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記憶が阻害する6

三日月の間に入ると、思わずため息が漏れた。


「この部屋には私とローズネス公爵しかいらっしゃいませんので、肩の力を抜いても大丈夫ですよ」


マリアンヌの気遣いにアイリスは頷くとソファに腰かけた。


「ありがとう、マリアンヌ。ちょっと疲れたからミルクティをもらってもいいかしら?」


「もちろんです。ご用意してきますのでこちらでお待ちください」


マリアンヌはきれいな礼をすると部屋から出ていった。


静寂が部屋を支配する。


カイザーもユリウスも本気で想ってくれていたのだろう。過去形だと信じたいが。


それでもその想いに答えることはできない。記憶が阻害しているのか、それとも元来の性格なのか。


アイリスはあくびをした。


実は昨日、あまり寝れていない。


ウィルネスが忙しくなり、リーシャが体調を崩したため誕生日会の招待状を書く人間がアイリスしかいなくなってしまったのだ。


王族には早めに招待状を送ったが、他の貴族にはまだ送れていない。


そのため昨日は1人でせっせと宛名書きをしていた。


王の前であくびなんてしたら大変だわ。


そう思いながらも、静かな部屋がアイリスを眠らそうとする。


眠い………。


王の前であくびをするくらいならここで仮眠を取った方がいいかもしれない。


マリアンヌが紅茶を用意すると出ていったことを考えると、王への謁見までしばらく待たされるのだろう。


もしかしたら予想外の来客があったのかもしれない。


ウィルネスだってすぐにはこないだろう。


だったら少しくらい寝ても許されるはずだ。


そんなことを考えならがらうつらうつらしていると控えめにドアがノックされた。


マリアンヌかしら。


「はい」


返事をすると


「失礼します」


と聞きなれた男の声が扉の向こうから聞こえた。


この声は…………。


「セイウスさん?」


「はい、少しトラブルがありまして………部屋に入ってもよろしいですか?」


「もちろんです」


アイリスの許可を得てからセイウスは扉を開けた。


「いきなり申し訳ありません。実は先ほどマリアンヌが怪我をしまして」


「怪我?」


アイリスが驚くと


「階段前で猫に遭遇したそうで、驚いた拍子に転けてしまったそうで」


マリアンヌは猫がとても苦手だ。


彼女の唯一の弱点といってもいい。


あんなにかわいいのにどうして苦手なのか、アリアの時に聞いてみると『近くによると蕁麻疹ができるのです』と答えてくれた。


猫アレルギーだから苦手らしい。


「マリアンヌの怪我はたいしたことないのですか?」


「はい。捻挫だけです。ただ、歩いたりすると痛むそうなので医務室で休んでいます」


「そうですか………でもどうしてセイウスさんが?」


「ちょうど休憩中でして………食堂からの帰りにマリアンヌが動けなくなっているのを発見しました。アイリスさんに伝えてほしいということでしたので医務室に彼女を連れていってからこちらに伺いました」


セイウスの言葉にアイリスはほっとした。


大したことなくて本当によかった。


「アイリスさんを1人にするわけにもいきませんので、私が護衛をかねて側にいようかと思うのですが………よろしいでしょうか?」


「もちろんです!」


アイリスはソファの横を軽く叩いた。


「こちらに座って話し相手になってください」


セイウスは頷くと横に座った。


「護衛の交代時間になったので休憩に入ったのですが、ちょうど王への謁見が入った様子だったのでアイリスさんが呼ばれるのは少し遅くなるかもしれません」


急遽、謁見が必要な状態になったのだろう。


「お父様もまだですし、ゆっくり待ちます」


アイリスはそう言うとまたあくびをした。



「眠たいのですか?」


「誕生日会の準備をしていて寝不足なのです」


そういえばアリアの時はよく、セイウスの肩を借りて寝ていたなぁとふと思い出した。


あのときは身長もほぼ同じくらいだった。


今のセイウスはあのときよりずっと逞しく大きく成長している。


それでも…………セイウスのとなりは安心する。


アリアの時みたいに肩を借りたら怒るかしら?


セイウスは優しいから大丈夫よね。


そんなこと考えながら、どんどん意思が遠退いていくのを感じた。


王の前であくびをするわけにはいかない。


少しだけ仮眠を取ろう。


アイリスは静かに目を閉じた。

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