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残っていた力4

しばらくウルフに動きはなく、ただ馬車を見つめていた。


その時………


『やはり貴女様だったのですね』


脳内に直接声が聞こえた。


誰の声?


セイウスでもバルトでもない。


となると………。


「ウルフ?」


思わず声が漏れる。


『貴女様に以前、命を救われた者です』


ウルフと思われる声が続く。


窓からウルフを確認すると、声の主は一番先頭にいる最も大きなウルフが喋っているのだとわかった。


『長らく気配を感じることができず、お礼も出来ぬまま月日が経ってしまいました。我を覚えてはおりませんか?』


ウルフといえば、アリアのときに討伐に駆り出され興奮状態を鎮めたことがあった。


アリアの聖女としての能力は治癒と静止だった。


治癒は文字通り怪我や病を治す力。


静止はどんなものでも動きを止めることができる力だった。


それは心臓も例外ではない。


つまりアリアは念じればどんな生き物でも命を奪える力を持っていたのだ。


そのため子供の護衛のみであっても問題がなかった。


アリアに勝てる者など存在しないからだ。

 

もちろん、治癒と相反するこの力は秘匿とされごく一部しか知らなかった。


黒竜討伐後、アリアが死去してから公表され国民を守る力であったと説明されたのだ。


しかし、実際にアリアが静止の力を使ったのはほんの数回だけだ。


魔獣の討伐の際には誰にも言っていないもう1つの力、対話で魔獣を説得して無駄な殺生をせずに過ごしていた。


だからこそ26歳まで生きることができたのだ。


静止の力を使いまくっていたら10歳になる前に死去していただろう。


アイリスに生まれ変わった時、治癒と静止の力がないことは確認したが魔獣に会うことがなかったので対話の力が残っていたことに気が付かなかった。


この力はなぜか魔獣にのみ使え、動物には使えない。


アイリスは目を瞑り、アリアのときに対話の力を使ったように心のなかで話しかけた。


『あなたは、馬車の前にいるウルフ?』

アイリスの返答にウルフの声が弾んだ。


『やはりあのとき、我々の暴走を止めてくれたアリア様ですね!やっとお礼を言うことができました』


『私はアリアではないの。アリアは15年前に黒竜と共にこの世を去ったわ。』


『しかし、魂はアリア様ですよね?同じ匂いがします。15年間、感じることの出来なかった香りが街からして嬉しさのあまり街に出てきてしまったのです』


ウルフの騒動はアイリスのせいだったらしい。


公爵邸と学校以外に外に出ていなかったせいだろうか?しかし、花まつりには毎年馬車の中から参加していた。


『どうして今日まで気が付かなかったのかしら?』


『それはわかりません。ただ、数日前にどうしても貴女様に伝えたいことがあり探していたのです。』


『伝えたいこと?』


『はい。青龍が貴女様を探しています。黒竜と違いおとなしい龍ですが思い込みが激しいのでどうかお気をつけ下さい。』


青龍…………黒竜との最後の会話を思い出す。


優しい目をした黒竜は青龍を死ぬ直前まで気にしていた。


『それを伝えるために馬車を停めたの?』


『それもありますが、あの時のお礼を渡したくて姿を見せました。ここに置いておきますので受け取ってください』


ウルフはそう言うと何かを地面においた。


そしていっせいに頭を垂れた。


『この石は困ったときに貴女様をお守りすることでしょう。どうか今世は幸せでありますように』


それだけ言うとウルフは馬車に背を向けて去っていった。


「セイウス様!ウルフが立ち去っていきます。馬車を動かしますね」


バルトの言葉にアイリスは慌てて


「あの!ウフルが地面に何か置いていったみたいです。取ってきてもよろしいでしょうか?」


と聞いた。


セイウスは驚いて


「駄目に決まっているでしょう!」


とかなり強く否定した。


「でもどうしても取りに行きたいのです!」


このままここを去ればウルフからのプレゼントを手に入れる機会はなくなってしまう。


外に出たことのないアイリスにはここがどこなのか、全くわからないのだ。


まっすぐに見つめるとセイウスは小さく息を吐いた。


「それでしたら私が取ってきますから、アイリスさんはここにいてください」


セイウスはバルトにまだ動かないように指示を出して、外に出て地面に落ちていた石のようなものを拾ってきてくれた。


「まぁっ!」


セイウスの手の中にあるものを見てアイリスは思わず声をあげた。


ウルフが置いていったのはとてもきれいな紫の宝石だった。


研磨されていないのに、キラキラと輝き傷ひとつない。


「アメジストかしら?」


アイリスは紫の髪と瞳のため、アメジストをよく買ってもらう。しかしアメジストとは少し違うようだ。もっと透明度が高く美しい


「これは………パープルダイヤモンドではないでしょうか?」


「パープルダイヤモンド!?」


アイリスも持っているが希少性が高いためとても小さいものだ。しかし、セイウスの手にあるのはピンポン玉くらいの大きさがある。


「こんなに大きなパープルダイヤモンドは初めてみました」



「私も初めて見ましたよ。ウルフからのプレゼントですかね」


セイウスはアイリスの手にバープルダイヤモンドを乗せた。


「きれい………」


どうしてウルフがこれを渡したのか分からないが、大切にしようと思った。


馬車はゆっくりと公爵邸に向かって進みだした。


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