なんか星座の位置って毎日微妙に変わるよな
俺には長年付き合っている友人がいるが、結構もの知らずで驚かされる。
例えば、エンストの「スト」のことをストップだと思っていたりとか。
ストール(失速)のストだぞと教えたら、意外そうに「そうだったのかぁ」と言っていた。
教習所で習うと思うのだが……彼は運転をしないので忘れてしまったのだろう。
そんな彼とは長い付き合いで、小学校からの腐れ縁。
俺は友達が少ないので、たった一人の親友だ。
居酒屋で二人で飲んでいると、彼は不意にこんな話をし始めた。
「なんかさぁ、星座の位置って微妙に変わってね?」
真剣な顔でそんなことを言うもんだから呆れてしまう。
俺は気まずい思いを誤魔化すようにハイボールをあおった。
確か高校は県内一のバカ高に進学してたし、大学もFラン。
真面目に勉強してなかったことは確かだ。
でも……授業には出てたんだよなぁ。
別にずっと昼寝してたわけでもないし。
こいつは何を聞いていたんだろうか?
「最近、会社から帰る時に空を見上げるんだけどさぁ、
マジで微妙にちょっとずつ位置が変わってんだよね。
これマジですげー発見じゃね?」
確かにすごい発見だと思う。
最初にそのことを発見した人は本当に偉大だ。
でもそれはウン千年も前の話。
「なぁ、毎日同じ時間に同じ地点で観測したのか?」
「は? なに言ってんだ?」
彼が空を見上げるのは、あくまで帰宅する時だけ。
仕事上がりの時間も毎回違うので、観測する時間はバラバラ。
そりゃ微妙に位置が変わってるように見えるよな。
俺は地球の自転と公転について簡単に説明し、星座の位置が変わる理由を分かりやすく伝えた。
彼は「そーだったのかぁ」と納得したように頷いてレモンサワーをあおる。
スゴイ発見をしたと思っていたところに冷や水を浴びせられ、不機嫌になってしまったようだ。
「今日はお開きにするか。
お前、帰りはどうするの?」
すっかり興が醒めてしまった彼は、財布を取り出しながら店員の呼び出しボタンを押す。
彼はずっとこんな感じだ。
自分のペースでしか行動しない。
だから友達が俺一人しかいないんだよ。
まったく……仕方のない奴だ。
「ああ、車で来たから、車で帰るよ」
「今から代行呼ぶの?」
「え? 代行? なにそれ?」
「――マジで言ってんの?」
彼はまるで非常識な人でも見るような視線を俺へと向ける。
あれれ?
俺なにかやっちゃいました?
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