7.エレノアside
「ユ、ユーディーさん。」
「ん、どうしたの?エレノア。」
婚約破棄されて、王都追放されてからかれこれ1週間経った。クラマの森に追いやられた時はどうなるかと思ったけれど、ハーロックのおかげでなんとか無事やってこれてます。
最初はハーロックのことを少しばかり恨んでいた部分もあったけれど、今ではお礼を言えるくらい感謝している。ハーロックが何を考えて、着いてきているのかは分からないが、でもきっと、私はハーロックの望むような絶望した顔を向けることはもうないだろう。なら、ハーロックの目的はもう達成されないということで、ハーロックが私についてくる意味はないことになる。だから、あの時お別れを決意したのだ。
『ありがとうございました。』
そうすれば、ハーロックも私から解放されて、今までと同じように学園や実家に戻れるから。まだ若い貴重な時間とお金を私なんかに宛てがうことはない、そんな意味も込めて、お別れを決意したのだ。
それは少し寂しくなるし、頼れる相手もいないから心細いけれど、きっと大丈夫。世の中はなるようにしかならないのだから、例え餓えて死ぬような事態になったとしてもそれが私の運命だと受け入れようと思う。
できれば今度こそはいい相手を見つけて、慎ましくても幸せな結婚生活を送りたいものだけれど。男運がない私には、きっとろくな相手は見つからないだろう。
「エレノア?おーい、エレノア。」
ふと我に帰る。目の前には心配そうに私の顔を覗き込むハーロックもといユーディー=ハウランの姿があった。
結局、お別れしようとしているのに気づいていないのか、あの日ハーロックはスルーし、今もなお私のそばにいる。もしかしたら鈍い彼には、遠回しな言い方はせず、ハッキリ言った方がいいに違いない。けれど、あれからなかなか再び言い出せる雰囲気ではなく、今になってしまっている。
「も、申し訳ございません。つい。」
「いいよ、ぼぅっとしているエレノアを見るのも楽しくてすきだから。」
「ねぇ、それよりエレノアのスイーツ美味しそうだね。1口頂戴?」
「新しいのを注文しては?」
「うーん、そんなには要らないんだよね。味が気になるだけで。」
「ユ、ユーディーさんのお金なんだから、お好きにとっていただければ。」
本当はマナー的にアウトな部分ではあるけど、私はもう貴族ではないし、ここは庶民的なお店なのだ。何も気にすることはない。
「ありがとう、じゃあ1口貰うね。」
そういうと彼は、フォークを持っていた私の腕をつかみ、自分の方に近づけ、私が口付けて食べていたフォークからケーキをとったのだった。
「な、なにを!?」
「あ、美味しい。桃はやっぱり美味しいよね。」
「話を聞いていますか!」
「今食べていいっていったでしょ?」
「言いました、言いましたけれど、私のフォークから、その。」
こんなの間接キスではないか。婚約者でもなんでもない人とこんな、夫婦ですらしないようなことを…
顔が赤くなってしまうのを感じる。そんな私をニコニコと見つめるハーロック。なんだか、こんなことで慌てふためいている自分がバカみたいだ。
そう、いつもだ。私だけが慌てふためいて、ハーロックは余裕そうに笑っている。背中の怪我の時も、今だって。たまにはハーロックも私の気持ちを味わいなさい。という意味を込めて、
「ユ、ユーディーさん、指にクリームがついています。」
と彼の指についたクリームを舐めとるのだった。
ふと我に帰ると、淑女としてどうなんだと後悔したくなるのだけれど、
ガタン
椅子から落ちた真っ赤なハーロックの姿をみたら、その後悔も消え失せていった。
確かにこれは、病みつきになるかもしれない。