懸想(セイウス視点)
屋敷に帰りソファに腰掛けてから、セイウスは小さなため息をついた。
アイリスに一目惚れしてからこれまで、彼女のことを考えない日はなかった。
宝石のような紫の瞳に自分だけが映ればいいのにと、不可能なことまで考えてしまった。
逢いたい………。
その気持ちを抑えることができず、デートの申し入れをしたのだが、まさかアイリスがあんなに前のめりに快諾するとは思わなかった。
少しは自分のことをよく思ってくれているのかもしれないと、期待した自分は悪くないと思う。
当日の町娘風の格好が可愛らしく、久しぶりの彼女を眩しく感じた。
そしてデート。
アイリスの笑顔や言動を思い出すと自然と表情が緩む。
ずっと繋いでいた手にはまだ、アイリスの感触が残る。
馬車で不可抗力で抱きしめてしまったときは、想像以上の華奢さと甘い香りにくらくらした。
こんなに理性を試させるデートになるとは思わなかった。
何度も何度も何度も何度も抱きしめそうになった。
馬車のときは押し倒しそうになった。
まだ14歳の少女に抱く感情じゃない。
「可愛すぎるのは罪だ………」
これから先、彼女はどんどん女性になり魅力を増すだろう。
自分だけじゃない。いろんな男が彼女に懸想し惹かれていくのは間違いない。
「なんとか婚約者になれないだろうか………」
デートを通してわかったことは、自分に異性としての好意は持っていないと言うことだった。
何故かはわからないが、絶大の信頼を寄せてくれているのはわかった。
でも手を繋いでも馬車で抱きしめてしまったときも照れも恥ずかしさも感じなかった。
「なんとか意識してもらわないと」
デートを通してますます彼女が好きになった。
出られない沼に沈むように彼女を欲している。
「逢いたいなぁ…………」
まだ別れて数時間しか経っていないのにそんなことを思い、彼女を思い浮かべては鼓動が激しくなった。
人を好きになると愚かになる。
それを実感している。




