恋心2
セイウスと庭を散策しながらリズとの会話を思い出していた。
セイウスはモテるらしい。
そんなセイウスがアイリスに好意を寄せてくれている。
その好意が素直に嬉しい。
アイリス自身もセイウスに惹かれているのだから、誕生日会はセイウスにパートナーとしてでなく婚約者として出席してもらえばいい。
ウィルネスに言えば話はトントン拍子に決まるだろう。
だからこそ、言えずにいた。
生涯を共にするパートナーとなる人物をこんなに簡単に決めていいのだろうか。
恋人同士になるというのであれば、喜んでセイウスの手を取っただろう。
しかし、その恋人期間を飛ばして婚約者になろうとしている。
なかなか一歩を踏み出せなかった。
「アイリスさん、どうかしましたか?」
俯きながら歩いているアイリスを心配そうに見つめるセイウス。
心配そうに顔を覗く姿がキラキラ輝いて見える。
「え………あ………だ、大丈夫です」
「最近、元気がないように見えるのですが」
「そ、そうですか?誕生日会が近いので緊張しているのかもしれません」
セイウスの声を聞くと目を見ると心臓が早鐘を打つ。
悟られないようの視線を反らした。
「ダンスは全く問題ないですし、アイリスさんは所作も完璧です。堂々としていれば大丈夫ですよ」
優しい声。
セイウスは誰にでもこんなに優しく話しかけるのだろうか?
リズと話している姿を想像してモヤッとした。
「ありがとうございます」
リズは自分が思うように行動すればいいと言った。
視線がセイウスの手に自然とうつる。
手を繋ぎたい。
婚約者とか恋人とか関係性のとこは置いといて、今、何をしたいかと問われれば手を繋ぎたい。
セイウスに触れたいと思う。
セイウスは指一本触れないと約束しているので、彼から繋がれることはない。
それに庭には監視の目があるだろうから、手を繋ぐなんてできない。
セイウスは護衛だが、庭散策のときは他にも数人隠れて護衛に当たっている。
ウィルネスが念には念を入れているのだ。
「アイリスさん?」
黙ってしまったアイリスを心配する声。
「あ………あの……」
手を繋いでいいですか?
だめだ、言えない。
その言葉をぐっと飲み込んだ。
「私は誕生日会までやっぱり外出できませんよね?」
その代わりに別の話題を持ち出す。
「そうですね……ウィルネス様が許可しないと思います」
「セイウスさんが一緒でも無理でしょうか?」
「難しいかと」
街でなら手を繋げるかもと思ったが、仕方がない。
「お役に立てず申し訳ありません」
そんなセイウスと二人きりになりたいとふと思った。
いくら一緒に行動していても邸内では常に誰かの目がある。
どうすれば二人きりになれるだろうか。
二人きりになれば、手を繋ぐ事もできるかもしれない。
どうすれば………。
そう考えたアイリスに名案が浮かんだ。
「1つだけお願いを聞いてもらえませんか?」
「こっそり抜け出すとかなら許可できませんよ?」
「違います!」
「私にできることなら」
アイリスは監視している護衛に気づかれないように小声で
「夜の22時まで部屋で起きていてください」
と伝えた。
妙な提案にセイウスは首を傾げた。
「私はいつもその時間起きていますよ」
「今夜も起きていて下さい」
「はぁ……わかりました」
アイリスはニッコリと笑った。
「約束は守ってくださいね」




