表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
主従戦線レイディ × メイド!  作者: 紙月三角
第五戦 試される、絆と絆 vs 清純お嬢様
57/98

06

 エレベーターの扉が開き、地上階に到着したマリーと瑠衣。すぐに、その階の他のエレベーターも動いていることに気付く。


「下で、片っ端からエレベーターのボタンを押しているのでしょうね。どのエレベーターで追いかけて来るのか分からなくさせて、私たちに待ち伏せされないように。……でもきっと、それは全部ブラフよ。多分彼女たち、階段でくると思うわ」

 階段を見通せるように、フロアの中心あたりに陣取っているマリー。あまりにも余裕ありげなその態度はさながら、これから午後のティータイムでも始めようとしているかのようだ。

 自分のパートナーにニッコリと微笑んで、「だってエレベーターで上がってきたところを瑠衣に攻撃されたら、向こうには回避出来ないもの。複数のエレベーターを動かして正解の確率を低くしているとはいえ、賢い彼女たちがそんなリスクを負うとは思えないでしょう?」と続けた。


「う、うう……」

 そんな彼女を、瑠衣がウルウルと涙を貯めた眼差しで見ている。

 今のマリーは、敵のユーリアたちを恐れている様子がない。さっきまで苦戦していた彼女たちと互角か、あるいは、それ以上の立ち回りを見せている。それに、彼女が自分の視力を取り戻してくれたことや、これまでの戦いで機転をきかせて相手とやり合ってきたこともある。

 そういったもろもろの積み重ねが、瑠衣のテンションを無駄に上げてしまったようだ。飛び上がって今にもマリーに抱きつきたいところをどうにか抑えこんで、ワナワナと体を震わせながら言う。

「や、やっぱり、マリー様はすごいです! ユーリアちゃんたちに追い詰められてたかと思えば、すぐにそれをひっくり返して、逆転しちゃうんですもん!」

「ええ、そうなの。私って、本当に本当に、すごいのよ。いい加減、覚えてちょうだいね?」

「この調子なら、また今回も勝てちゃうかも! なんて言うと、また前みたいに怒られちゃうかもですけど……。で、でも、正直今のマリー様なら、ユーリアちゃんたちを倒す方法も、そのうち思いついちゃいそうで……!」

「そのうち、ですって?」

 マリーは、眉根をよせて顔をしかめる。

「え?」

「瑠衣、その発言は聞き捨てならないわね。この私が、あんなやつら程度に、いつまでも大きな顔をさせるわけがないでしょう?」

「そ、それって……まさか?」

「当然、あいつらを倒す方法なんて、とっくに思いついてるわ。だから、その作戦を貴女に伝えるために、こうやって一時的にここまで退却してきたのよ」

「マ、マジすか……」


 瑠衣の想像を超えて、すでにマリーには勝つための算段をつけていたわけだ。それを聞いた瑠衣は、もう我慢の限界だ。両手を広げてマリーに駆け寄る。

「そ、それで⁉ 彼女たちを倒す方法って⁉」

「ふふふ……それは、ね……」

 そんなメイドの態度にもすっかり慣れたようで、闘牛とマタドールのように、サッと体を翻して瑠衣をよけるマリー。充分にタメを作ってもったいぶってから、彼女はようやくそれを言った。


「まず私たち二人がかりで……あの、メイドの方を倒すのよ」

「……え?」

 今までマリーに感動と尊敬の目を向けていた瑠衣の表情が、硬直する。


「だって、考えてもみなさいよ。あのユーリアって子、自分でも言ってたけれど、淑女能力自体は本当に大したことはないわ。彼女たち自身を白くしても、陰影があるから私たちの視界から完全に消えることが出来るわけじゃない。こちらの眼球を白くされて視力を奪われても、さっき私が瑠衣にやったみたいにパートナー同士でサポートしあえば、そこまで脅威にはならない。これまでの戦いを振り返ってみても、彼女たちの身体能力や戦闘力も人並み……というより、下手したら瑠衣よりも低いくらいのようだしね」

「そ、それは……そうかも、ですけど……」

「にもかかわらず、さっき私たちがあんなにも苦戦してしまっていたのは……全て、あのステラというメイドがいたからよ。淑女一人だけじゃなく、メイドと淑女の二人がどちらも白くなると、片方にだけ注意を払っているうちにもう片方を見失ってしまって不意をつかれてしまう。瑠衣を白くしたときも、あのメイドが素早く瑠衣をエレベーターに追いやって私と隔離してしまったことで、二対一という向こうにとっての圧倒的に有利な状況を作り出されてしまった。それらの作戦をたてたのも、戦いの舞台にこの地下鉄駅を選んだのも、メイドの彼女。あのユーリアが言った通り彼女は、『ものを白くする』なんていう最弱の能力を、私たちが苦戦するほどに強力なものに変えてしまっている張本人なのよ。まあ……それでも『最強』っていうのは言い過ぎだけどね」

