観劇3
「うっ………うっ………」
劇が終わると会場はガヤガヤとしだした。
しかし、アイリスは席から立つことができない。
「そんなに泣かないで下さい」
セイウスがハンカチを差し出してくれた。
「あ、ありがとう……ございます」
アイリスはそれでも涙をこらえる事ができずにいた。
「確かに悲しい物語でしたね」
「はい………どうして2人は死ななければならなったのでしょう?あんなに想い合っているのに………ひどすぎます」
「女性は隣国の姫で捕虜ですからね。その国の騎士と結ばれるのは流石に難しいでしょうね」
「それでも!死ぬ以外に方法があったはずです」
ハラハラと涙がこぼれる。
「とりあえず落ち着きましょう。そんなに目を赤くした状態でレストランへは行けませんよ。落ちつくまでここにいるしかないですね」
「ご、ごめんなさい」
アイリスはハンカチで涙を拭った。
「レストランの予約時間まで余裕があるのでのんびりして大丈夫ですよ」
「はい………」
アイリスは大きく深呼吸をして気持ちを落ち着かせた。
「なにか飲み物をもらっていましょうか?」
セイウスはアイリスが落ち着いた事を確認してから立ち上がり、隣の部屋に控えているマヤに飲み物を頼もうとした。
しかし、セイウスが扉を開けるより先に扉が開く。
扉の前には1人の騎士が立っていた。
王族騎士団の服だ。
「何か用か?」
セイウスが聞くと騎士は
「セイウス様、申し訳ありませんが少しよろしいでしょうか?」
と頭を下げた。
「陛下直属の者ではなさそうだが、私に何の用だ。ここで聞く」
「いえ………少し込み入った話ですので……」
騎士がアイリスを伺うようにそう言った。
「私は彼女の護衛も兼ねているのでここを離れるわけにはいかない」
「すぐに終わりますので」
困った様にそう言った騎士の様子にアイリスは
「行ってあげて下さい」
と答えた。
「アイリスさん!それはできません」
「大丈夫ですよ。私はここから動きませんし、マヤもいます。そちらの方はすぐ終わると言っていますし」
「しかし……」
「わざわざ王族騎士団の方が来たという事は陛下に関わる緊急事態かもしれまんし」
そう言われてセイウスは少し考えている様子だった。
しばらくして
「わかりました。マヤを呼んできますので私が戻るまでここにいて下さい」
「はい」
騎士はアイリスに頭を下げるとセイウスと部屋を出ていった。
入れ替わりにマヤが側にやってきた。
「お嬢様!どうしてそんなに目が赤くなっておられるのですか?」
「あ………劇に感動して泣いてしまったの」
「すぐに冷やして下さい」
マヤは水で濡らしたハンカチをアイリスに渡した。
「準備がいいわね」
「先程セイウス様からハンカチを濡らしてお嬢様に渡すように言付けを……それよりセイウス様はどちらに?」
アイリスは目元に濡れたハンカチをあてた。冷たくて気持ちがいい。
「王族騎士団の方が急用だとやってきたのよ。セイウスさんは行くのを拒んだんだけど、陛下に関することだと困るから行くように伝えたの」
「なるほど………しかしあの者は陛下直属の騎士ではないですよ」
「王族騎士団の服だったけど」
「服はそうなのですが、マークが違いました。王族騎士団は陛下直属、王太子直属、第二王子直属と別れていますから。あの者のマークは………」
マヤが「第二王子直属のマークです」といい終わらぬうちに
「やぁ、久しぶりだねアイリス」
と扉を開けて入ってくる人物がいた。
マヤがすぐにアイリスの前に立つ。
「ユリウス様……」
そこには笑顔で扉の前に立つユリウスの姿があった。




