お見合い4
セイウスは隣で歩くアイリスを横目で観察しながら歩いていた。
先程は美しさに心が奪われていまい、細かく見ることはできなかったが、よく観察すると肩が薄くまだ少女であることがわかる。
女性らしい身体の丸みはまだなく、中性的なラインだ。
ドレスから見える白い肌が眩しい。
失礼にならないように視線を前に向けた。
以前付き合っていた女性に歩くのが速いと怒られたことがあったので、気をつけてゆっくり歩く。
何を話したらいいか思いつかず、沈黙が続いた。
先に口を開いたのはアイリスだった。
「あの、ウルフレッド様………」
アイリスはそう口にすると、意を決したように立ち止まりセイウスを見つめた。
宝石の様な瞳に吸い込まれそうな感覚になりながら、
「なんでしょう?」
と切り返す。
「我が家は公爵家で、父は王弟にあたります。ローズネス公爵は歴史のある貴族であると自負しています」
想定外のことを言われて首を傾げた。
「もちろん、存じ上げていますよ」
「権力のある貴族から頼まれると断りにくいものなのでしょう。しかし、私のパートーナーに乗り気ではないのなら、はっきりと仰って頂きたいのです。ウルフレッド様に負担をかけてまでパートーナーになっていただきたいとは思っておりません」
はっきりとそう宣言してまっすぐにセイウスを見上げてくる。
その美しさのせいで、アイリスが言っていることを理解するのに時間がかかった。
「えっと………」
アイリスは自分がパートーナーになりたくないと思っているというだろうか?
「私は………パートーナーになりたく、ないなんて、一度も言った覚えは…ないのですが」
緊張で言葉が詰まったが、そう答えると
「会食の時からほとんどお話されることはなく、相槌しかしておりませんでした。視線はずっと下を向いていて、目が合ったかと思うとすぐに逸らしてしまいます。私に対してなにか不愉快な感情をお持ちなのではないかと推測いたしました」
「そんなことはありません!」
不愉快と言う言葉を聞いて大きく首を振った。
しかしアイリスは話し続ける。
「嫌悪感をもつ人間のパートーナーなんてしたいはずがありません。ですので、きっとどうやって断ったらいいか思案していて心ここにあらずのような状況なのだと思ったのです」
「もし、ウルフレッド様が断りにくいのであれば私からお断りすることも可能です。お見合いの打診は他にもたくさん来ていますし、安心してください」
アイリスの言葉にセイウスは慌てた。
「ローズネス様、何か勘違いされているのではないでしょうか?まず、大前提として私は貴女に嫌悪感や不快感など感じていません」
その逆だ!と心のなかで叫ぶ。
緊張するとか言っている場合ではなかった。
セイウスのどの態度を見てアイリスがそう思ったのは不明だが、この誤解はといておきたい。
久しぶりに焦り、変な汗が出てきた。
「私にはそう見えましたが」
「本当です。お恥ずかしい話ですが、こういった見合いの席が久しぶりすぎて緊張していただけです。もし、私の態度が誤解をさせたのであれば謝罪します」
セイウスの言葉にアイリスは小首を傾げた。
「緊張………ですか?」
「そうです!ローズネス様がその………とても魅力的な方だったので年甲斐もなく緊張してしまっただけなのです。騎士の名にかけて誓ってもいい」
セイウスの必死な言葉にアイリスは安心したように笑った。
「そうだったのですね」
花が咲いたように笑うとはこのことだとセイウスは思いながら、赤面した顔を隠すように口元を手で覆った。
「ご、誤解はとけましたか?」
「はい。てっきりウルフレッド様が不機嫌なのかと思っていました。ふふ……緊張されていただけなのですね。ホッとしました」
「パートーナーの件に関しては、私はとても前向きです。ローズネス様がよければぜひパートーナーとして誕生日会に出席したいと考えています」
「本当ですか?」
「はい、私でよろしければ喜んでエスコートさせていただきます」
セイウスはアイリスにいたずらっぽく微笑んでみせた。
話しているうちに緊張もとけて、普通に会話が出来るようになっていた。
「もしウルフレッド様に断られてしまったら、また別の方とお見合いをしなければならなかったので助かります。本当に嫌ではないのですね?」
「はい。むしろローズネス様の方が私では嫌だということはありませんか?齢もかなり上ですし」
「問題ありません。ただ………」
「ただ?」
「もしパートナーになっていただけるのなら、1つだけ条件があります」
「条件?なんでしょう?」
セイウスの言葉にアイリスはフフッと妖艶な笑みを浮かべた。
その仕草にまたどきりと心臓が跳ねる。
「アイリスと呼んでいただけませんか?」
笑顔のままそういった。ウインクでもしそうなくらい、イタズラっぽい表情だ。
「あ………確かにパートナーになるのにローズネス様はよそよそしいですね。では、アイリス様とお呼びしてもよろしいですか?」
「様、ではない敬称がいいです」
「アイリスさんはいかがでしょう?」
「それでお願いします」
「それでは私のこともセイウスとお呼びください」
「セイウスさんとお呼びします。なんだか照れますね」
「誕生日会までになれましょう」
そんな会話をしながら、二人の時間を作ってくれたリーシャに感謝した。
ここでアイリスと話をしなければ、アイリスはセイウスがパートナーになることに消極的だと勘違いして、自ら断っていたかもしれない。
そうなると、パートナーには別の男が選ばれていただろう。
アイリスの横に自分以外の男がいるというのを、想像するのも嫌だった。
まだ会って間がない少女にどんどん惹かれていく自分に驚きながらも嫌じゃないな、とそんなことを考えていた。