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鼓動4

カフェにつくと、すぐに奥の半個室の部屋へと案内された。


メニューを渡されたので、アイリスは学友から聞いて食べたかったパフェを注文した。


セイウスはチーズケーキを注文。



「本当は貸し切りにしようと思ったのですが、アイリスさんは他の客がいたほうがいいかと思いまして」


カフェは満席でとても賑わっている。


「お恥ずかしい話なのですが、今まで外食をしたことがありませんでした………ですのでこういった雰囲気に憧れていました」


アイリスは今まで、レストランでさえ食事をしたことがなかった。


デビュタント前のためガーデンパティーにも行ったことがない。


学校ではみんなで食べていたが、公爵家令嬢など位が高い貴族は離れた席が用意されていた。


それに、学校の食堂ではみんなとても静かに食事をしていたため、ガチャガチャしているイメージはなかった。


食事中にうるさいと淑女として相応しくないと、貴族の学友達は幼少期から教え込まれているためだ。


そのため、カフェで各々が楽しそうに話をしながらケーキなどを食べている姿は新鮮だった。


「皆さん、楽しそうに会話をしながら食事をされるんですね」


もちろんアイリスも家での食事では両親と会話をするが、それは誰も食べ物を口にしていないタイミングに限る。


運ばれた食事をするときは会話をしないのがアイリスの常識だった。


「ええ。カフェでは食事をしながら会話も楽しみます。アイリスさんには新鮮かもしれませんが、それが一般的なのですよ」


「私は本当に世間を知らないです……」


落ち込みそうになるアイリスにセイウスは慌てた。


「食事中にも姿勢や態度に気をつける。淑女として当たり前の作法です。アイリスさんは王族の血筋ですし、そういった躾は厳しかったはずですし。今回も無理して会話をする必要はありません。楽しんでください」


「ありがとうございます。あ、食事の前にこれを受け取っていただけませんか?」


アイリスは先程購入したカフスを取り出した。


「食事が始まると忘れてしまうかもしれませんので」


念願のパフェが眼の前にきたら、忘れる可能性がある。


「なんですか?」


「いつも色々としてくださるセイウスさんへのプレゼントです」


「私にですか?」 


「はい。気に入ってもらえると嬉しいのですが………」


セイウスは驚いた表情を浮かべた後に


「どんなものでもアイリスさんからもらったら宝物になります」


と笑顔で答え、箱を開けた。


「これは………カフスですか?」


「はい。先程買ってくださったネックレスとペアのイメージで作られたそうです。もし、嫌じゃなければ誕生会に付けてくださると嬉しいです」


「嫌なわけないじゃないですか」


セイウスは片手で口を覆うと


「こんなに嬉しいプレゼントは初めてもらいました。絶対に付けていきます」


と大切そうに箱を胸ポケットへとしまった。


「ありがとうございます、アイリスさん」


少し頬を赤らめて笑ったセイウスにまたしてもトクンと胸がなった。


そしてなんだか恥ずかしくなる。


トクン、トクンと心臓の音が耳の直ぐ側で聞こえているようだ。


一体どうしたのだろう? 


今日はなぜか、セイウスの笑顔を見るとドキドキする。


今まで手を繋いでも横で寝てもなんともなかったのに………。


この気持ちは何?


「アイリスさん、どうかしました?」


セイウスに言われてハッとする。


とても心配そうな表情だ。


「な、なんでもありません!パフェ楽しみだなぁって思っていただけです」


慌てて首を振ると


「そうですか?」


と少し怪訝そうな顔をしたが、それ以上は何も言ってこなかった。


「実は私からもアイリスさんに渡したいものがあるんです」


セイウスはそう言うと、小さな布製の赤い巾着袋を取り出した。


そしてアイリスの手の上に置く。


「なんですか?」


「開けてみてください」


素直に巾着を開けると、中には透明な玉が入っていた。


透かしてみると、中に少しクラックがある。


「これは、水晶ですか?」


「そうです。クラックの部分をよく見て下さい」


言われてよく見ると、クラックにキレイな虹が見えた。


「水晶の中に虹があります!」


「そうです。実は少し前に王の護衛で隣国に行きました」


隣国はたしか、水晶がよく取れることで有名だ。


「その国で売っていた水晶なのですが、話を聞くとその虹入りの水晶はその国では『アイリスクオーツ』と呼ばれているそうなのです」


アイリスクオーツ。


セイウスに言われて水晶を見つめる。


「この水晶と私は同じ名前ということですか?」


「アイリスとはその国の虹の女神の名前なのだそうです。それでアイリスクオーツと呼ばれているそうですよ。持っている人を幸せにすると言われているそうです」


「虹の女神様と同じ名前なんて畏れ多いですね」


「その話を聞いて、どうしてもアイリスさんにお土産に買いたくなりました」


セイウスはポケットから青い巾着袋を取り出した。


「自分の分も買いました。お揃いです」


恥ずかしそうに笑うセイウスの表情にまた、トクンと胸がなり動悸がする。


「あ、ありがとうございます。とても嬉しいです」


他国で自分の事を思い出してくれたこと。


名前を聞いて買ってきてくれたこと。


セイウスとお揃いだということ。


すべてが嬉しい。


その気持ちを乗せて笑顔でもう一度


「ありがとうございます。大切にします」


と伝えると、セイウスは


「うっ………」


と小さく唸って視線を反らした。


「どうしたんですか?」


「い、いえ………慣れてきたと思っていましたが、まだまだ慣れてなかったようです」


「慣れる、ですか?」


「申し訳ありません、こっちの話です。喜んでもらえてよかったです」


セイウスは時々、挙動不審になる。


そんなふうに思った。


少し気まずい雰囲気になりかけたとき、パフェとケーキを運んできてくれた。

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