「……」

 ここまでの戦いの考察を語るマリー。その言葉に相当自信があるらしく、さっきにも増して余裕があって得意げだ。そのせいで注意力が散漫になってしまっていたのか、目の前の瑠衣の様子が少しおかしくなっていることには、彼女は気付いていなかった。

「つまり、彼女たちの強さの本質はあのメイド……というより、メイドと淑女の息のあった完璧なコンビネーションにあると言っていいわ。さすが、自分で『絆の力』なんて恥ずかしい言葉を言うだけのことはあるわよね? でも逆に言えば、その絆……すなわち彼女たちのコンビネーションさえ壊してしまえれば、何も怖くない。あのユーリアの淑女能力は本来の最弱なものに戻って、私たちは何の苦労もなく彼女たちを倒せる、ってことなのよ。だからまず私たち二人で、あのメイドを倒してしまうのよ」

「そ、それは……」


 瑠衣も、そのマリーの作戦には何も間違いはないと思った。

 ユーリアとステラ、二人の強さは、息のあったコンビネーションにある。だから、まずそれを破壊する。淑女能力の主体となるユーリアを攻撃しようとすると、先に視力を奪われてしまうというリスクがある。だから、まずメイドのステラを狙う。

 それは、どこからどう考えても正しい作戦と思えた。でも……。


 そこまで納得出来ているのに、瑠衣にはどうしても、引っかかっていることがあった。それは、作戦の妥当性や実現性とは別のところ。しかし同時に、瑠衣にとってはどうしても譲れないことのようにも思えた。

 だから、彼女は、

「それは……出来ません」

 マリーにそう答えていた。


「そうね。じゃあ早速、あのメイドを倒すための具体的な方法を……って⁉ 瑠衣、いま貴女、なんて言ったの⁉」

 あまりにも予想外だったらしく、マリーはいつもの彼女らしくもなく取り乱している。

「で、出来ない⁉ あ、貴女、メイドの分際で、この私の考えを否定するって言うの⁉」

「……はい」

 しかし瑠衣の決意は強いようで、揺るがない。

「な、何を考えてるのよっ! さっきの私の考えが、何か間違っているとでも言いたいの⁉」

「あ、い、いえ……そ、そういうわけでは、ないんですけど……」

「じゃあ、何だって言うのよ⁉ 今回の相手が、手加減して勝てるような相手じゃないことは、さっき貴女が身をもって思い知ったはずよ⁉ それでもそんなことを言うなんて、どうかしてるわよ!」

「そ、それは……た、確かに、そうかもしれないんですけど……」

「だから、何が問題だって言うのよ! 言いたいことがあるなら、はっきりと言ってみなさいよ!」

「は、はい……」

 瑠衣は、恐る恐るといった様子で話し始める。

「わ、私も、マリー様の作戦は正しいと思ってます……。多分、先にステラちゃんを倒すのが、彼女たちを攻略する一番の近道だって思います……。で、でも私、出来ればユーリアちゃんたちとは今のまま、二対二のまま、戦いたいと思ってて……」

「はぁ⁉」

 やはり納得がいかない様子のマリー。瑠衣を叱りつけるように、強い口調で言う。

「瑠衣、悪いけど今は、貴女の意味不明なわがままを聞いている暇なんてないの! いい⁉ 今回の敵に勝つには、私の作戦通りにあのメイドを叩くしかないのだから……」

「で、でも!」

 そこで瑠衣は、しっかりとマリーの目を見た。彼女のその真剣な表情に、マリーも何かを感じ取って、言葉を止める。

 無言で、見つめあう二人。


(確かに、これは私のわがままかも知れない。本当なら、マリー様の言うとおりにしたほうが、いいのかもしれない。でも……)

 瑠衣は、考えていた。

(でもきっと、大丈夫だ。マリー様なら、分かってくれる。この私のわがままを理解してくれる。だって……だって……私たちにだって、ユーリアちゃんたちに負けないくらいの、絆があるんだから……!)


 瑠衣の頭の中に、今日の出来事が蘇る。ユーリアたちとの戦いが始まる前、二人で電車に乗っていたときのこと。自分の『好き』をマリーに理解してもらえたこと。そして、車内でいろいろなことを話したこと。

 その経験は、瑠衣に勇気を与えていた。

 自分たちには、すでに強い絆がある。ユーリアたちに負けない絆の力がある。

 だから、自分が正直に「わがままの理由」を伝えれば、きっとマリーは分かってくれる。自分を信じてくれる。自分たちの絆を信じてくれる、と。

 そして彼女は、マリーにその「理由」を言おうとした……しかし。



 次の瞬間、瑠衣たちがいた地上階フロアの床や壁、天井が、完全に真っ白になった。

「来たわよ!」

 地下階へと通じる下り階段の方に視線を向けるマリー。瑠衣も合わせるように、その方向に顔を動かす。すると、階段から飛び出してくる二つの白い人影が見えた。薄っすらと陰影が浮かび上がる程度だったが、明らかに、自分たちを白くしたユーリアとステラだろう。しかし、すでに真っ白になった壁や床に溶け込んでいたので、どちらのシルエットがどちらのものなのかまではわからなかった。

