恋心3(セイウス視点)
セイウスは落ち着きなく部屋の中を行き来していた。
庭を散歩している時にアイリスに言われた言葉が気になる。
他の護衛に聞こえないように頼まれたのは、22時まで起きていてほしいという不思議なお願いだった。
セイウスは19時頃にアイリスを部屋に届けてからいつも、充てがわれた隣の部屋で基礎トレーニングをしている。
21時まで身体を動かしてから風呂に入り、剣の手入れをしてから日付が変わるまで起きている。
定期的に窓の外や廊下を確認し、不審な人物がいないか確認しているのだ。
アイリスの部屋の前にはいつも女性騎士が護衛にあたっている。
彼女に挨拶をして
「何かあったら迷わずに私のいる部屋のドアをノックして欲しい」
と伝えることが日課になっていた。
女性騎士の話だと、護衛にあたっていることはアイリスには秘密なのだそうだ。
そういえば、庭の散策の時に護衛にあたっているのも女性騎士だったなと思った。
アイリスの護衛には女性騎士が多い。
若い男性騎士は見たことがなかった。
男性騎士の場合は結婚している、40才以上の愛妻家ばかりだ。
ウィルネスがアイリスと若い騎士が恋仲になることを恐れているのかもしれない。
だから男性に対して免疫がないというか、無防備なんだろうなぁと思う。
そんな過保護なウィルネスに見初められたのなら、このチャンスをものにしないと。
セイウスは椅子に腰掛けた。
リズの話だとアイリスはいつも21時には寝るそうだ。
時計を見ると22時になったところだった。
アイリスは寝ているはずなのに何故起きているように言われたのだろう。
自然と視線がアイリスの部屋と繋がっている部屋に向いた。
まさか………あのドアを開けてこちらに来るつもりじゃないよな?
何度も緊急時以外は開けては行けないと忠告している。
大丈夫だと思うが…………。
その時、
カチン
と鍵が開く、高い音が聞こえた。
まさか………。
変な汗が背中に流れるのがわかった。
いや、聞き間違いだ。さすがのアイリスも夜中に異性の部屋を尋ねるようなことはしないはずだ。
そんなセイウスの希望虚しく、ガチャリとドアのノブが回された。
そしてゆっくり開いたドアから、いたずらに成功したような、眩しい笑みを浮かべたアイリスが顔をのぞかせていた。
「ア……イリスさん………」
「しー……護衛に気づかれないように小声でお願いしますね」
足音を立てないようにゆっくりとセイウスの側にやってきたアイリス。
寝間着じゃないのがせめてもの救いだが………。
セイウスは自然と椅子から立ち上がり、アイリスと距離をとった。
「セイウスさん?」
きっと真っ青になっているだろうセイウスを不思議そうに見ているアイリス。
夜中に、異性の部屋にお忍びで来ることの意味をわかっているとは思えなかった。
セイウスは小さく息をはいた。
「とりあえずお座り下さい」
この部屋には来客が来ることを想定されていないので、椅子は1つしかない。
椅子以外にアイリスが座るとなると、ベッドになる。
それだけは避けたかった。
「ありがとうございます」
可愛い声に目眩がする。
長い夜になりそうだ………。
セイウスはアイリスが何故訪ねてきたのか、理由がわからず窓から漆黒の闇をみつめてため息を付いた。




