2.エレノアside
「私、あの人と結婚したい!」
本気で好きだったのだ。ちょうど彼にも婚約者などはいなかったので、話はトントン拍子にすすんでいき、早い段階で結婚することはできた。できたのだが、
彼は平民の女の子と関係を持っていたらしく、それは私と結婚しても変わりなかった。愛の言葉を嘯いてくれるものの、その言葉に感情はこもっておらず、結局彼が私に1度も触れることはなかった。
※※※
「ん、ん。」
目覚めは最悪だった。体が痛いし、地面はヌルッとしていた。服も泥だらけ。一体なにがあったのだろうか。
確か、王宮からの使いで私を王都の外まで送るという馬車にのったはずだった。そして着いたと言われて降ろされた場所がこのクラマの森で…そうだ降りないと抵抗したら馬車から落とされたのだ。
『この罪人が…』
アルフ様の指示なのかしら。人前では、王都追放だけですませたものの、本当は私を殺したいのかもしれない。
本当、私って前世も今世もろくな男に出会わないわね。
あの令嬢が言っていたことに私は何一つ見覚えがなかった。確かにアルフ様と仲が良すぎることに忠告はしたことはあるけれど、暗殺未遂だなんて…
でも、私はその罪を受け入れた。なぜならそうすれば自由が手に入るかもと思ったからだ。
あの王妃も、あんな令嬢に心を許してしまう、アルフ様にも嫌気がさしていたから。
だからもういいやと思って、私は反論すらしなかった。
けれどこうまでくると話は別だ。私はこれでも公爵令嬢で、アルフ様の婚約者。だから色々考えて追放か、教会行きだろうとは思っていたのに、まさかクラマの森に置き去りにされるなんて。山賊すら恐れる獣だらけの森で、武器ひとつない女が置き去りにされたら私の行き着く先は…
(本当、男運がないわね、今も昔も。)
「あ、起きた?」
「ハー、ロック。何故、ここに。」
「本当、手荒だよね。大丈夫だった?エレノア。」
「質問に答えてください、ハーロック。」
「ハーロックじゃなくて、ユーディーね。」
そうだ、ハーロックっていうのは前世の彼の名前で。今の私はエレノアだ。少し考えて、呼び名を変えることにした。
「…ハウラン様。何故貴方が?」
「ユーディーがいいんだけど、まあ今はそれでいいか。答えは簡単だよ。馬車にのるエレノアを追っていたから。」
「追っていたって。」
「影からひっそりついていくくらいならいいでしょ?って言ったじゃん。だから、」
「もしかしてずっと監視してたの?」
「監視じゃなくて見守りだよ。でもまさかびっくりしたよ。エレノアの乗った馬車がクラマの森方面にいくなんてさ。本当、酷い奴らだね。一瞬エレノアを見失ったんだけど、無事に見つかって良かったよ。ほら、魚捕まえてきたんだ。食べよう。川もあるけど、先に洗い流す?」
自分の格好を思い出す。体もネチャネチャしているし、できるなら洗い流したい。でも数少ない荷物もどこかにいってしまって、着替えの服もないし、なによりあのクラマの森で水浴びなんて。
「大丈夫だよ、なにかあったら俺がなんとかするし、あと、はいこれ。エレノアのでしょ?」
「わ、たしの。」
「途中投げ捨てられてたから拾っておいた。」
「あ、りがと。」
なんて惨めな女なのだろうか。1人で大丈夫だと意気込んだくせに、結局ハーロックに助けられているし、こんな状況でも焦りもしないハーロックの姿に安心している自分がいる。本当に惨めで愚かな女。
「エレノアー、大丈夫?」
「えぇ。」
それにしてもハーロックがわからなさ過ぎる。何故今になって私に構うのだろうか。本当に私を愛して、いやそんな筈ないか。なら、残るのは私が苦しむ姿を間近でみたい。きっとそういうことなのだろう。
かつての結婚相手が次期王妃になろうとしているのだ。それに比べて自分は子爵家の三男。妬まないはずがない。だから彼は私を貶め、下に引きずり下ろそうとした。そしてその作戦が成功した後は、私が苦しむ姿を間近で見るためにそばにいるに違いない。まぁでも今はそれでいい。1人じゃなくて本当によかった。