 二つの影は、地上階フロアの中心にいるマリーたちを挟み撃ちにするように二手に分かれて近づいてくる。

「瑠衣、分かってるわね⁉ もう淑女の方の右手には、触られるんじゃないわよ⁉」

「は、はい!」

 そう返事をしてみたものの、右と左、どちらの白い影がユーリアのものかは分からない。

「え、っと……」

 キョロキョロと右と左に目をやりながら、瑠衣はオーラをまとった手を、二つの影に交互に構える。そんな瑠衣に向かって、二つの影が同時に手を伸ばしてくる。

「わ、わわわ……」

 大きく体を引いて、二つの手から逃れる瑠衣。しかし、二つの影はさらに瑠衣を追撃する。

「ちょっ……! ま、待って……」

 右と左から同時攻撃されては、逃げるので精一杯で防戦一方だ。

「や、やば……! こ、このままだと……」

 しかも、だんだんその逃げの精度も荒くなってきて、体勢を崩し気味になってくる。このまま続ければ、どちらかの手に触れられてしまいそうだ。


「なるほどね」

 そんな瑠衣たちを、少し離れた位置から見ているマリー。

「二人とも白くしてシルエットを同じようにすれば、どちらが能力を持っている淑女の方だか分からない。その状態で攻撃を仕掛ければ、攻撃される側はどちらの影も淑女として警戒しなければならない。結果として、能力を持った淑女が二人になったような効果がある……という作戦かしら?」

「……」「……」

 二つの白い影は何も答えず、黙々と瑠衣を攻撃し続ける。声を出せばそれで、どちらの影がどちらなのか、正体が分かってしまうからだ。その態度を自分の質問への答えと受け取ったのか、マリーは小さく笑う。そして、あっさりとこう言った。

「でも、意味ないわね」

 それから、自分のメイドに向かって叫ぶ。

「瑠衣、右の影を狙いなさい!」

「あ……はい!」

 戸惑いながらも、瑠衣は右側から手を伸ばしてくる影に向かって、オーラを帯びた自分の右手を繰り出す。

「…………⁉」

 思わぬ反撃に驚いた右側の影(・・・・)。それでも、何とか声をあげるのは我慢出来たようだ。だが、

「ス、ステラ⁉」

 反対の左側の方(・・・・)が、うっかり声を漏らしてしまう。当然マリーは、その小さな声を聞き逃さない。

「ふふ……当たりね。どうやら右の方が、メイドだったようだわ」

 ニヤリと笑って、更に瑠衣に命令する。

「瑠衣! メイドが逃げる前に、追撃よ!」

「え……で、でも……」

 相手がメイドのステラと分かって、手が止まる瑠衣。

「ちょっと⁉ 瑠衣、またなの⁉」

 瑠衣の頭の中には、さっきの「わがまま」がぶり返してきている。まだ彼女は、その理由をマリーに伝えられていない。

「あ、あの……私……」

 そんなふうに、瑠衣がモタモタとしているうちに、

「く、くっそ、この作戦はダメだ! ステラ! 一旦、引くぞ!」

 左側の白い影がそう言って、攻撃をやめて瑠衣から離れる。

「……う、うん……!」

 右側の影も、追撃出来ずにいる瑠衣の前から離れる。

 それから二人は、マリーと瑠衣から少し距離をとった位置まで逃げて、そこで能力を解除してもとの色を取り戻した。


「て、てめー! どっちがステラなのか、分かってたのかよ⁉」

 自分のメイドが危険な目にあったことで怒り心頭という様子のユーリアが、マリーを睨みつける。しかしマリーは、何でもないふうに答える。

「いいえ。どっちがどっちかなんて、分かってなかったわ。でも、そんなの関係なく、瑠衣はどっちか片方を攻撃すれば良かったのよ。だって……もしも瑠衣がメイドの方を攻撃すれば、さっきみたいにきっと貴女の方が黙っていられずに正体を現すと思ったし。逆に淑女の貴女の方を攻撃したとしても、私の能力で強化されてる瑠衣なら押し勝てる。その場合は、普通に厄介な淑女のほうを倒せてしまうのだから、私たちの勝利が決定するということよ」

「……」


「……ふ、ふん! そうかよ!」

 話を聞いて、一応は納得した様子のユーリア。改めて、メイドのステラをかばうように一歩前に出てから、マリーと瑠衣に言った。

「やっぱ、てめーらには小手先の子供だましなんか通用しねーっつうことだな。じゃあ、もう手加減なしだ。見せてやんよ! 俺たちの、とっておきの『派生技』をな!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