鼓動3
スータ子爵の宝石店にはリズと二人で先に入った。
セイウスは馬車の停車場所などを従者に伝えてから店に入るという。
宝石店に行くだけなら、店の前に停めて待っていてもらうのだが、カフェにも行く予定のためカフェ近くで待つように指示すると言っていた。
中に入るとスータ子爵が出迎えてくれた。
「お久しぶりです、アイリス様」
人好きのする笑顔で挨拶され、アイリスも笑顔になる。
リズに似ているなといつも思う。
「スータさん、久しぶりね。今日は私に合うネックレスを用意していると聞いたわ」
「はい。アイリス様の誕生会にふさわしい最高級のネックレスをご用意しています。どうぞこちらへ」
奥の部屋に案内されたのでリズと向かう。
奥の部屋の机にはたくさんのネックレスがズラッと並んでいた。
リズから事前に聞いていたのだろう。
青と黄色の宝石が中心のネックレスばかりだ。
「どうぞおかけ下さい」
素直に従う。
「どれも素敵ね」
「お嬢様、こちらなんていかがでしょう?」
リズが手前のネックレスを手にとって首付近に持ってきてくれた。
眼の前には鏡が用意されている。
「素敵ね。なんの宝石かしら」
「こちらはサファイアになります。この大きさでこの色味はなか中お目にかかれません」
たしかにきれいだが、セイウスの瞳の色とは違う。
どうせならあの、透き通るような水色の宝石がいいな………とネックレスを見ているとセイウスも部屋に入ってきた。
「これだけネックレスが並べられていると圧巻ですね」
自身は座らずに上から眺めている状態だ。
「セイウスさんは気になるネックレス、ありますか?」
アイリスに言われて
「そうですね………これとかきれいですよね」
と大きな黄色の宝石が真ん中にあるネックレスを指さした。
リズがそれを手に取る。
「こちらはイエローダイヤモンドになります。この大きさは我が国でも3本の指に入るものです。」
首にあててくれる。
たしかにきれいだけど………セイウスの髪の色とは違う。
「アイリスさんが気に入ったものはありますか?
」
セイウスに言われてネックレスを眺めていると、1つのネックレスに目が止まった。
「リズ、あの真ん中にある水色の宝石が中心あるネックレスを見たいわ」
アイリスに言われてリズがそのネックレスを取ってくれた。
「こちらは最上級のアクアマリンになります。アクアマリンを中心にイエローサファイアとパープルサファイア、ダイヤモンドをあしらったものです」
近くで見るととても綺麗。
アクアマリンはセイウスの瞳とそっくりだった。
周りにあしらわれたイエローサファイアとパープルサファイアもとてもキレイで、しばらく見惚れてしまった。
「こちらのネックレスは有名宝石職人が作ったもので、この中では一番高額になります。それを選ぶとは、さすがお嬢様です」
「着けてみてもいいかしら?」
「もちろんです」
リズが手際よくネックレスをつけてくれた。
首元でキラキラと光るネックレスに目を奪われる。
「よくお似合いですよ。ねぇ、ウルフレッド様」
「ええ、とても良く似合っています」
「これがいいわ」
アイリスの一言でネックレスは決定した。
セイウスは値段などの話があるため、スータ子爵と別室へと移動した。
「いいのが見つかってよかったです」
「見た瞬間、ほしいと思ったの」
「ウルフレッド様の瞳と髪の色、そしてお嬢様様の色まで入っていますからね。実は私もあのネックレスがいいと思っていました」
「どうしてすぐにすすめなかったの?」
「お嬢様に選んでほしかったんですよ」
リズがいたずらっぽく笑った。
そして、小さな箱をアイリスに渡した。
「これは何?」
「開けてみてください」
リズに言われて開けると、青と紫の宝石がついたカフスが入っていた。
「きれいなカフスね」
「差し出がましいかと思ったのですが、ウルフレッド様へのプレゼントにいかがかと」
「セイウスさんに?」
「先程選ばれたネックレスと同じ宝石職人が作ったものです。先程のネックレスとペアのイメージで作ったそうです。」
たしかに先程のネックレスと同じように青と紫の宝石があしらわれている。
誕生会でつけると、統一感が出そうだ。
「誕生会のパートナーをしてもらうから、実は何かお礼をしたいと思っていたの。リズ、よくわかったわね」
「お嬢様の事は誰よりもわかっていると自負しています」
「ありがとう。これ、買うわ」
アイリスは鞄の中から金貨を1枚渡した。
「そこまで高額ではありませんよ!銀貨5枚ほどになります」
「じゃあお釣りはリズへのチップにするわ」
アイリスは笑うと鞄の中にカフスをしまった。
「カフェで渡すわ」
「きっと喜んでくれますよ」
「ところでリズもカフェに行くの?」
「いえ、私は家の手伝いをしないといけませんのでここからは別行動です」
「リズと街を歩けると思ったのに残念ね」
「セイウスさんと楽しんできて下さい」
リズがそういった時にセイウスが戻ってきた。
「お待たせしました。ネックレスは公爵邸に送るように手配しました。ちょうどカフェの予約時間になりましたので行きましょう」
「はい!」
二人は見送られながら宝石店をあとにした。




