4.エレノアside
陽の光を感じ、朝起きると、目の前にハウラン様の顔があった。
「ちょ、え!?」
離れようとするも、強く抱きしめられているみたいで離れることができない。
お父様以外の異性の方とこんな間近で顔を合わせることなんてない。婚約者であるアルフ様も含めてだ。なんだかドキドキする。
離れようにも離れられなくて、仕方なく寝ているハウラン様の顔を眺めることにした。
ハーロックとは似ても似つかない顔。でも、私には分かった。彼がハーロックということに。まさか、彼も記憶があるとは思わなかったけれど。
「そんなに僕のこと見つめて、惚れた?」
「なっ!訳ないでしょ!起きてたならさっさと手を離しなさい!」
「あは、怒ったエレノアも可愛いね。さーてと、朝食にしようか。」
「え?」
大きな大きなイノシシ。これはクラマの森の中で気をつけなければいけない野生動物上位にはいる危険種では無かっただろうか。
そんな危険種を口ずさみながら調理していくハウラン様に少し引いている自分がいる。
「いつ、捕まえに?」
「ん?捕まえたんじゃないよ。自分からノコノコとやってきたんだよ。」
もしかして私達を襲いにやってきたイノシシを反対にやっつけた?
こんな大きな動物を!?一体どうやって…
「もう少しでできるから待ってて。」
ハーロックは誰もが認める美形で、そして優秀だった。ハウラン様はハーロック様には見劣りするかもしれないけれど、その優秀さは失っていないみたい。なのにハウラン様がご令嬢にもてはやされる姿も、噂も聞いた事がない。やっぱり人は顔が1番なのだということを改めて思い知らされる。ハーロックの想い人も可愛らしく、美しい人だった。侯爵令嬢である私が嫉妬するほど…
「エレノア?できたよ?」
「なんでもありませんわ。ありがとうございます、ハウラン様。」
私をこんな目に合わせた元凶だというのに何故お礼を言っているのだろうか。何故…私を助けたりするのか。
そんなことは出来たてのスープを飲んだら、すっかり頭の中から消えていった。それぐらいボアのスープは美味しかったのだ。それにしても調味料や毛布といい、準備も万端すぎるでしょ。
「これ食べたらここを出て、街にいこうか。」
「ここはクラマの森ですわ。そんな簡単に出られる訳…」
迷いし森。1度入り込んでしまったら、なかなか出られないと言われる獣の巣窟クラマの森。そう簡単に出られるわけ、と思っていたのだが、
「やっぱり周りが木だけだと流石に飽きちゃうよね。」
ハウラン様の示す方向に進むこと何時間。お昼すぎには森を抜け出すことが出来ていた。
「貴方、本当に何者ですか。」
「聞かずともエレノアはよく知ってるじゃないか。」
知っている?よく貴方がそんなことが言えるわね。
「…私は、貴方のことだけではなく、ハーロックのこともよく知りません。形だけの元妻でしたもの。」
顔を合わせる度に、微笑んでくれたけどそれは見せかけの笑顔だっていうことを私は知っていた。だってあの子といる時のハーロックは、声を出して楽しそうに笑っていたから。
「良かった。なら、僕のことをいっぱい知ってもらえたら、ハーロックに勝てるわけだよね。」
ハーロックに勝てる?この方は何を言っているのかしら。そう考えたら、笑いがこぼれてしまった。
「ふふ、自分と争ってどうするのよ。それに勝ち負けなんてないんじゃないかしら。」
「━━━━━━━。」
ハウラン様は小さく何か言っていたが、ハッキリ聞こえず、聞き返しても教えてくれなかった。