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花まつり2

アリア様誕生祭は別名花まつりと言われるだけあり、王都は花で溢れかえっていた。


チューリップやユキヤナギ、桜も様々な種類が咲き乱れている。


まつりに参加しているものは老若男女問わず髪や胸元に好きな花を差し、まつりを盛り上げていた。


花に因んだ料理も多く、青い空の下は目が覚めるような鮮やかさで彩られている。


「花の香りで酔いそうだな」


警護に当たっている王室騎士団のカーリーが言った。


「そうですか?いい香りだと思いますよ」


同じく王室騎士団のセイウスが答える。


「みんな浮かれてるねぇ。そんな時でも仕事だなんて宮仕えは大変だよ。」


「私は希望して警護に当たっていますので」


セイウスの言葉にカーリーはわざとらしくため息をついた。


「国の英雄がわざわざするような仕事じゃないだろう?毎年律儀なもんだな。アリア様への忠誠心がすごいな」


「忠誠心というわけではないのですが………アリア様の誕生日を祝うお祭りでみんなの笑顔が曇るのは耐えられないだけですよ」


カーリーはまたため息をついた。


「セイウスは今年で何歳になる?」


「今年の誕生日で27になります」


「アリア様が亡くなられてから15年。専属騎士だった12歳の頃と比べると大人になったな」


カーリーは息子を見るような目をセイウスを眺めた。


金色の髪と碧眼。


190センチ近い長身で、切れ長の目と意志の強そうな口許に日焼けした肌がよく似合う。


整った顔と均整の取れた体躯と王室騎士団の肩書。


しかも実家は伯爵だ。三男ではあるが、隣国との争いや魔獣討伐などで名を挙げ、自ら伯爵の位を賜っている。


こんな優良物件、女性が放っておくわけがないのだ。


にも関わらず、彼には婚約者も特定の交際者もいなかった。


「結婚は考えないのか?」


50歳のカーリーはすでに結婚し、3人の子供がいる。


「なかなか縁に恵まれないもので」


「嘘言え。この間のパーティーでキャビー子爵ののご令嬢が熱心にダンスに誘っていたそうじゃないか。キャビー子爵の令嬢といえば美しいことで有名だ」


「香水の香りが強く、私とは合いませんでした」


「この花の香りは平気なのに、ご令嬢の香水はだめとはな!もう少しマシな断り方をするべきだと思うぞ。なんだ、もしかして男色家なのか?」


カーリーの言葉にセイウスは興味なさげに


「好きに捉えて頂いていいですよ」


と答えた。


「今、女性が近寄らないならその噂が流れてもいいとか思ったな!?」


「答えたくありません」


「………もしかして、初恋がアリア様だったのか?」


カーリー言葉にセイウスは寂しそうに首を振った。


「違います。アリア様に異性として惹かれてはいませんでした。人としてはとても尊敬していましたが。ただ、あの方以上に所作の綺麗な女性に巡り合えず、時が過ぎただけですよ」


「アリア様は確かに所作が完璧だったが………あれは幼い頃からの教育の賜物だ。彼女と同じくらい所作が綺麗な女性となると、なかなかハードルが高いな」


「そうですね」


「あ………それならローズネス公爵の娘はどうだ」


「ローズネス公爵ですか」


王弟ウィルネスと黒ばら姫と謳われたリーシャが大恋愛の末に結婚したのは有名な話だ。


美男美女だったため、いま大人気の観劇のモデルにもなっている。



「今年15になるそうで、それはそれは美しい少女らしいぞ。それでいて才女で、学校を飛び級して2年早く卒業したらしい。その学校のマナーの講師が『こんなに美しい所作をなされる令嬢は初めててです』と驚愕したそうだ」


「所詮噂じゃないですか」


セイウスは興味なさげだが、カーリーはそれでも話し続ける。


「美少女で所作は完璧。そして才女。おまけに身分は公爵。ローズネス公爵には彼女しか子供がいないから跡取りとなる。そんな公女が15歳の誕生日会を開くのだから今からみんなその誕生日会の招待状を手に入れようと躍起になっているって噂だ」


「公女も大変そうですね」


「ローズネス公爵は誕生日会で娘のパートーナーを必死に探しているらしい。自分がパートーナーになってしまうとどうしても彼女を一人にする時間ができてしまう。そうならないために信用の置ける人間にパートーナーをと考えているらしい」


貴族は15歳の誕生日会で社交界デビューするのが一般的だ。


それまでは社交界に姿を見せない。


娘の誕生日会の主催者は親であるローズネス公爵なので、自分が主催者として忙しくしている間、娘を護衛する人間がほしいのだろう。


「身内にはいないのでしょうか?」


「ローズネス公爵の身内となると王族になるからなぁ。王族が公女のパートナーになるとあとあとややこしいんだろう。貴族は基本、恋愛結婚が主流になりつつあるが、王族は幼い頃から婚約者が決められているからな。婚約者以外のパートナーなんてできないだろう」


「なるほど」


「公爵夫人の方の親類は令嬢ばかりだったはずだ」


それで慌ててパートナーを探しているのか。セイウスは小さく息を吐いた。


「才色兼備というのも大変ですね」


楽しげな音楽を聞きながら、会ったこともない公女に同情してしまった。


「他人事みたいに言っているけど、お前も例外じゃないぞ」


「何がですか?」


「噂に聞くと、お前の花嫁探しにウルフレッド伯爵がお見合いをあちこちに申し込んでいるそうじゃないか」


「それと公女となんの関係が?」


「ウルフレッド伯爵のことだ。ローズネス公爵がパートナー探しをしていることを知って、お見合い話を持っていってるぞ、きっと」


「まさか。身分が違いますよ」


「公爵家には公女しか跡取りがいない。そうなると養子でも可能な次男以下の貴族がパートナーの条件だろう。婚約者までは行かずとも婚約者候補にパートナーを依頼するのが一般的だからな」


「だからといって、私と公女は歳が離れすぎています」


「12歳の年の差なら問題ないだろう」


カーリーはニヤリと笑うと


「心積もりはしておいたほうがいいぞ」


と付け加えた。


セイウスは祭りの音楽と人々笑い声を聞きながら、カーリーの言葉を聞き流したのだった。


 







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