黒と青5
龍はアイリスほどの背丈だった。
黒竜は岩のようにとても大きかったので、子供の龍だろうか?
アイリスはゆっくりとベッドからおりて龍の元へ歩いていった。
「初めまして、聖女様。私は青龍と申します」
紺色の龍は礼儀正しくそう言うと、軽く頭を下げた。
青龍………?黒竜が友達だと言っていた龍だろうか。
それにしては小さい。
「私の大きさを気にしておられますか?龍は身体の大きさを変えることが可能です。いつもの大きさでは貴女の部屋に入れませんからね」
黒竜に比べるとずっと優しい喋り方だ。
「あの………私は聖女ではありません。まず、その誤解を解かせてください」
アリアと勘違いしているのであれば、青龍は黒竜を討伐した聖女を探してここにたどり着いた可能性がある。
友を奪われて平気なはずはない。
きちんと話をしないとアイリスの生命が危ないだろう。
今のアイリスにはなんの力もないので、簡単に殺されてしまう。
青龍は相変わらず穏やかに話をする。
「誤解……とは?貴女から黒竜に残っていた力と同じ香りがします。貴女が黒竜の生命を奪ったのでしょう?彼は気性が荒く、人間に迷惑をかけたこともあったに違いありません。しかし」
青龍から殺気が流れる。
一気に空気が歪み闇よりも深いオーラが青龍の周りにはっきりと確認できた。
そのオーラがアイリスを包み込む。
それだけで動けなくなった。
目が赤く光り、アイリスを真っ直ぐに射抜く。
「人間ごときに殺されていい龍ではありません。聖女よ、なぜ黒竜はあのような最期を迎えたのでしょう?貴女には答える義務があります」
声がまるで刃物の様に尖り、アイリスに向けられた気がした。
やっぱり………わたしを恨んでいるんだ。
不思議と怖さはなかった。
殺すつもりならいくらでもチャンスはあったはずなのに、人目を忍んで会いに来た。
きっと、アイリスの話を聞こうと思ったのだろう。
それだけでも理性のある龍だと思う。
黒竜なら見つけた時点で殺していたはずだ。
アイリスはどのように黒竜の最期を伝えるべきか悩みながらゆっくりと口をひらいた。
「青龍様、まず私は聖女ではありません。聖女アリアは黒竜と共にこの世を去りました。私はその聖女の生まれ変わりです」
大事なことなので、まずは自分がアリアではないことを伝えた。
青龍の殺気が緩む。
「黒竜に頼まれて生命力を使い黒竜を討伐し、アリアはそこで絶命しています。その後になぜか、アリアの記憶を持った状態で私は産まれました。ですので、私は聖女ではありません」
「黒竜が………頼んだと言うのですか?」
「はい、長く生き力をコントーロール出来ない自分の生命を奪ってほしいと頼まれました」
青龍から殺気が消え、穏やかな空間に戻った。
ピリピリとした緊張感が解け、アイリスはホッとした。
何かを考えているのか、沈黙が続く。
「………黒竜の魔石を頂いてもよろしいですか?」
やっと口を開いたかと思ったら予想外のことを言われた。
「魔石、ですか?」
「あの引き出しに入っている紫の石です。あれは黒竜の魔石です。魔石があれば黒竜の最期を私なら確認できます」
ウルフからもらった魔石だ。引き出しに入っているとどうしてわかったのだろうか?
不思議に思いながらも、引き出しから石を取り出す。
暗闇なのにピカピカと輝いていて、すぐに見つけることができた。
本当にきれいな石ね。
アイリスは手に取るとそれを青龍の眼の前に持っていった。
「この石のことですか?」
「そうです。失礼しますね」
青龍はアイリスの手から魔石を口に咥えると、迷いなく口の中に入れた。
ゴクンと飲み込む音がする。
魔石を飲み込むとは思わず、驚いていると青龍は静かに目を閉じた。
沈黙が続く。
カーテンが風に揺れる音だけが部屋に響き、暗闇から注ぐ月明かりが青龍を幻想的に空間に浮かび上がらせている。
しばらくすると青龍はゆっくりと目を開けた。
「なるほど………貴女の言っていることは嘘ではないようですね。そして、黒竜が前世の貴女に、迷惑をかけたようです。私から謝罪します。申し訳ありません」
青龍は頭を下げた。
「私の言葉を信じてくださるのですか?」
「魔石には黒竜から私へのメッセージが残っていました。黒竜は人間に魔石が渡らないようにウルフに隠してもらっていたようです。龍は死ぬと魔石だけを残して消えてしまいますからね」
「ウルフにですか?」
「魔石に残っていた情報によると、生前の貴女の方が先に絶命し、黒竜は少しの間生きていたようです。そこにたまたまウルフが通りかかり、魔石を託したようですね」
「どうして」
「私にしてほしいことがあったようです。全く………死んでも私に迷惑をかけるとは、さすが黒竜ですね」
青龍は小さく息を吐いた。
「貴女に前世の記憶を残したのは黒竜なのですよ」
青龍は困ったようにそういった。




