婚約者3
話し合いが終わり、ウルフレッド伯爵に婚約のことを伝えに行くというので、アイリスはセイウスを見送ることにした。
もちろん、その間は別の護衛が付く。
いつも部屋の前で護衛をしている女性騎士が少し距離を空けてついてきている。
「父に連絡したらなるべく早く戻ります」
「大丈夫ですよ。後ろにいる騎士のマヤはとても優秀ですから」
「そうかもしれませんが私が心配なのです」
セイウスに言われて自然と笑顔になる。
「ふふ……安心して下さい。勝手に外出したりせず、大人しく待っていますから。それとも一緒に伯爵を訪ねた方がいいですか?」
「まさか!そんなことをしたら父が乱舞します。落ち着かせてから連れてきますので」
「わかりました。待っています」
「アイリスさん」
「はい」
「婚約が正式に決まったら一緒に観劇を観に行きませんか?実はチケットをもらっていまして」
セイウスは懐からチケットを取り出した。
「これ、とても人気がある観劇ですよね!お恥ずかしい話、観劇をこの目で観たことがないので行きたいです」
「上司からもらったのです。貴女を誘う口実に使えと。婚約が決まったらウィルネス様に許可をとっておきます。」
「楽しみにしています」
「それでは行ってきますね」
セイウスは馬にまたがると颯爽と去っていった。
「アイリス様、お部屋に戻りましょう」
マヤに言われたので頷いた。
「ねぇマヤ」
「なんでしょう?」
「お父様、観劇に行く許可をくれると思う?」
「そうですね……セキュリティのしっかりした特別席なら許可が出るかと思います」
主に王族が利用する特別席は警備がしやすい設計になっている。
観劇の席があるBOXは扉で閉ざされ、その先は護衛のための部屋となっているのだ。
矢や銃などの飛び道具が届かない高さにあり、頑丈な壁で囲われているためセキュリティが完璧だと言われている。
「セイウスさんが持っていたチケットは普通の席だと思うけど」
「どうしても行きたいとなるとウィルネス様が特別席を用意されるかと思います」
「それだとチケットをくれた上司に申し訳ないわ」
「仕方ないかと」
マヤに言われてアイリスは小さくため息をついた。




