お見合い2
「セイウス殿が気になるのか?」
ウィルネスに言われてハッとした。
アリアの記憶があることは誰にも打ち明けていない。そのため、アイリスとセイウスには接点がなかった。
にも関わらず婚姻の有無を聞いたとなれば不審がられるかもしれない。
アイリスは口許に力を入れて、不審がられない理由を瞬時に考えた。
「セイウス様は国の英雄として有名です。学友たちが、それはそれは素敵な方だと噂していました。そのためてっきり結婚しているものだと思ったのです。年齢も確か私よりかなり上だと聞いたのですが」
「今年で27になるのかな。確かにもう結婚していておかしくない年齢だ。それに美丈夫で伯爵だ。お前が疑問に思うのも無理ない」
どうやら疑われなかったようだ。
「セイウス殿にはこれまでたくさんの縁談が持ちかけれていたと聞くが、どれもうまく行かなかったそうだ」
「それはどうしててですか?」
「セイウス殿がアリア様の護衛騎士だったことは知ってるな?」
アリアの記憶があるアイリスはもちろん知っているが、そうでなくても有名な話だった。
アリアがセイウスを助けた話は美談として広がり、劇の演目にもなっている。
「兄たちからの暴力から助けるためにアリア様がセイウス様を護衛騎士に任命した話ですよね?」
「そう。母親の違う歳の離れた兄二人から日常的にセイウス殿は暴力を振るわれていた。伯爵も夫人も庇っていたのだが、二人のいない隙をねらって暴力を振るうものだから、なかなか現場を抑えることが出来なかったそうだ」
「そのため、伯爵家の子息とは思えない痣を顔やら手やらにつけていたんだ。そのまま登校していたセイウス殿が視察で訪れていたアリア様の目に止まり、なぜ彼は痣だらけなのか聞いたそうだ」
「そこで兄に日常的に暴力を振るわれているが、証拠がないためどうしょうもないこと。また伯爵が遠征に出かけているために最近は暴力に拍車がかかっていることを伝えたらしい」
「そこでアリア様が10歳だったセイウス殿を護衛騎士に任命して王宮に泊まり込みで働くように指示したのだ。お陰で兄たちから逃れることができた、という話だ」
ウィルネスは懐かしそうに目を細めた。
「10歳の護衛騎士なんてよく許可されましたね」
「アリア様は聖女だったため、制約があり自由のない身分だった。その分、制約以外では王は彼女の要求を認めていた。まぁ護衛騎士といっても平日は学校に行き、夕方から少しの間、アリア様の話し相手をしていた感じだったけどね」
アイリスはこれ以上は何も聞かずに、
「それと結婚されていないととは関係ないかと思いますが」
と話を戻した。
「セイウス殿はアリア様にとても感謝していた。学校を卒業したら本格的に護衛騎士になるために鍛錬も怠っていなかったよ。だからこそ、アリア様の死が彼に暗い影を落としているだろう」
「アリア様の死が結婚できない理由だと?」
「そこまで断定することではないよ。ただ、原因の1つだとは思う。今でも命日には必ずお墓参りしているしね。そんな青年だから、アイリスのパートーナーとしていいと思うよ」
結婚に興味のない人物なので、パートーナーのみを引き受けてくれてその後、結婚してくれと迫ってこないだろうという意味だ。
ウィルネスはウルフレッド伯爵の手紙を一番上に意図的に置いていたのだろう。
セイ………。
アリアのときに呼んでいた名前を口に出さずに呟く。
アイリスは王弟の娘であるため、アリアと関わりのあった人物のほとんどにアイリスとして会うことができた。
しかし、騎士団所属のセイウスには会うことが出来なかった。
接点がないため、仕方がない。
セイはどんな大人になったのだろう?
結婚はしていないが幸せなのだろうか?
アリアとして生きた心残りはセイウスのことだった。
自分が護衛騎士に任命したために、不幸になっていないか気になっていた。
「セイウス様に会ってみたいです」
アイリスの言葉にウィルネスは満足そうに微笑んだ。
「よし、じゃあセイウス殿との見合い話をすすめるとしよう!セイウス殿は好青年だからアイリスも気に入ると思うが………今回はあくまでパートーナー探しのためのお見合いだ。付き合うとか考えなくてもいいからな」
お見合いを勧めながら矛盾したことをいうウィルネスにアイリスも笑顔になる。
「もし、セイウス様が素敵な方ならお付き合いしてもいいのでしょうか?」
「それは………まぁ………清い付き合いならかまわない」
歯切れの悪い言い方だ。
「わかりました」
「と、とりあえず今回はパートーナー探しだということを忘れないような!」
ウィルネスの言葉にアイリスはくすりと笑った。