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お見合い3

馬車に揺られながら、セイウスはため息をついた。


まさか、父が打診したローズネス公爵とのお見合いが成立するなんて思いもしなかった。


父キリウスは返信を受けて大喜びしていたが、内容を読んで眉間にしわが寄った。


「いやしかし………これはチャンスだ」


と小さく呟いている。


セイウスも内容を確認したが、そこには


『今回のお見合いはあくまで誕生日会のパートナー探しの一環と捉えてほしい』


ということが丁寧に書かれていた。


ウィルネスとは何度か会ったことがあるが、娘を溺愛していた。


セイウスに白羽の矢が立ったのは、あくまで護衛として最適だと思ったからだろう。


国一番と言われる剣の腕をもつセイウスが側にいれば、声はかけづらい。


「まさかカーリー殿の言う通りになるとはなぁ……」


独り言は誰にも受け止められずに消えていった。


キリウスがついてくると聞かなかったが、丁重に断ったので馬車にはセイウスしか乗っていない。


キリウスが来ると、ややこしいことになるのは目に見えていた。


ウィルネスの思惑と外れた言動をして、なんとかセイウスと公女を引っ付けようとするだろう。


セイウス自身、女性に興味がないわけではないが、結婚は考えていなかった。


そのため、面倒なことになるとわかっている父には抜けられない要件を押し付けて来たのだ。


兄夫婦が大喧嘩してくれて助かった。


今日は兄の家にずっといる羽目になるだろう。



そんなことを考えていると、馬車が大きな邸宅の前で止まった。


ローズネス公爵家だ。


ウィルネスの希望で見合いはローズネス公爵家の庭で行われることになった。


今日は空に雲ひとつない快晴で、ガーデンパーティーにぴったりだ。


セイウスが馬車から降りると、髪をきちんと七三に分けた60代の男性が現れた。


スーツをキチッと着こなした、メガネをかけた神経質そうな男だ。


彼は慇懃にセイウスに頭を下げた。


「セイウス•ウルフレッドだ」


セイウスが名乗ると


「ローズネス公爵家で執事をしておりますバンと申します。会場までご案内させていただきます」


と隙のない仕草でまた頭を下げた。


「頼む」


セイウスが言うと、バンは先頭だって歩き出した。


さすが公爵家、庭はきちんと整備されそして広い。


15分ほど歩いて、ようやくテーブルと椅子が見えてきた。


「今日のお見合いは旦那様の希望で庭で行うことになっております」


椅子にはすでにウィルネスとリーシャが腰掛けていた。


セイウスを確認するとウィルネスが立ち上がった。


歳は50を超えているはずなのに、細身の体躯のせいかとても若く見える。


赤毛の髪に薄緑色の瞳が印象的だ。


彫りが深く彫刻のような顔だな、とウィルネスに会うたびに思う。


その横で座っているリーシャは黒髪の女性で薄茶色の瞳に長いまつげが印象に残る美人だ。


さすが黒ばら姫と呼ばれただけあり、歳を重ねていても美しさが損なわれていない。


美男美女カップルの代名詞のような夫婦だと思った。


「わざわざ来てくれてありがとう。久しぶりだな。娘はもう少し支度に時間がかかりそうだから、座って待っていてくれ」


「お久しぶりです、ローズネス公爵、公爵夫人。この度はお見合いを快諾してくださりありがとうございます。父が喜んでいました」


バンが椅子をひいてくれたので、ウィルネスが座るのを確認してからセイウスも座った。


「セイウス殿なら娘を預けられるからね。ただ、手紙にも書いたが此度の見合いは娘の誕生日会のパートーナー探しのための顔合わせのようなものだ。そのため今回は形式的なものではなく、ガーデンパーティーという形を取らされてもらった」


パートナー探しだから心得てほしい。だからラフな感じにしている。


そう言いたいのだろう。


「心得ています」


セイウスの言葉を聞いてウィルネスは満足そうだ。


リーシャが笑うのを我慢しているのを見ると、セイウスが今回の場の意味を理解しているかずっと気にしていたのかもしれない。


「もうすぐ娘が来るのでお茶でも飲んでお待ちになって」


リーシャに言われて、タイミングよく出されたお茶に口をつけたとき


「お待たせして申し訳ありません」


鈴のような柔らかな声が後方から聞こえた。


見合い相手の準備ができたらしい。


すごい美少女だというが、どれほどなのだろう。


そう思った好奇心を押し殺して立ち上がり、声の方を向いた。


そして………絶句した。


屋敷からこちらへやってくるのは、170センチほどの細身の女性だった。


紫の髪をアップにして、薄ピンク色のドレスを身に纏っている。


大きなアメジストような瞳にまず目がいく。


白磁のような肌にすっと通った鼻筋。形いいの唇。


まるで人形のようだ。


今まで色々な令嬢に会ってきたし、美人には耐性があると思っていた。


しかし、彼女の美しさは次元が違った。


顔の造形だけじゃない。持っている雰囲気そのものが美しいのだ。


彼女はセイウスを確認すると、きれいな淑女の礼をした。


「初めまして。ローズネス公爵が娘、アイリスと申します。準備に時間がかかり、お待たせしてしまい、申し訳ありませんでした。」


耳障りのいい声に心臓が掴まれたような心地になった。


心臓がキュッと締め付けられる。


そして、ものすごい心拍数だ。


なんだ………この感じは。


「あの………?」


硬直してしまったセイウスに不審そうな目を向けるアイリス。


「あ………失礼。セイウス•ウルフレッドです。よろしくお願いします」


なんとか声を出すとフワリとアイリスは笑った。


「はい、よろしくお願いします」


ウィルネスに促され、セイウスとアイリスも座り、簡単な食事会が始まった。


簡単とはいえ、さすが公爵家。どれも美味しい料理ばかりだ。


しかし、アイリスの視線を感じるセイウスは顔をあげることも料理を楽しむこともできずに、機械的に食事を口に運んでいた。


こんなに緊張する食事会は初めてだ………。


どうしても前に座るアイリスを見ることができない。


目が合うと赤面してしまうのだ。


参った………直視できない美しさだとは想定外だ。


そんなことを思いながら、食事をしていた。


そんなセイウスをみてリーシャが面白そうにクスクスと笑う。


「アイリス。食事が終わったら庭を案内してあげなさい。パートーナーと会話ができない状況では困りますよ」


「そうですね!セイウス様とゆっくりお話をしてみたいと思っていました」


アイリスが言うとウィルネスはしばらく考えて


「まぁ、我が家の庭なら危ないところもないし少し会話をしたほうがいいな。セイウス殿は緊張しているようだし。セイウス殿、構わないか?」


「え………あっ………はい」


本音は二人きりなんて無理だ!と叫びたい気分だったが、断れる雰囲気ではない。


ちらりとアイリスを見ると嬉しそうに微笑んでいる。


その笑顔だけで顔が火照るのがわかった。


27歳にして、まさか12歳も年下の女性に一目惚れするとは………。


完全に想定外だ。

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