観劇2
会場につくと、劇を観に来ていた貴族で溢れていた。
とても活気があり、華やかだ。
「行きましょう」
セイウスにエスコートされて馬車から降りると、ゆっくりと歩きだす。
途端に周りからの視線が痛いほど感じた。
「まぁ美しい………ローズネス公爵の家紋入りの馬車から出てきたということは彼女が才女と噂の公女かしら?」
「なんて美しい令嬢なの……」
などという女性の声と、アイリスの美しさに見惚れている男性の視線が2人に注がれている。
「ウルフレッド様だわ……男色家だと思っていたのに婚約者かしら」
「悔しいけどお似合いだわ」
などというセイウスに恋慕していた令嬢の声も聞こえる。
「アイリスさん、堂々としていたら大丈夫ですよ。今日の貴女は完璧ですから」
「ありがとうございます」
視線を払うように真っ直ぐに前を向き、席へと向かった。
アイリス達が劇を観る席は陛下専用席だ。
陛下以外には陛下が招待した要人やウィルネスのような親族以外座ることはない。
席のすぐに隣には護衛の待合室があり、他の席より高い場所に位置しているため、席に座れば下から見られることはない。
個室のその部屋にセイウスと入り、アイリスはホッと息を吐いた。
「ここにくるまでこんなに見られるとは思いませんでした」
「まだ、婚約の話は広がっていないでしょうから、この程度で済んだのですよ。明日には私達の婚約が国中に広がると思いますので、さらに注目を浴びることになると思います」
「気が抜けませんね」
アイリスは苦笑した。
「まぁこの席はプライバシーが確保されていますし、劇が終わったあとは少しここで時間を潰してから出ましょう。劇のあとはディナーに出かけることが一般的なので遅く出れば出待ちされることもないと思いますよ」
ディナーに遅れてしまいますからね、とセイウスは続けた。
「そうですね!でも本当に素敵な眺めです」
アイリスは席から立ち、会場が見渡せる位置まで移動した。
ガヤガヤとしている。
会場はほぼ満席だった。
「今日が初日で話題作なので、プレミアムチケットだと思います」
「そうなのですか?」
「はい。海外で話題になった演目で、我が国で初めて公演されるため、みんな早く観たいとチケットは即完売だったそうですよ」
「知りませんでした」
「だからこそ、ウィルネス様がプレゼントしてくれたのですよ」
「初めての劇がそんな話題作だなんて、私はラッキーです」
そう言って笑うとセイウスが目を細めた。
「私は貴女のその笑顔を独占出来てラッキーです」
「セイウスさんは恥ずかしいことをサラリといいますね」
アイリスは少し頬を赤くして視線を会場に戻した。
陛下専用の席以外に同じように高い位置にある席が2つある。
その2つはそれぞれ王位継承者1位と2位のものが使える席となっている。
今は王太子と第二王子が使用できる。
その席も今日は埋まっているらしい。
「王太子殿下と第二王子殿下も観にいらしているみたいですね」
アイリスがそう言うとセイウスも立ち上がり横に並んだ。
「本当ですね。誰かいます。しかし……今日は会議があったはずです」
「じゃあ誰が……」
席をよく見ると
「カイザー様とユリウス様のようですね」
そこにいたのは、息子であるカイザーとユリウスだった。
ふたりとも婚約者を連れている。
「演目が悲恋物語なのでデートに適してますからね」
セイウスに言われて
「そうですね」
と答えるとアイリスは席に座った。
「どんな劇か楽しみです」
「私も初めての演目なので楽しみですよ」
セイウスがアイリスの隣に座った。
広い席なのだが2人きりだと思うと緊張する。
それでも、これは頼まないと。
アイリスは真っ直ぐにセイウスをみつめた。
「セイウスさん」
「どうしました?」
「あの………手を握ってもいいですか?」
アイリスの意外な言葉にセイウスは目を見開いた。
「………えっ?」
「セイウスさんに触れていたいので手を繋ぎたいのですが駄目ですか?」
アイリスの言葉にセイウスは大きなため息をついた。
「本当に貴女という人は………私の理性を試すのが好きですね」
「駄目ですか?」
「駄目なわけないじゃないですか」
セイウスは優しくアイリスの手を包むように手を握ってくれた。
大きな手だ。
「私、セイウスさんの手、好きです」
「また煽る………私はアイリスさんの手はもちろん、すべて好きですよ」
「あ……わ、私もすべて……」
アイリスが言い終わる前に照明が落とされた。
「どうやら始まるみたいですね」
「私もすべて好きですからね」
「ありがとうございます」
セイウスと繋いだ手はそのままに劇が始まった。




