デート1
セイウスとアイリスとして初めて出会ってからしばらく過ぎた。
最初、セイウスを見たとき自分の中のセイウス像とあまりにも違って驚きそうになった。
アリアとしてセイウスと最期に会ったのはセイウスが12歳の時だった。
背はアリアより少し大きいくらいで、まだ声変わりはしていなかった。
可愛らしい容姿だったため、髪を伸ばせば女の子と間違えられただろう。
そのため、セイウスは中性的な雰囲気の男性に成長したと思っていた。
まさかあんなに男らしい男性に成長していたとは………。
190センチを超える長身に服の上からでもわかる鍛え抜かれた身体。
金髪碧眼はそのままだが、色白だった肌は小麦色に日焼けしていて騎士としての威圧感みたいなものを纏っていた。
健康的に成長していることに安堵したが、想像とあまりにもかけ離れていたため、内心は焦ってしまった。
何とか平静を装って挨拶できたと思う。
それなのに、セイウスの無表情で無口な様子はどうしてなのだろうか。
初対面で失礼を働いた記憶はないが、セイウスは食事の最中、全く自ら言葉を発しなかった。
向かい合って座っているのに視線は合わず、目が合ったかと思ったら不自然に逸らされてしまう。
もしかして、この食事会に来ること自体が不本意だったのではないだろうか?
それとも、アイリスが気に入らなかったとか?
分からないが、セイウスが乗り気ではないなら、パートーナーをさせるわけにはいかなかった。
セイウスが元気かどうか確認したかったのと、よく知らない人とパートーナーになるくらいなら前世によく知っているセイウスがいいと思ったのは、アイリスの我儘だ。
だから断ってもらおうと思ったのだが………まさか快諾されるとは思っても見なかった。
そしてセイウスはパートーナーになるための条件として『誕生日会までに何度か会う機会を作ること』を条件とした。
パートーナーになるのに余所余所しいと不審に思われる可能性があるからだと説明していた。
ウィルネスは少し迷っている様子だったが、リーシャの一言でセイウスの条件は受け入れられた。
「そのうちお誘いでもあるのかしら?」
リズに聞くと
「旦那様と奥様にわざわざ条件として提示したのでしたら、お誘いをするつもりだと思いますよ」
「今度は伯爵家で会ったりするつもりなのかなぁ」
「セイウス様はウルフレッド伯爵本邸からは離れて暮らしているそうですよ。自ら伯爵の位を賜っている御方ですので、今は自分が建てた屋敷で暮らしているはずです」
セイウスが自分で建てた家かぁ………行ってみたいかも。
「そのうち招待してくれると嬉しいわ」
「公爵家のご令嬢を招待するとなると、あちらの準備が大変だと思いますよ」
「ちょっと滞在したらすぐ帰るわよ」
「そういうわけにはいかないご身分なのですよ」
「身分って面倒ね」
アイリスはため息をつくと紅茶を口に含んだ。
「またセイウス様にお会いしたいのですか?」
「そうね………この間はあんまりお話出来なかったから、もう少し色々と話してみたいわ」
そんな話をしているときに、部屋がノックされた。
部屋の前にはウィルネスからの伝言を届けるため侍女が立っていた。
リズが応じる。
しばらくすると侍女が去っていったので
「なんの用だったの?」
と聞くと
「旦那様からの伝言で、今すぐ書斎に来るようにとのことです」
「お父様が?何かしら………」
アイリスは心当たりがなく、小首を傾げながらも書斎へと急いだのだった。