17.エレノアside
―エレノア10歳―
「どうして、エレノアお嬢様はあんなに邪険にされているのかしら。流石に可哀想だと思うんだけど。ねぇ、どう思う?リバ。」
「貴方ね、他所様のお家の事情に首突っ込んではダメよ。」
「でも、エレノアお嬢様が可哀想じゃない。今日だって、旦那様と奥様とローズお嬢様は仲良く演劇を見に行ってるのに、エレノアお嬢様だけ1人…」
私以外家族は皆出かけているし、私がここに来ることはない。そう思っていて、2人とも口が軽くなっているのだろう。
「仕方ないんじゃない?だってエレノアお嬢様は、もしかしたら旦那様と奥様の子供じゃないかもしれないもの。」
たまたま散歩と称し、こちら側にきていた私は扉越しに2人の会話を盗み聞きしてしまった。
「え!どういうこと?」
「し、声が大きい。他の人に知られたら大変なんだから。」
「ご、ごめん。で、どういうこと!?」
リバという女性は、先程より声の大きさを抑え、話し始めたが、神経を尖らせ聞き耳を立てていた。
その時初めて知ったのだ。私がどういう存在かと。
お父様にはお兄様がいて、そのお兄様が最初は跡継ぎだったらしい。お父様はそのお兄様の補佐をしながら2人で、このリクア家を守ろうとしていた。そしてある日のこと、新婚ホヤホヤのお父様だったが、仕事で3日くらい家を離れなければならず。
トントン
「レイリー。夜分遅くすまない。俺だが。急ぎの話があるんだ。」
「まぁ、どうしたのですか?お義兄様。」
「ずっと、ずっと諦めようと思っていたのだが、諦めきれなかったのだ。すまないレイリー。」
「お義兄様?一体どうしたの、キャー!」
どうやらそのお兄様はずっと弟の妻であるお母様に恋慕の情を抱いていたらしく、お父様が居ないその間に、一線を越えてしまった。
その事を帰宅したお父様が知り、お兄様を無一文で追い出したらしい。そして、お父様かお兄様の子供か分からない時期に私が生まれたと。
だから母は私を見る度に、気分を悪くしていたのだと今更ながら理解する。少しでも私に触れたあとはよく吐き気を催していたから。
父も、愛しの母を穢したお兄様の子供であるかもしれない私を、どう扱っていいのか分からなかったのだ。
2人にとって私は出来れば闇に葬りたい存在に違いない。そんな私を生かしてくれるだけでも有難いと思わないと。
だからなにも望んではいけない。家族の愛が欲しいとか、一度でもいいから私もあの輪の中に入りたいとか…願ってはいけないのだ。