6.アルフレッドside
エレノアと初めてであったのが、確か7歳の頃だったか。金に輝く真っ直ぐツヤツヤとした髪、バラの大輪を思い浮かべる笑顔。色々なご令嬢と会ったことはあるが、彼女より美しい人は今まで居なかった。一目見て、俺の心は初恋という名の雷に打たれてしまったのだ。
公爵令嬢というもあり、トントン拍子に決まったこの婚約。正しく運命だとは感じていた。
なのに、なぜこんな風になってしまったのだろうか。思い出すのは、涙をながしながら公爵夫妻に謝るエレノアの姿。ーーー見とれてしまった。
久しぶりにみたエレノアの泣いている姿は、なんというか、綺麗だった。まるで女神が愛の雫をこぼしているかのように、綺麗で美しく、見とれてしまった。
「アルフ様!」
「イリス。」
エレノアとは違うピンクブランドの髪。エレノアとは違う高く甘えた声。なにもかもエレノアとは違う。
『アルフ様。』
今になって、エレノアを追い出したことを後悔している。無性に、無性に、エレノアに会いたい。会ってきっと柔らかでどこかいい匂いのするエレノアを抱きしめてみたい。
きっと驚くだろう。そして今頃になってなんだと俺を責めるだろう。でも、最後に彼女は抱き返してくれるのだ。遠慮がちにだが、しっかりと。そして、頬を赤くして。
「なぁ、イリス、本当に、本当にエレノアがやったのか?」
「え?」
「俺はエレノアがやったなんて未だに信じられない。」
「アルフ様もみたでしょ?あの証拠の数々を。」
言葉が詰まってしまった。実際、イリスが提示した証拠はバッチリだった。だから、俺もイリスを信じてしまったがら、でもあのエレノアがそんなことをするか、未だ確信がもてない。
「その証拠はイリスが集めたのか?」
「え、いや。」
「なんだ?ハッキリ答えよ。」
「その、私ではないんです。ある親切な方が私を見かねて手伝ってくれまして。これは全部その方が。」
「親切な方とは?」
「えっと、誰だったかしら。あまりに印象無さすぎて。でも、下級貴族の令息でした。」
なんだ、その曖昧なやつは。というかイリスは手伝ってくれた協力者の身元もハッキリ覚えてないのか。
「他に特徴は?」
「…申し訳ございません。あまりに辛いことだったので、早く忘れようと必死でしたので。」
「その男と最後に会ったのはいつだ?」
「告発する1週間前ですね。全ての証拠を揃えたといって、私に渡してくれたんです。確か、その時最後に協力できて良かった。学園をやめて領地に戻るという風なことを仰っていましたので、もう学園にはいないかと。」
なんだ、その男は。怪しすぎないか?証拠を捏造しても不思議ではないぞ。よくそんな身元不明の男を信じられたな。
と内心では思いつつも、決して言葉にすることはしなかった自分を褒めて欲しいくらいだ。
「それより、いつ婚約発表をしてくれるのですか?」
「あーそのことなんだがな。母上に酷く怒られてしまって。今揉めているとこなんだ。」
「え?何故ですか!」
「父上には了承をもらったのだが、母上には一言も話さず、エレノアとの婚約破棄、貴族籍の返上からと王都追放をしてしまったからな。」
「そう、なんですか。」
「母上が婚約発表前にイリスに会いたいと言っていたから、母上と会ってくれないか?」
「私、頑張ります!」
「ありがとう、イリス。」
ようやく話が落ち着いて、満足したイリスと別れた後、
「エレノアの跡を追ってくれ。見つけ次第、保護して別荘に連れて行ってくれないか。」
と指示をだした。
きっと1人追い出されて、空腹で酷い生活を送っているに違いない。やはり、長年連れ添った婚約者だけに、情もあるし、なによりエレノアに会いたい。それだけだった。