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記憶が阻害する5

王城とはいえアイリスを呼び捨てにできる青年といえば、カイザーを除けば一人しかいない。


アイリスは立ち止まり振り返った。


薄茶色の髪に鳶色の瞳。


背はアイリスより少し高いくらいので線の細い青年だ。


アリアの弟であった第二王子の青年時代にそっくりである。


懐かしさに微笑みそうになるのを抑えて、無表情で礼をした。


「お久しぶりです、ユリウス様」


アイリスに名前を呼ばれて、ユリウスの顔が赤くなる。


「や、やっぱりアイリスだったんだね。久しぶり。その………しばらく見ない間に………」


ユリウスは頭をかいて下を向いた。


「さらに……綺麗になったね」


褒めるのにそこまで照れられると、こっちまで恥ずかしくなる。


アイリスはそう思ったことを悟られないように、余所行きの笑顔を作った。


ユリウスに少しでも気があると勘違いさせてはいけない。


隣国の姫、サンシャとの婚約がアイリスのせいで破談になるようなことがあれば国際問題に発展する。


「ありがとうございます」


「そ、そんなに畏まらなくて、いい。これからお祖父様に謁見かな?」


照れるのか、ユリウスはアイリスと視線を合わせようとしない。


「はい。15歳になる報告に伺いました」


「そ、そう。あ………誕生会の招待状ありがとう。サンシャ様は来られそうにないから、マーガレットと一緒に参加するよ」


マーガレットはユリウスの妹だ。


婚約者に様付けということは、あまり交流がないのかもしれない。 


「マーガレット様にお会いするのも久しぶりなので楽しみです」


「うん………アイリスのパートナーはセイウスだったね」


「はい、快く引き受けてくださいました」


「僕じゃだめだったのかな?叔父上には何度も打診したんだけど………」


やっと目を合わせてくれたが、すぐに赤面して横を向いてしまった。


そんな姿を微笑ましいとは思うが、今の言葉は聞き捨てならない。


「ユリウス様はサンシャ様と婚約されています。婚約者のいらっしゃる方にパートナーを頼むはずがありません。お父様が断るのは当たり前です」


「そうかもしれないけど………アイリスのパートナーになれるのなら、婚約を白紙に戻してもいいと伝えたんだよ?」


「冗談はやめてください!サンシャ様との婚約はリンファ様から打診があったそうじゃないですか。もし、この話がリンファ様の耳に届けば大事になります」


サンシャの母、リンファは癖のある女性である。


癇癪を起こすと隣国の王でさえ止めることができない。


頭の切れる賢い女性ではあるが、自国を下に見るような発言を赦すとは思えない。


「冗談じゃないんだけどなぁ。僕は元々乗り気じゃなかったし………」


「乗り気じゃなかったとしても隣国の姫と婚約したのですから、簡単に破棄できるわけがありません。発言は慎重にお願いします」


リンファが般若のような形相をしている姿を想像して身震いした。


彼女は間違いなく怒らせてはいけない人間だ。


「頭ではわかっているんだけどね…………アイリスを諦められないんだ」


一見、無害そうに見えるユリウスだが、好きなものに執着するところがある。


気をつけなければ本当に暴走しかなねない。


アイリスはその言葉をスルーすることにした。


「ここまで結構歩いたので疲れてしまいました。三日月の間で休ませていただいてもよろしいでしょうか?」


「え………?」


まさかのスルーされると思っていなかったのだろう。驚いた表情をしている。


「休ませていただいてもよろしいでしょうか」


もう一度聞くと、ユリウスは小さく息を吐いた。


「ごめんね、怒らせるつもりはなかったんだ。大丈夫だよ、君のせいで婚約破棄なんてしないから。流石にしつこかったね」


「いえ………」


「でも、これだけは知っていてほしい。僕は本当にアイリスと結婚したいと思っていたんだ。今でも諦めきれないくらいには想っている。何度もローズネス公爵家にアイリスに会いたいと頼んでいたのに断られて続けていたんだ」


「…………」


「叔父上は僕が諦めるまで絶対に君に会わせてくれなかった。だから婚約したら会わせてもらえるかもと思ったんだ。結果、婚約しても会うことは叶わなかったけどね」


ウィルネスはユリウスの執着心に気がついて危ないと感じていたのだろう。


第二王子が、今の妻と結婚したいがために彼女を誘拐した話は上位貴族の間では有名な話だ。


その時既婚者であったにも関わらず、前妻を捨て犯罪に走った執着心は流石に怖さを感じる。


救いだったのは現妻も第二王子に好意を寄せていたことだろう。


前妻はその後、侯爵家に嫁いでいる


結婚期間が2ヶ月と短く、清い関係であったことが証明されたためだ。


そんな父の血を引くユリウスをウィルネスが警戒したのは当たり前といえば当たり前だ。


アイリスは義務的な笑顔をわざと作り


「マーガレット様に誕生会でお会いできるのを楽しみにしていますとお伝え下さい」

 

と綺麗な礼をして伝えた。


「そんなに警戒しなくても、僕は父みたいな愚かなことはしないよ」


「そう信じております」


「アイリスは相変わらず隙がないね。今の態度でふっ切れたよ。誕生会、楽しみにしてるよ」


「はい」


「じゃ失礼するね」


ユリウスは寂しそうに微笑むと去っていった。


姿が見えなくなって、思わずため息がもれた。


モテるって大変だ…………。


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