして自分の勝利を喜んでいる。
そこで、ようやく。
その淑女のメイドが、先走る主に対してフォロー(のようなもの)を入れてくれた。
「あらあら、まあまあ……もおう、ミコちゃんったらあ。あなたはまだお子様なんだから、お酒はだめよぉー? それに……そんなふうに言ったら、真剣に戦ってる小鳩ちゃんたちが、かわいそうでしょおう? いくら、相性的にどうやってもこの戦いであたしたちが負けることはなさそうだからって。少しは苦戦してるふりしてあげるのが、優しさよおー?」
ぽっちゃり……というより、健康的な標準体重と比べると20キロ以上はオーバーしていそうな体型が、はちきれんばかりの包容力と母性を感じさせる彼女。その言葉は――内容的には、小鳩と同レベルの煽り言葉でしかないが――彼女なりの思いやりらしい。
巫女装束のような幅広の袖にメイドのようなエプロンをつけた服装は、いかにもコスプレなどでよくありそうな感じで、少しあざとすぎる気はするが……。おっとりとした口調や、放物線を描くような形の優しい糸目で微笑んでいる姿は、主の「ミコちゃん」はもちろん、高校生の小鳩やセーラと比べてもだいぶ大人びて見える。
しかし、それは無理もないだろう。なぜならば彼女、宗像陽守は実際に大人だったのだから。彼女は小鳩や瑠衣たちが通う学校の、養護教諭だったのだから。
「こ、こらおぬしらーっ! 妾のことを、子供扱いするのでないわっ! 妾はクソガキでもお子様でもないし、むしろ何千年も生きていて、おぬしらより遥かに年上なんじゃぞ! ずっとずぅーっと、おねーさんなんじゃぞっ⁉」
「……うふふ。大人ぶりたいお年頃なのねー? かーわいいー」
「だーかーらーっ! 大人ぶりたいのではなく、実際に大人なのじゃと言っておろーがっ! こ、これじゃからおぬしたち人間は、まったく! 高貴なものに対する態度が、なっとらんのじゃー……」
その幼い淑女はそこで、エッヘンと自慢げに平たい胸を張って自己紹介をした。
「妾こそは、『わがままお嬢様』にして、あらゆる戦の勝利を宿命づけられた最上にして最強の最高神……甘垂好蜜柑味命なるぞーっ! 敬意と畏怖の念を込めて、ミコちゃん様と呼ぶことを許可するぞよーっ!」
「はーい、よく出来ましたねー。良い子良い子ー」
「じゃ、じゃから、頭を撫でるなーっ!」
「コ、コイツらぁ……」
淑女とメイドというより、小さな子供とその保護者という感じの二人。もはや自分たちの勝利を確信しているらしい彼女たちは、対戦相手であるはずのセーラたちのことなんて全然気にしていない。プライドの高いセーラは、そのことが許せなくて体をぷるぷると震わせていたが、やがて……。
「ま、まだ勝負は何も決まってないのにそんなに油断して……バッカじゃないのっ⁉ 喰らいなさいっ! 『敵者生存』っ!」
我慢の限界に達したらしく、自分の淑女能力を発動して相手を攻撃した。
『悪役お嬢様』のセーラの能力……それは、『その場にいる誰かの嫌いなものを作り出す』こと。
その力の通り、セーラは対戦相手の『ミコちゃん』が苦手とするもの――セロリ、ピーマン、ゴーヤなどの苦い野菜の寄せ集め――を空中に大量に作り出して、巨大な球体のようにぎっしり集めて、彼女に向かって勢いよく飛ばした。
そんな「自分が心の底から嫌いなものフルコース」をぶつけられたら、子供っぽいミコちゃんなんて、ひとたまりもない。泣き叫んでセーラに許しを乞う……はずだったが。
「ん? ……やれやれ。まーだ、自分の身の程というものが分かっておらんようじゃのー? 学習能力のない奴じゃなー」
彼女は、呆れたような態度でそんなことを言って、持っていた真っ黒な紙を使ったお祓い棒――いわゆる、巫女や神社の神主が使う大麻――をひと振しながら、「妾は、野菜なんて『嫌』なのじゃー!」と言った。
その次の瞬間、まるで地面から生えてきたかのように、彼女の眼の前に大きな『黒い鳥居』が現れる。そして、飛んできた『セーラの能力で作り出した野菜の塊』がその鳥居の下の門をくぐると……それらは次々と形を変え、チョコレートやキャンディ、ビスケットなどのお菓子になってしまった。
セーラが最初に投げつけてきた勢いのまま、お菓子の塊がミコちゃんに激突する。しかし、それがお菓子ならば、彼女は泣き叫んだりするはずもない。
「わーいわーい! 甘いのじゃー、おいしーのじゃー」
それどころか、自分に向かってきた無数のお菓子を大きく開けた口で受け止め、もぐもぐと食べてしまったのだった。
「もおーうっ、何なのよーっ! なんでワタシの能力が、こんなことになっちゃうのよっ!」
「あーあ。セーラちゃん、またやられてんじゃん……ダッサ」
呆れる小鳩が言うように。
戦いが始まってからこれまで、セーラは何度も自分の淑女能力を使って、対戦相手の嫌いなものを使った攻撃をしてきた。しかし、そのたびに相手のミコちゃんも彼女の淑女能力で、それを無効化してしまっていたのだ。
「ぬっふっふっふー。おぬしがどれだけ『妾の嫌いなもの』で攻撃してきても、妾の『能力』にかかれば意味ないのじゃーっ! そんなもの、すぅーぐに大好きなお菓子にしちゃって、美味しく召し上がっちゃうのじゃーっ!」
「もおーう、ミコちゃん。お菓子ばっかり食べないのー。セロリやピーマンは栄養がいっぱいあるんだから、少しくらいは我慢して食べなくちゃダメよー?」
「なーにをバカなことを言ってるのじゃーっ! 嫌いなものはぜーんぶいらない、好きなものだけあればいい……じゃから『嫌いなものは全部好きなものに変えちゃう』! それが妾、『わがままお嬢様』なのじゃーっ!」
チョコレートやビスケットを次々に口に放り込みながら、満面の笑顔を作るミコちゃん。
そんな彼女に、忌々しそうに地団駄を踏むセーラと、
「な、何よ、これっ⁉ 『自分の嫌いなものを好きな物に変える』とか……ワタシの能力と、相性悪すぎでしょっ⁉ せっかく新しい相手を見つけて、コイツに勝てばマリーに近づけるかもと思ったのに……。なんでよりによって、こんなヤツなのよーっ!」
「はいはい……負ける言い訳は、もう分かったってば。どうせザコお嬢様のセーラちゃんじゃ今回もボロ負け確定なんだから、これ以上ダッサいことにならないうちに、さっさと降参しろっつーの。……ってか私、もう帰ってもいいかなー? 昨日友だちとオールしたから、メチャクチャだるいんだけどー?」
完全にやる気のない小鳩だった。




