表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
65/65

これから4

しばらく眠れずにいたアイリスだが、いつの間にか眠ってしまったらしい。


気がつくと夢の中にいた。


夢の中にいる、とはっきりとわかる夢は初めてだ。


真っ暗な空間にアイリスは立っていた。


不思議と怖くない。


「やっと会えた」


優しい女性の声が後ろからする。


振り返るとそこには150センチあるかないかの小柄な女性が立っていた。


丸顔で見た感じはとても幼く見える。


しかし彼女から醸し出される空気が淑女であることを物語っていた。


アイリスと同じ紫の髪と瞳だ。


この顔を知らない国民はいないだろう。


アイリスは慌てて頭を下げた。


「そんなに畏まらなくていいわ。その様子だと私が誰だかわかるみたいね。面を上げてちょうだい」


アイリスはゆっくりと顔を上げた。


「アリアよ。はじめまして、アイリス」


そこにいたのは聖女として国を守ったアリアだった。


「アリア様、お会いできて光栄です」


夢だとしても会えるだけで歓喜の涙を流す国民も多いだろう。


アリアは国の英雄で稀代の聖女としてたくさんの民を救った。


その事を国民は幼い頃から教えられる。


アイリスも例外ではない。


「なんだか貴女に畏まられると妙な気分だわ」


「そうでしょうか?」


「ええ。貴女は知らないでしょうけど、私は貴女のことをずっと見守っていたのよ」


アイリスは驚いた。従姉妹ではあるがアリアに見守られるようなことをした記憶はない。


「髪の色が同じだから親近感が湧いたの」


アリアは優しく微笑んだ。


初めて逢うのに懐かしいと感じる笑みだ。


「アイリスの夢にお邪魔したのはどうしても伝えたいことがあったから」


「伝えたい………ことですか?」


「セイと婚約してくれてありがとう」


「セイ?」


「セイウスのことよ。私はずっとセイって呼んでいたの。この世に未練はないのだけれど、セイのことだけが心配だったから」


どうしてセイウスのことが心配だったのだろう?


アイリスが不思議に思っていると


「あの子ときちんとお別れしないままにこの命が尽きてしまったでしょ?まだ12歳だったあの子の心の傷になっていないかずっと気になっていたのよ。繊細だから」


アリアは困ったように笑う。


「セイを兄達からの暴力から解放するだけなら私の護衛騎士にする必要なんてなかったのにね。私のワガママで聖女の騎士にされて勝手に死なれたら後味悪いわよね」


「それなら私ではなくセイウスさんを見守ればよかったのではないでしょうか」


「色々あってそれはできなかったのよ。でもセイは貴女に出会って幸せを手に入れたみたいだから、どうしてもお礼が言いたかったの。ありがとうって」


「そんな……私は何もしていません」


セイウスがアイリスを好きになってくれただけの話だ。


「あの子、男色家と噂されるくらい女性の影がなかったみたいなの。そんなセイが異性を本気で愛せたのよ?アイリスだから好きになったのだろうし、アイリスだから幸せに出来る。それが嬉しいの」


「そうでしょうか?」


「聖女である私が断言するわ。間違いなく、セイはこの国一番の幸せ者よ」


アリアに言われるとなんの根拠もないのに信じることができる。


不思議な感覚だ。


「アリア様にそう言っていただけたのでなんだか自信がつきました」


「それは良かったわ」


「セイウスさんが幸せならきっと私も国一番の幸せ者になれるのでしょうね」


「もちろんよ!私が保証するから安心して」


アリアはまた優しく微笑んだ。


美人というわけではないのだが、アリアの笑顔は不思議と安らぎを覚える。


「アリア様に会えてよかったです」


「私もよ。あ……ただ……」


「何でしょうか?」


「部屋を繋げている扉、あれは開けないほうがいいと思うわ」


アリアに言われて驚いてしまった。


「どうしてですか?」

 

誰にも邪魔されずにセイウスと二人きりになれるのに。


「私もよくわからないけど、夜に異性の部屋を訪ねる行為は契を結ぶためだって聞いたこがあるの」


「契………それは所謂……」


「一緒に寝て、お互いが生まれたままの姿になって抱き合う行為だと思うわ。聖女は穢れてはいけないという理由から、詳しくは教わらなかったけれど」


アリアに言われて顔が赤くなるのがわかった。


「成人までの約3年間は婚約期間なのだからあまり焦らないほうがいいと思う。セイは必死に自分の中にある感情を抑えているみたいだけど………あまり煽ってはいけないと思うよ」


セイウスが部屋に入らないように何度も念押ししていた理由がやっとわかった。


「もう、絶対に鍵は使いません」


「その方が賢明よ。………そろそろ時間みたい。アイリス、幸せになりなさい」


アリアはそう言うとアイリスの手を握ってから静かに消えていった。




目を覚ますと見慣れた天蓋が視界に広がっている。


朝のようだ。


アイリスはゆっくり身体を伸ばすとベッドから起き上がり空を見上げた。


これから、私は幸せになる。


だって、聖女アリア様が断言してくれたのだから。



−終−

最後まで読んでくださりありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