5.ユーディーside
「おい、ねーちゃん。1人かい?飯奢るから、俺たちと一緒に食事しねーか?」
「いえ、大丈夫です。」
「まぁ、そんな固いこと言わねーでよ。、ほら、行こうぜ。」
「あ、の。私、」
「僕の連れなんで、さっさと手を離してくれないかな。」
「ハウラン様。」
「ちっ。」
全く油断も隙もあったもんじゃない。少し目を離しただけで、何人の野郎に声かけられたことか。まぁ仕方ないか、エレノアは美人だし、隠しきれない気品さが出てしまっている。
まぁそういう輩は追い払えばいいから何ら問題ないんだが、1番怖いのがぽっと出の野郎にエレノアが惚れてしまうことだ。
もし、エレノアの口から誰々が好きなんて言葉が出たら俺は…
まぁ俺には止める権利もないんだけどな。どの面下げてそんな、セリフが言えるというのか。それに今の俺たちは、夫婦でもなんでもない。赤の他人なのだから。
「大丈夫、エレノア?」
「ええ、ありがとうございます。」
「街は危険だからね。変な奴に着いてっちゃだめだからね。」
「何回も言わなくても大丈夫ですよ。子供じゃありませんから。」
気分を害してしまったのか、少しふくれっ面なエレノア。本当に可愛すぎる…
王太子の婚約者として、厳格に完璧にこなしてきた彼女は、外面用の笑みを浮かべても、心からの笑みを見せることはなかった。社交界でも、学園でも。
1度気になってリクア侯爵家に使用人として、少しだけ入り込んだことはあるが、彼女は屋敷でもそうだった。
使用人ならまだしも家族に対してもどこか遠慮していて―。
そんなエレノアが、笑ったり、照れたり、ましてやふくれっ面をしている姿を間近でみれるなんて。俺は、ついているとしかいいようがない。
「そんな怒らないでよ。さぁ、ご飯いこう。今日は何食べようか。」
「怒ってなぞいません…ハウラン様、常々思っていたことがあるのですが。」
「ん、なんだい?」
「私、働きたいと思っていますの。」
「え!?いきなり、ど、どうしたの!」
いきなりのエレノアの告白に、自分でもびっくりするくらい驚いている。
前世も今世もお嬢様の彼女が、王都追放されてかれこれ、3日で働きたいと言い出すなんて。彼女だったら、パン屋でも飲食店でも立派な看板娘になれるだろうな。いや、ダメだ!今でさえ変な奴らに目を付けられているのに、働きだしなんかしたら、客という名の野蛮人に何されるか…
「私、ハウラン様にお世話になってばっかりで。食事や宿も全て払っていただいてますし。それに、私はもう平民ですから。これからは1人でやっていかないといけないですもの。ただ、働く、というのもどうすればいいか分からなくて。まぁ、貴方に伺うのはおかしいと自分でも思いますが、でも、その、相談する相手もいなくて。」
「僕のことは気にしないでよ!僕のせいで、こんな状況になってるんだし。だから、エレノアは何も気にしないで欲しい。」
生粋のお嬢様のエレノア。それなのに、人を宛てにすることはなく、自分でなんとかしようとするその心の強さ。やっぱり彼女は見た目だけでなく、内面までも気高く美しい。
「ハーロ、ではなくて、ハウラン様のせいではないことは分かってます。いえ、分かっているというか、その、本当はこうなって良かったと思ってるのです。私はようやく自由になれましたから。最初はつい当たってしまいましたが、貴方が気に負うことは何一つありません。むしろお礼を言わないといけなかったのです。ありがとうございました。」
ふと気づく。彼女は一線を引いて、ここで俺と分かれようとしている。分かれて、1人自分の道を進もうとしている。
本当馬鹿だな。せっかく僕という金づるがいるのだから、大人しく寄生してくれればいいのに。その方がどれだけ楽か。
どんなに消費しようが彼女が喜ぶなら止めないし、そのためなら何をしてでもお金を稼ぐし、俺の手元にいると約束してくれるのなら、例え愛人を何人囲おうが許容するつもりだ。
でもきっと、その言葉を告げたところでエレノアはうんとは頷かないだろうね。